11-9「風呂上り」

 風呂上り、着替えて外に出るとコールの掌の上でダイヤ達を待つ。数分ほどして


「ああ、こりゃ失敗したな」


 コールが白い息を吐きながら独り言のように言う。


「何が? 」


「待ち時間だよ、姉さんはこういうの長いからな。もう少しゆっくり入るべきだった」


「なるほど」


 言われてみればダイヤ達もこれほど早く風呂から出ることはなかったような気がする。しかし、湯冷めもあるから外で待つのは身体にも悪いだろう。


「ポケットにでも入れてくれれば大丈夫だから中戻る? 」


 俺が提案するとこちらを見ずに言う。


「馬鹿、それでお前がつぶれたらどうすんだよ」


 意外と義理堅い男だ。そもそもこの状況になったのは俺の責任だ。小さいとはいえ待合室に座りながら掌にゴブリンを置いていると変に目立つという理由で出てきたのだ。


「ごめんな、それと色々とありがとうな」


 そのことをコールに謝罪してそれと湯に入れてくれた礼を言う。するとコールは気味悪そうに身体を震わせた。


「別にいちいち礼を言われることじゃねえからやめろよ、気持ち悪い」


 この反応は喜んでいいのだろうかと俺が悩んでいると突如笑みを浮かべた。


「まあ、でもそういうなら礼はこの後貰うからな」


 何を要求してくるのだろうこの男は。金か? 剣か? 命か? 俺が悩んでいるとガラガラと扉が開きスペード達が姿を現す。


「おう、悪いトオハにコールさん、待たせたな」


 先頭を歩いていたスペードが手を上げる。


「なんだい、待合室で待ってりゃ良かったのに」


「……待合室だとタアハは目立つ……ってことかな」


「確かに、クローバーちゃん達ならともかくコールみたいなムサイ男が小さなゴブリン片手に座ってたら悪い意味で目立つねえ」


「そこまで考えが至らず申し訳ありませんトーハさん、コールさん」


 レイズさん、クローバー、ダイヤと次々に店から出てくるとそう口にする。心なしか4人の距離が近くなって仲良くなっている気がするのは気のせいだろうか?


「なんか仲良くなっていないか」


 コールも同じことを考えていたようなのでこちらを見てそう呟く。


「みたいだな」


 俺は肩をすくめながら答えた。


「あっそうだ、悪かったな。トオハのことありがとよ」


 スペードがそう言って右掌を出す。確かにこれ以上コールに持ってもらうのも悪い。そう考えながら彼の顔を見るとどういうわけか微笑を浮かべている。


「おう、まあいいってことよ」


 そう答えるとコールは歩き出しスペード、さらにはレイズさんとクローバーも通り越しダイヤのところへ向かう。


「ほい、いやなんかねえちゃんが良いってどうしても言うからさ」


「ほえ? 」


 ダイヤが目をぱちくりさせながら掌を差し出す。コールは笑いながら俺を彼女の掌に移した。

 やられた、彼は初めからこれが目的だったのだ! そちらがその気ならこちらにも考えが……


「実はコールのタイプは……」


「おう、良かったなトオハ。言うようになったじゃねえか」


「……何の話をしてたの? 」


 反撃をしようと咄嗟にタイプはスペードと語ろうとするも2人に阻まれる。


「じゃあ、また会おうな」


「ちょっと、何をそんなに急ぐんだコール」


 その隙を突いてコールは状況が把握できていない様子のレイズさんを連れて走り出した。

 しまった、逃げられたか。そうはさせるか!


「ダイヤ、『小さくする魔法』の解除を」


 追いかけてコールを捕まえついでに俺も逃げようとダイヤに呼びかける。しかし、ダイヤは先ほどの出来事でフリーズしてしまったらしく顔を赤くしたまま動かない。のぼせてしまったのだろうか?


「おーい、トオハ聞いてるか? 」


「……タアハ、答えて」


 そうこうしているうちにもニヤニヤしている2人の追及が激しくなる。どうやら俺は逃げられそうにないな。覚悟をすると俺は口を開いた。


 ♥♢♤♧

「なんだ、そういうことだったのですね」


「……流石プラチナランク、常に戦闘のことを考えているんだ」


 すっかり回復した様子のダイヤが笑いクローバーが感心したように言う。間一髪のところで俺は「突如戦闘になった時武器を構える2人とは違い杖があるダイヤの元にいればすぐに迎撃ができる」というウルトラCの回答が思い浮かんだのだ。結果彼女達は疑わずに済んだようでこれにて一件落着だ。


「それで、これからどうするんだ」


「買い物に行こう。フェンリルとの戦いに備えて買っておきたいものがある」


 そう、ここに来た目的はフェンリルとの戦い、いつまでも南国気分ではいられないのだ。するとクローバーが不安気に尋ねる。


「……ボク、買いたいものがあるんだけどいいかな」


 珍しくクローバーからの提案だ。


「武器? 」


「……違う、アクセサリー」


 やはり彼女も普段は大人ぶってはいるけれどそういう年なのだろうか。アクセサリーが欲しいらしい。


「トオハは何が欲しいんだ」


「剣を2本かな」


 スペードの質問に答える。彼女の言わんとしていることは分かった。別行動だ。特に急ぐというわけでもないが別行動のほうが効率が良い。アクセサリーは俺がみてもあまりわからないしそれがいいだろう。問題は組み合わせだけれど……


「よし、じゃあ別行動にするとしてダイヤ、クローバーとアクセサリー選び。オレはトオハと武器選びだ」


 俺が悩んでいるとスペードがテキパキと小学校の頃の担任の教師のように口にした。

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