10‐13「主従関係の先には」

「嘘よ、嘘よそんなの。嘘よね? 犯人が爺や! 貴方だったなんて! 」


 女王様が涙を流しながら柵を掴み現れた老人に問いかける。


「なんだ、何の話をしている」


 その反応を見て兵士も声を荒げる。おそらくすりかわって本物の女王様が囚われているという説が本物の女王様が見つからないことによって信ぴょう性が低くなってきたのもあるのだろう。


「実はこの件は女王様が昔耳にした『変化の杖』が関係していると女王様を含め我々は考えているのです、この杖について何かご存じですか? 」


「さあ、何のことか分かりませんな」


 尋ねると老人は答える。すかさず俺は口を開く。


「それならば、その杖をほんの数秒でいい、女王様に持たせてみては如何です? それで戻らなければ貴方は犯人ではないという証明になりますが」


「ぐ……いや、まだだ……」


 老人の顔が歪むと同時に杖を俺達から遠ざけて見せた。


「爺や、違うわよね、貴方まで女王としての私を否定しないわよね」


「貴方まで……」


 老人はそう呟くとチラリと俺達に視線を移す。俺は自分の推測が当たっていることを信じて頷いて見せる。すると老人はフッと笑った。


「良いでしょう、こちらの杖をお持ちください」


 女王様は何も言わずに杖を受け取った次の瞬間、その場には青い瞳に雪のように白い髪をなびかせた女性が立っていた。やはりそうだった。老人が持っていたのが『変化の杖』だった。


「おお、女王様! とんだご無礼を! 」


 兵士が慌てて鍵を取り出すとそれを使い牢屋を開ける。しかし女王様はそれには目もくれず涙をにじませる。


「どうして、どうして貴方が」


「……」


 老人は答えない、その間にも兵士は老人を取り囲み今にも殺しかねない勢いだった。ひょっとしたら彼はこのまま全てを抱えたまま処刑を待とうという魂胆かもしれない。それも選択肢の一つだと思う。だけど、俺はそれが嫌だった。だから俺は自分の推理をここで話そうと決心をして口を開く。


「貴方がこんなことをしたのは女王様のためですよね」


「え! ? 」


 一同の視線が俺に集まる。


「まず、この結論に至った最初のきっかけは女王様の口から出た『変化の杖』の存在でした。形も分からず存在すら疑わしい杖、それを見つけようとしましたが思い起こしても杖を持っている人物は1人しかいませんでした。それは杖をついていてもおかしくはない女王様が爺やと呼んでいる老人の貴方です。そこで改めて重要なのが杖の姿形が分からないという点です。そこからあの老人が犯人であの杖が『変化の杖』だとしたら、と言う点から注目をしました」


 兵士がいる前で堂々と仲間が牢屋から抜け出して捜査してくれました、とは言えないので咄嗟に取り繕ったけれど、それについて兵士は何も指摘をしてこないのを確認して俺は続ける。


「それで老人に注目をしてみたところ、気になる点がございました、まずはドレスです。裾が地面に着いたドレスは確かに歩きにくいでしょう、裾を踏んでしまうと転ぶこともあると思います。しかし、あの我々が去ろうとしたタイミングで都合よく女王様が転ぶなんてことがあるのでしょうか? ないとはいえません。しかし、そこにいる老人が犯人でかつ女王様がゴブリンであると打ち明けた彼女にとって信頼できる人物だとしたらどうですか? 」


「確か、あの時に彼女の近くにいたのはそうですね爺やさんでした、あ! もしかして側にいたのは女王様がゴブリンであると悟られないためではなくあの場で女王様がゴブリンだと判明させるためですか? 」


 俺はダイヤに頷いて返す。


「それで、私をゴブリンにして貴方たちの前で転ばせて牢屋に閉じ込めたことの何が私のためなわけ? 」


 涙を流しながら彼女が尋ねる。


「それはですね、重要なのは我々の前で貴方が転んだということですよ。思い起こせばあの時に理由をつけて同じ牢屋に入れたのも彼です。それはどうしてか、人間の姿を見て確信に変わりました。それは、貴方がこちらのダイヤ、スペードと同じ年齢だからです。彼は無理をして女王を演じている貴方に本音で話せる友達を作ってあげたかったのではないでしょうか」


 これが俺の推理だった。全ては女王様のためを思っての犯行だった。


 パチパチパチパチ


 拍手が響き渡る。みるとそれを行っているのは老人だった。


「いやいや、お見事なお話ですな。しかし、それは全て絵空事、何か証拠があるというのですか? 」


「そうだ、その話を裏付ける証拠があるとでもいうのか」


 老人に続くように兵士が言う。老人は俺の推理を認めようとしない。悪人として裁かれるつもりなのだ

 ! 悪だったらここは何が何でも俺の案に乗ってくるはずなのに、ならば俺の取るべき行動は一つ。


「証拠はあります」


 そう言うと俺はたった今運ばれてきた料理を指差す。


「私が今からあちらにある料理を頂きます、それで毒がなければそれが彼が女王様のためにやったという証拠になるのではないでしょうか」


 そう言うと俺は兵士に料理を手渡してもらい皆が固唾を飲んで見守る中一口ずつ食べたが俺の身体に異変は何も起きなかった。


「いかがでしょうか、『変化の杖』というものを持ちながら夜はゴブリンに変装させただけに止め女王様がゴブリンになっていると発覚すると我々と共に牢に入るように計らいこのように料理に毒も入れない、と数々の謀反を起こそうと思えば起こせる機会に何もしないばかりか何も弁解せずに罪を背負って罰を受けようとしているこの状況こそが私の推理を裏付ける証拠と呼べるのではないでしょうか」


 俺の声が牢屋中に反響する。


「す、すべてあの鎧の方が仰ったとおりです。もしグリフォンを倒したのが軍隊ではなく冒険者だったらその方にセイ様の理解者になって頂こうかと考え無礼ながらもこのような行動をさせていただきました」


「だから、貴方は私に冒険者が倒した場合は迎えるようにって軍を出す前に言っていたのね。でもどうして? 私にはあなたがいるじゃない! 爺やさえいてくれればいいのにどうしてこんなことを……」


「それは……もう年だからです。いつ死んでもおかしくない。そうなるとセイ様が一人になってしまわれる、そう考えたらもうこの手段しかないと……」


 老人はそう言うと崩れ落ちひたすら涙を流した。




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