6-8「最上級槍使いとの闘い」

 男たちとは正反対の方向の木々目掛けて駆け出した俺と男の目が合う。


「何だ、向ってくるのかと思ったら逃亡か。こっちも余計な手間が省けて楽でい……い! ? なにいいいいい? 」


 男が突然この世のものとは声を発したかと思うと真っ直ぐに俺を指差した。


「いた! いたぞ姉さん『顔に傷のあるゴブリン』! あのゴブリンに違いねえ! 」


「だったらさっさと追いな! 」


 白い服に身を包んだ者とは思えない乱暴な言葉遣いが聞こえたと思ったのも束の間、男が槍を持ちながら猛スピードでこちらに迫ってきた。


 嘘だろ……


 驚愕する俺などお構いなしに男は俺との距離をグングン縮める。前を見ると何とか洞窟付近の見晴らしのいい場所は越え木々の中に入り込めそうだ。俺は更に足を速めて木々の中へと突入すると木々を通り抜けながらも逃走を開始する。


「逃がすかぁ! 」


 言葉通り猛スピードで木々を通り抜け俺に追いついた男は槍を俺目掛けて突き刺す。


「ギッ! 」


 俺は咄嗟に振り返り何とかその一撃を剣を振ることで防いだ。しかし、このまま走ってもスピードは男の方が上で追いつかれるのは必至だ。


 だったらもう、奥の手にかけるしかない!


 決心して走るのを諦め剣を構え男と向かいあう。


「ほう、賢明な判断だな」


 男はそう言ってニヤニヤ笑いながら槍を構えた。


「覚えておきなゴブリン、オレはコール! お前の命を奪うものだ! 」


 そう言うと一気に襲い掛かってきた。


「そらっ! 」


 胸を一突きにしようとしたのを剣で何とか掃う。身長差からある程度攻撃は予測できるので何とか掃うことができたけど何という強力なパワーだろう。


「ほう、やるじゃねえか! 」


 コールはそう言って右上から左上からと何度も何度も槍を突き刺そうとするもすべて弾き返す。


「おうおう、苦戦しているようだねコール」


 そこに追いついたのか女性が声をかけた。


 まずい、1VS2は危険だ!


 隙を見て逃げ出そうと試みるも困ったことにこの2人には隙が無い。背を向けたところを一刺しにされてしまいそうだ。女の声にコールは面倒そうに言う。


「まあ、見てろってレイズの姉さん。手出しは無用だぜ! 」


 言い終わらないうちにコールは再び俺に向ってくるも再びすべての槍を弾き返した。


「へっ、ゴブリンのくせにやるじゃねえか」


 コールが感心したように鼻を鳴らす。彼が余裕なのはそのはず、こちらには反撃の手段がないのだ! というのも槍のリーチに背丈に繰り出す速さとこちらが反撃する暇がないのだ! レイズという女は手を出さないようだけれどこのままでは負けもなければ勝ちもない状態で業を煮やしたレイズがいつ撤回して参戦してくるかも分からない。


 こうなれば一か八かの策しかない!


 俺は喉を鳴らしてコールを見つめる。そしてコールが繰り出した槍を剣で弾いた瞬間、俺は口を開いた。


「俺の名は阿藤踏破、よろしくな」


「何……? 」


 ゴブリンである俺が人間の言葉を喋ったのを聞いてコールが怯んだ。前に似たように人間の言葉を話して驚いている兵士たちから逃げ出したことがあったが、彼らより戦闘経験があり戦闘面で優れているであろうコールにも人の言葉を喋るゴブリンというのは珍しいようだ。


 これこそが俺の切り札だった。この一瞬の隙を見逃すなんてことはない!


 俺はすかさず飛び上がるとコールの腹目掛けて蹴りをかました。


「ゴフッ……」


 コールは勢いよく木に叩きつけられ動かなくなった。


「ウソだろ、コールが……」


 目を見張るレイズという女に声をかける。


「命までは奪わないように加減したから死んではいないはずだ。じゃあ、俺はこれで」


「あんた、人間の言葉を? 」


 仲間が重症となっては見た感じ魔法に秀でていると思われるであろうレイズはコールの回復に専念しなくてはならないだろう。その隙に森の中でダイヤ達が来るまで潜伏させてもらおう。


 そう決めて背を向けて去ろうとした時だった。


「待ちな、今の勝ち方は気に入らないね」


 そう言うとレイズはコールに杖を構えた。それを見て俺は身構える。


 やはりタイマンなんて守るはずもないよなあ、そもそも約束したわけでもないから。しかし、瀕死の仲間を置いて戦うのか? いや杖の方向をみると仲間のコールに魔法をかけるようだけど一体何を……


 首を傾げる俺を背にレイズが呪文を唱える。


「『ヒール』! 」


 コールの身体が緑色の光に包まれる。


 ヒール? ヒールだって? それならば回復まで時間がかかるはずだ。この隙に少しでも距離を稼がせてもらう!


 俺が彼らに後ろを向いたその時だった。


「いやー、わりぃ姉さん、油断した! 」


 背後から倒したはずのコールの声が聞こえた。











 


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