10‐12「変化の杖」
女王様、ダイヤ、スペードが再び牢屋から抜け出したことによりクローバーと2人きりになった俺は再び天井を見上げる。
「ねえ、タアハ一つ気になったんだけどいいかな」
「何」
「タアハって、もし変化の杖が見つかったらそれで人間に戻れるの? 」
「どうだろうなあ、魔力が必要って話があったから魔力0の俺じゃあダメかもしれないな」
実のところ、女王様から変化の杖の話を聞いた時に真っ先に浮かんだのはそのことだった。これで俺も人間に戻れるのではないかと、しかし魔力という単語からそれは望み薄だし今の戦闘スタイルを考えると万が一戻れてもそれきり使えずゴブリンになれなければ手放しでは喜べないというのが本音だ。そう、すでにこの旅においてはゴブリンの身体は俺にとって必要不可欠のものになっていた。理想としてはゴブリンと人間の身体を使い分けられることなんだが……まあ、そんな奇跡が起きたら素直に喜ぶことにしよう。
「そっか」
クローバーは悲しそうに言う。
「そんなに人間の姿の俺の顔が気になる? 」
「いや、タアハは不便じゃないのかなって」
確かに彼女の言う通り、この身体は必要不可欠なんて考えはしたけど不便なんてものじゃない。うっかり正体がばれてしまったらアウトなわけなのだから。ただそれでもここまで旅をしてこれたのは……
「不便だけど、まあ皆がいてくれるからさ」
そう、皆がいてくれたからだった。皆が匿ってくれたり人に話を聞いてくれたり戦闘をサポートしてくれたりしたから俺はここまでこれたのだ。
「……そっか」
今度は笑いながら彼女はそう答えた。
「よし、じゃあ時間もあるからしりとりでもやるか」
手をポンと叩いて彼女に伝える。
「しりとり? 」
彼女も興味を持ってくれたようで軽くルールを説明した。
「面白そう」
目を輝かせて彼女が言う。こうして俺とクローバーのしりとりが始まった。
♥♧
「ハンバーグ」
「ハ」で振られたのでそう答える。そしてこれは誘導であった。もう「グ」から始まるのは「グリフォン」しかないのだ!
「グリフォ……『ン』」
「よし、俺の勝ちだな」
勝ち誇って言う俺に頬を膨らませながら彼女が言う。
「まだ終わってない、『ン』から始まる言葉がある」
『ン』から始まる言葉? 漫画のキャラにはいたけれどクローバーが知っているはずはないだろう。だとするとこの世界の言葉か? まずい、意外と共通の言葉が多い故に今まで奇跡的に噛み合っていただけでこうなると分からないぞ!
「……ンガル、一応説明すると食べられる木の実の一種、これでボクの勝ち」
俺が答えに悩んでいるとクローバーが勝ち誇って言う。
「待った、俺はそんな木の実は知らない」
「ならボクもハンバーグは知らない」
クローバーが笑いながら言う。しまった、確かにこの世界に来てから『ハンバーグ』は誰からも聞いたことがない。誘導されていたのは俺の方だったのか!
「参りました」
「お、面白そうなことやってんな」
俺の敗北宣言と共に背後から声が響く。振り返るまでもなくスペードの声だった。調査は終わったようだ。
「お疲れ様、それで調査の方はどうだった? 」
彼女が肩をすくめる。
「残念ながら収穫無しだ」
「隠し通路や隠し部屋もどこかにありそうな気配はないということです」
「……」
女王様は何も言わずに顔を背けている。その様子を横目で確認してから俺は話を切り出す。
「そうか、俺は犯人が分かったよ」
「え? 」
「な! 」
「……ウソ」
「誰! 犯人は誰なの? 」
興奮した女王様が俺に顔を近づける。俺はそれを手で制した。
「まあまあ、そろそろ犯人の方から来てくれますよ」
そう言った瞬間、俺の腹がぐぅぅと音を立てる。
「なんだ……今のが犯人か? 」
スペードが呆れた様子で尋ねる。もちろん、今のはアクシデントであって犯人ではない。
「……そうか、ボク達は牢屋に入ってから何も食べてない、ということは」
「犯人がここに私たちを殺めにくるということですか? 」
「なるほど、食べ物に毒を仕込むというわけね。確かにそれなら疑われてる身で今の混乱の中なら断定もできず逃げ切れるかもしれない、考えたわね」
女王様がそう言うとともにカツン、カツンと音がする。その中に僅かにコツコツと杖を叩く音が混じっている。その音に彼女達も気が付いたようだ。
「杖の音? でもどういうこと、私たちは5人よ。ここは階段を通らないといけないから食事を運ぶには持たなければならないはず。でも1人で5人分の食事なんて持てるはずがない。その証拠に大勢の足跡がするわ、それにも関わらずわざわざ杖を見せびらかすために持ってきたとでもいうの? 」
「いいえ、違いますよ女王様。犯人は杖をわざわざ持ってきたのではありません、杖が必要なのです。そして、その杖こそが『変化の杖』なのです。スペード、言ったな。杖を持っているのは1人もいなかったって。違う、正確には1人いた。持っていることが当然という認識から気にも留めないくらいに自然に溶け込みながら」
「マジかよ、もしかして」
「あ……」
「……そうだ、ボク達もあの時見ている。会っている」
「待ってよ、貴方たちが出会っていてここに杖をつきながら食事を持ってきても奇妙でない人物ってもしかして……」
女王様も気が付いたようで頭を抱える。彼女には信じがたい事実だろう。
「そう、犯人は……我々を玉座の間の前で迎えた貴方が爺やと呼んでいる老人です」
俺がそう告げるとともに数名の兵士を率いて白髭の老人が姿を現した。
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