7-14「救出」

 薄暗いカビの生えた石造の通路を抜こう抜けると辺り一面に砂漠が広がっていた。秘密の入り口から砂漠に出られたようだ。この街を作ったものからすればまず視界に入る街を通り過ぎて砂漠を歩くものがいたとしても知らず知らずのうちに魔王のモンスターの餌食になって万々歳といったところだろう。


 手遅れにならないように急ぎ砂漠に足を踏み入れると灼熱の太陽に熱された砂により足がヒリヒリする。夕暮れだから何とかこの程度で済んだけれどまっ昼間だったらこのままでは歩けなかっただろう。


「足跡か、これはありがたい」


 目の前にはいくつもの足跡があった。これを追えば迷わずに2人に追いつけそうだった。帰りはこの足跡を逆にたどれば間違いはないだろう。


 追いつけるように力強く砂を蹴りながら移動する。足跡を見るにロープで手を縛られた状態で歩かされているのだろう。ならばこちらが走れば追いつけるかもしれない、という単純な思考だった。


 数十分後、数百メートル先に1体のゴブリンに率いられた2人組の姿が見えた。2人とも砂漠で焼けないためか白いローブと黒いローブをかけており一本の縄で手を縛られその縄をゴブリンが持っているため抵抗できないようだ。ゴブリン1匹と襲撃に弱そうなのはこの幻想の街の仕掛け故だろう。


 顔は見えないけれど2人の姿を確認した俺は2人目掛けて一気に距離を詰め、砂丘に隠れながら先回りするとローブからチラリとみえた顔から白いローブがダイヤで黒いローブがスペードだと確認する。


「遂に持ち主に返す時がやってきた」


 そう呟くと袋から取り出した左手に鬼刀を、右手にダイヤの杖を構えて勢いよく飛び出した。


【その獲物は俺のものだあああああああ! 】


 ゴブリンの言葉でそう声をかける。


【な、なんだ貴様! この獲物のカデム様の食べ残し部分はこの係を任されている俺様のものだ! 横取りなどさせんぞ! 】


【うるさい、食らえ! 】


 狼狽するゴブリンに俺は左手に持っていた鬼刀を投げつける────も左手で投げた刀は綺麗な放物線を描きあらぬ方向へ着地した。


【ガハハハハ、どこ狙ってんだ! 】


 刀の行方を目で追いかけていたゴブリンは笑いながら振り返る。しかし、次の瞬間その顔は絶望のものに変わった。


【な、何でお前が武器をもっているんだ! 】


 振るえる指で杖を構えているダイヤを指す。そう、俺はゴブリンがスペードの刀に気を取られている隙にダイヤに杖を投げていたのだ。


【妙な真似させるか、こっちに来い! 】


「『ミニムァム』! 」


 ゴブリンが縄を引くより早くダイヤが縛られている腕で器用に杖を持ち呪文を唱える。すると彼女は即座に小さくなり縄を抜け、すぐ元の大きさに戻った。


【な、なんだ……何でお前縄から抜けたんだどうやった? 】


「おう、来てやったぜ! 」


 ゴブリンが縄を引っ張ったことにより一人引き寄せられたスペードは状況から推測したのか奇跡的に会話が噛み合ったのかは定かではないがそう言うと思い切り蹴飛ばした。


【ぐあっ! 】


 ゴブリンはそう言うと宙を舞い尻もちをつく。その隙に俺は2人に駆け寄ると爆炎の剣で2人の縄を切った。


「遅れてごめん、ちょっと仕掛けを見破るのに手間取って」


「トーハさん、来てくれるって信じてました」


 ダイヤが涙を拭いながら言う。


「ま、血でヒントを残しておいたオレのお陰だな」


 スペードが指の血を拭いながら付け足す。


 俺達3人は数時間ぶりの再会を称えるように抱き合った。





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