7-13「浴場の仕掛け」
長い通路をひたすら走り浴場であるはずの場所へと辿り着く。律儀にというべきか幻覚を見せるために公衆浴場と呼ぶにふさわしいプール程の大きさの窪みが存在する。そして、その入り口から窪みまでの間には一台の羽を広げた立派なペガサスのオブジェが存在した。
「どうみても何かあるのならこれだよなあ」
この部屋に秘密の通路の入り口があるのだとしたらその鍵はこのオブジェだろう。何かを仕掛けるとするならば人がうっかり触れないであろう物が一番だ。
そう考えた俺はオブジェ毎動かそうとしたり何処かにスイッチがないかと満遍なくオブジェを触った。
──しかし何も起こらなかった。
「何も起きない。となると受付のゴブリンが秘密を知っているのかな」
急いで受付へと戻ろうと振り返り1歩進んだ時だった。
「……ぐっ」
再び何かモヤモヤとした感覚に襲われる。
今までは何も起きなかったのにどうして? この杖には何かがあるのか? もしかして……
俺は一つ仮説を立てて再びオブジェの方向へと振り返り一歩踏み出す。すると途端に心のモヤモヤは消えた。
「やっぱりそうだ」
俺は今の行動で確信した。どういうわけかこの杖は持ち主の場所が分かるのだ! だから俺がダイヤに近づく場合は何も起きないけれど遠ざかるとそれを妨げるように心がモヤっとした感覚に襲われる。これは便利な能力だ!
とはいえ、この杖にも弱点はある。それはこういった隠し扉などの仕掛けが考慮されていない点だ。恐らくこの浴場の壁のどれかが開く仕組みになっているだろう。この杖があれば該当する壁にいくことはできるだろうけどその壁を開けるためのスイッチがどこにあるのかが分からないのだ! また方向は分かっても正確に壁のどの辺りかまでは分からないかもしれない。
「参ったぞこれは」
顔を歪めてタイルの床を見る。するとおかしなことに気が付いた。タイルに点々と血が垂れているのだ! この状況でこんなことをしたのはダイヤかスペードだろう。
これは貴重な手がかりだ! 仕掛けの場所がわかるかもしれない!
俺はタイルに落ちている血を追いながら歩いていく。すると1つの壁の前で止まった。しかしここまでの道に杖による心のモヤモヤはない。つまりここはスイッチにより動く扉だということだ。
「こうなったら、壁を壊すしか……」
一か八か力任せに壁を砕こうと爆炎の剣を構え思いっきり振りかぶった。
ブォンッ!
剣が空を切った。
「え? 」
予想外の事態に俺は目を丸くする。確かに目の前には壁が見えるのだ! それだというのに壁目掛けて振るった剣は空を切った。
「まさか、俺は難しく考えすぎていたのか? 」
恐る恐る右掌を壁へと
「やっぱりだ、スイッチとかじゃなくて何も知らないゴブリンが来ないようにゴブリンたちにも幻覚をかけてこの通路に入らないようにしていたんだ! 」
しかし、見れば見るほど幻覚とは思えない壁だ、一体誰がこんな奇妙な幻覚を……
「と感心している場合じゃない、今行くぞ! 」
俺はそう言うと爆炎の剣を仕舞い杖を構え勢いよく駆けだした。
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