9-2「泥棒少女」

 手を握られた後ポケットに押し込められ視界を完全に奪われた俺は暗闇の中で彼女がせわしなく動く数十分ほど過ごした後ポケットから取り出され視界を取り戻した。


 室内はランプの光のみで薄暗く天井も低めであり元の身体だったら窮屈だっただろう。


「あの娘には悪いけどこれで今日の分は……」


 そう言って拳を開きながら満足気に俺を眺める黒いフードを取った泥棒の正体は信じ難いことに15歳くらいの少女であり服装はカーキ色のショートパンツに鼠色のシャツと動き安さを重視しているようだ。そんな勝ち誇った様子の彼女だったが手を完全に開き俺の全貌が露わになると同時に「え」と声を上げ顔を歪ませた。


「こんなのが……人気なの? あの人達一体どういう趣味をしているの? 」


 これまでの話を推理するに俺が感じていた視線は彼女の視線で彼女は俺達がこの地に立ったと同時に目をつけ首尾よく俺を手に入れたのだろう。改めて考えると耳を疑うような話だがこの状況はそう結論づけざるを得ない。彼女の唯一つの誤算は目を付けたのが金になりそうな可愛いマスコットキャラクターではなく全身ゴブリンの俺だったということだ。他の国で人気のマスコットキャラクターのグッズ何かは高く売れるのだろうけれど俺の身体は残念なことにゴブリンなのだ。ゴブリンのマスコットを好き好んでましてや高値で買うものなんてそうはいないだろう。いや、この場合風評被害で彼女たちがそういう人物ということにされてしまっているのか、それは申し訳ない。と2人に謝罪をする。


「はあ、これじゃあまた盗みに出ないといけない。でも今は彼女たちが探しているかもしれない。万が一これを売っている所をみられたら面倒だからもう少し時間を置かないと」


 俺が人形だと思い込みテーブルに置くとガックリと肩を落とし視線を逸らしたのを良いことにランプの灯を頼りに周りを伺う。ここは子供用と思える服が何枚もかかったテーブルとベッドだけがある殺風景な部屋だった。


 2人も心配しているだろうから早くここから逃げ出さなくては……


 何とか考えるもとにかく薄暗くこちらは動けないため場所の手掛かりが掴めない。こうなったら彼女達には悪いけれど彼女が眠った時にこっそりと抜け出すしか……


 時間が経ったら売りに行こうとする彼女とその間に一睡でもすればその隙に逃げようとする俺、彼女が知らない内に根気を競う戦いが始まった。


 そして────俺はこの戦いに勝利した。


 数分もしない内に彼女が服に囲まれたベッドに倒れこむとスースーと寝息をたてて眠りだした。


 今がチャンスだ! 俺はすかさず立ち上がり歩き出しテーブルを降りる。そしてざらりとした足の感触とともに一つのことに気が付いた。この部屋には扉がないのだ。今までは灯の照らせる範囲にはないのだと思っていたけれどここは本当に扉がなかった。どうやら洞窟のようで通路が続いている。


 彼女には悪いけれどここで俺はおさらばだ! といっても自他共に認める人気のなさそうなゴブリンのものが無くなったところで彼女もさほど気にはしないだろう。とりあえず合流しなくては!


 俺があるであろう出口目指して駆けだそうとした時だった。


「お父さん……お母さん……」


 寝言であろう、彼女の消え入りそうな声が耳に入った。俺の脚が止まる。


 そういえば、彼女はまだ幼いというのに何故このような場所で1人で暮らしているのだろうか?


 疑問が頭を過るも俺は勢いよく頭を振った。


 そういうことは考えるな! 今は2人と合流することだけを考えろ! しかし……


 俺は葛藤にさいなまれながら無理やり足を動かした。


 ♥~~~~~~~~~


「うっ……ん。あれ? ボク眠ってた? 」


 数時間後、彼女が目を覚ましむくりとベッドから起き上がる。結局俺は逃げなかったのだ。自分でも何をしているのだろうかと思わなくもないけれどこうなってしまったものは仕方がない。こうなった以上俺は覚悟を決めるしかない。


「よし、買い取ってもらえるか分からないけれど行ってみよう! 」


 ため息をしながら彼女が近づいてくるタイミングを見計らって口を開く。


「やあ、よく眠れたようだね」


 俺の声が辺りに響くとともに彼女は凍り付いた。


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