5-13「笑顔溢れる町に」♤
「よし、行くか! 」
あの闘いから一週間世話になった宿を出発する、オレは丸1日寝ていたらしいが驚いたことに踏破はオレが起きてから更に1日多い2日寝込んでいた。食事はヘルシーなものばかりで物足りなさを感じると思ったがなかなか上手く今では何故か落ち着く緑色の床、トオハ曰く「タタミ」というものとの別れが名残欲しい。すっかり活気が戻ったらしく侍や着物を着た女性が町を歩いているのを眺める。
「2人共元気になってよかったです、本当にあの時はどうなることかと」
ムラサイの出口がある門へと向かう最中にダイヤが身震いしながら言った。あのあとダイヤは業火の中炎をみて駆け付けた街の住人達に事情話して宿の手配から治療と色々と手伝ってもらったそうだ。勿論その時は今のように身体がゴブリンのトオハはダイヤのバッグの中に隠れていた。
城が燃えた理由は彼女にも分からず放火犯と間違えられて説明に苦労したらしいけれどあの御館様の幽霊を倒したと聞いたら皆城のことは不問にしてくれたらしい。
看病してもらったオレとしてはお礼の1つも言いたいところだが残念ながら皆帰ってしまったとのことだ。
もう1つ残念なことがある、あの刀のことだ。トオハはオレの親父から貰った剣しか持ってきてないと言うんだがどういうわけかダイヤ曰く倒れているオレの近くに転がっていたらしい。炎の中何かしら不思議な偶然が重なって刀が跳びオレの元へと来たと考えると運命的なものを感じるんだが街にとっても大切な刀ということで返してしまった。あの刀、斬れ味は体験したから勿論のこと持ちやすくて気に入ったんだけどな。
「あ! 」
考え事をしていながら歩いているとダイヤの声がして我に返る。彼女は前方に何かが見えたようだ。前方不注意だったことを反省しつつも一度通ったことのある出口の木造の風情のある門に目を凝らす。
そこには数人の人が集まっていた。子供らしき人物がオレ達を指差している。どうやらオレ達が来るのを待っていたらしい。近付くうちに見えてきたのだが1人の女性と子供は御館様の幽霊の話をしてくれた家族だった。
「お待ちしておりました、この度はこの町を救ってくださり何とお礼を申し上げて良いか……」
老人が頭を下げる。この対応からするにこの人は町の中で一番偉い人のようだ。
「いえ、こちらこそ手当の手伝いや宿からお世話になってありがとうございます」
ダイヤがハキハキと答え頭を下げるのに倣って頭を下げる。すると老人は慌てて手をブンブンと振った。
「いえいえ、滅相もございません。今後も何か私共にできることがあればなんなりとお申し付けください」
そう言われると、「あの刀をくれ! 」と言いたい欲求が出てくるも困らせるだけだろうからやめとくか。
「お姉ちゃんが御館様を倒したんだって? 強いんだね、僕もお姉ちゃんみたいに強くなりたい! 」
少年がオレの服の裾を引っ張りながら満面の笑みで言う。それを聞いて自然と笑みがこぼれた。
「あったりまえよ! と言いたいところだがちょっと違うぜ、強いのはオレじゃなくてオレ達だ! オレ一人じゃ御館様のところまでいけなかったからな」
そう言いながら少年の髪に手を置き優しく撫でた。
「強くなりたいんなら鍛えるのは勿論だけど頼れる仲間も見つけないとな」
それを聞いた少年は力強く頷いた。
「頑張らないとね」
励ますように母親が少年に話しかけるとこちらを向いて頭を下げた。
「本当にありがとうございました」
そう言うと2人は町へと帰って行った。
「申し訳ない、本当は見送りたいとのことでしたがスペードさんにお渡ししたいものがございまして」
老人は背中から1本の刀を取り出した。
「こ、これは……」
それは鞘にホルダーとベルトが取り付けられていて見た目は少し変わっているが紛れもないあの日使った刀だった。
「これは妖刀と言われているもので名を鬼刃、持ち主を選ぶと言われておりますが貴方なら問題はないでしょう、とはいってもこれは城に飾ってあったレプリカですが」
「ど、どうも……」
2本あるうちのレプリカの方か……まあ記念ってことで
オレは刀を受け取った。そのときだった
「スペード、お主も悪よのう」
囁くようなしわがれ声がした。方向をみるまでもなく声の主はバッグの中に隠れているトオハだろう。見つかったらどうするんだ。
「いえいえ、御代官様ほどでは」
オレが反応に困っているうちにダイヤが何かを悟ったらしく笑いながら答えるように囁く。
2人してこんなときに冗談なんてどうしちまったんだ? いや待てよ……確か今のやり取りは宿でトオハから聞いたことがあるぞ! そうだ、それにレプリカの刀は天守閣最上階にあったはずだ! それが無事もしくはこんな短い時間で見つけることなんて出来るのか? もしかしてこの刀って……
「ほ、本物! ! ? ? 」
「お静かに、どうかこのことはご内密に」
興奮が刀を持つ手が震えるだけでは収まりきらずについ声に出てしまったのをみて老人が狼狽する。
「いいのかよ、本当に! 」
「まあ、町の皆も薄々は分かってくれているでしょう、この刀を今持つものは誰であるべきかを」
「ありがとうございます! 」
「それでは健闘を祈ります」
オレは未だ震える手で刀を左の腰付近刀を取り付けると、老人に見送られながら町を後にした。
町を出てしばらくして海を覗くとただの平原というような場所でオレは立ち止まった。まだやり残したことがあるからだ。
「スペードさん? 」
ダイヤが突然立ち止まったオレに首を傾げる。
後戻りはできねえ、もう言うしかねえ!
「あのさ、ダイヤ、トオハ、今回……色々と助けてくれて………………ありがとな」
「さっきは言えてたのに今回はどうしたんだ」
バッグからトオハがからかうような声がしたがすぐさまダイヤに窘められた。
「どういたしまして、こちらこそありがとうございます。スペードさん」
ダイヤが頭を下げると同時にトオハが誰もいないと判断したのかバッグから顔を出す。
「さっきは悪かった、ありがとうなスペード。俺一人じゃ無理だった」
感謝をしたら感謝をされるという少し変な光景に戸惑うも悪い気はしなかった。次の目的地はギルドだ!
「よし、行くぞ! 」
そう声をかけるとオレは平原を走り出した。
5章終了時ステータス
【名前】阿藤踏破
【職業】会社員
【種族】ゴブリン(ヒューマン)
【武器】棍棒、蒼速の剣、木刀
【筋力】C+
【魔力】─
ダイヤ・ガーネット
【職業】魔法使い、冒険者
【種族】ヒューマン
【武器】伝説の杖
【防具】鎖帷子
【筋力】D
【魔力】A+
【魔法】シルド(盾)、ヒール(回復)、フラッッシュ(発光)、インビジヴォー(透明化)、ミニムァム(縮小化)、エンハンス(強化)←New!
【名前】スペード・ナイト
【職業】剣士冒険者
【種族】ヒューマン
【武器】爆炎の剣、木刀、鬼刃←New!
【筋力】C
【魔力】D
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