7-3「この旅が終わったら」♢

 スペードさんと門を潜って石造りの建物を眺めながら広い通り道を歩いて王宮を目指す。ニンビギとは違ってトーイスの場合はこのまま直進をすれば王宮にたどり着くようだ。


「こりゃ楽でいいな」


 そう言いながらスペードさんは周りをキョロキョロと見まわす。この辺はレストランに武器屋、食べ物屋と盛んだ。この通りを通るだけでショッピングを済ませることができるかもしれない。


「あ」


 ふと目が止まる。そこには一着の綺麗なピンク色のドレスが飾られていた。


 今はオシャレとはほとんど無縁だけれどいつかこの旅が終わった時に着てみたい


 ふとそんな考えが頭をよぎった。


「お! 」


 スペードさんが何かを見つけたようで視線を向けるとどうやら彼女もドレスを見つめている。


 スペードさん、可愛いから私よりも似合うかも……


「行ってみようぜ! 」


 そう言うと突然スペードさんが私の腕を掴んでドレスの方向へと歩いて行った。


「スペードさん、トーハさんをディールさんに預かってもらっているのですから寄り道をするのは」


「分かってるって、見るだけだからよ! 」


 そう言った彼女に引っ張られるまま私はドレスが飾られた古着屋…………の隣の武器屋へと辿り着いた。


「おおー、すっげえこの剣炎みたいな赤い剣の所々に金色が混じって恰好良いなあ」


 彼女は身を乗り出して剣を見つめる。その姿に驚いた私は思わずドレスを指さしながら声をかける。


「す、スペードさんはあのドレスとか欲しいとか思いませんか? 」


「いや、オレには似合わねえだろああいうのは」


 彼女は何食わぬ顔で即答する。


 プツン、と私の中で何かが切れた。


「そんなことはありません! すみません、こちらのドレスもっとよく拝見させていただいても宜しいでしょうか? 」


 私が尋ねると店員さんが来て服を取りだしてくれる。私はそれをスペードさんの身体にあてるとすかさず持ってきてもらった鏡でドレス姿を彼女に見せる。


「あ……」


 スペードさんがドレスに似合ういつもよりも高い驚きの声を上げる。


「クスッ、やっぱりお似合いですよスペードさん」


 私は彼女にそう言うと店員さんに声をかけた。


「すみません、このドレスください」


「ありがとうございます、2万ゴルドになります」


「おい、ダイヤ! 幾ら似合うったってこれをもって旅をするっていうのは」


「大丈夫です、私が『ミニマァム』で小さくしておきますから持ち運びには困りません」


 彼女に小声で囁く。


「でもよお……」


 彼女の顔を赤らめながらの制止の声を聞かずに私は会計を済ませた。


 私たちは買い物を済ませると再び王宮を目指して歩く道を再開する。


「買ってもらって悪いんだけどよ。こんなオシャレな服今後着る機会あんのかな? 」


 スペードさんが小さくなったドレスをまじまじと見つめながら呟く。


「良いではありませんか、例えば魔王を倒したときとかに良いと思いますよ」


 スペードさんが唸る.


「あー、魔王を倒した後か。そういえばそのときのこと考えてなかったな。うん、そうだな! それはいいな! 」


 顔を赤らめながら話す彼女を見て微笑む。するとスペードさんと目が合った。


「それで、ダイヤは何がしたいんだ? そこまで言うのなら考えてあるんだろ」


「え」


 思わぬ反撃ともいえる質問に思わず言葉が詰まる。


 私がしたいこと……何だろう?


 歩きながら考える、平和な世界で私がしたいこと────1つだけ浮かんだ。いや、今の私にはこれが全てに思えた。


「私はトーハさんとこうやって街を歩いてみたいです」


 スペードさんに伝えると彼女はにっこりと微笑んだ。


「んじゃあ、さっさと魔王を倒しちまおうぜ! 」


 力強い彼女の言葉に応えるように私は力強く頷いた。

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