5-12「生死をかけた大ジャンプ」

「よいしょっと」


 俺はスペードを抱えると彼女の剣を拾い幸か不幸かここに来るために加減を間違え突き破ってしまったときにできた穴目掛けて屋根の頂上へとジャンプで昇る。


 そのまま辺りをキョロキョロと見渡すと天守閣の正門とは真逆の中庭らしき場所で両手を大きく振っているダイヤを見つけた。俺は何とか片手で数回手を振りスペードの救出に成功したことを伝える。

 正門からは何人かの侍が火事をみて天守閣目掛けて走ってくるのが見えた。


「目を瞑ってろよ」


 スペードに声をかけるも反応がないのをみて焦る心を押さえつけながら着地点に狙いを定める。目標はダイヤの横にある『盾の魔法』だ。トランポリンの様に無事に着地できるであろう強度に調整してくれているはずだ。

 もし彼女の盾まで届かなくても奥の手はある。今発動している『強化の魔法』だ。強化されている今のオレの状態なら着地もなんなくこなせるだろう。


 ただ、その場合のリスクはかなりのものだろう。元々フィードバックで動けない身体を『強化の魔法』で無理矢理動いているのだ。そこに屋根から無理矢理着地したとなれば俺の身体はもたないかもしれない。


 うまくいってくれよ。


 成功を願いながらオレは力強く屋根を蹴り跳んだ。


 夜空を風を切りながら弾丸のように落ちてゆく、何事もなく無事ダイヤの盾に落下した。するとぽよん、とトランポリンのような感触がして上に大きく跳ねる。そうやって何度か跳ねた後俺たちはゆっくりと彼女の盾の上で横になった。


「何とか形にできました。2人とも、無事でよかったです! 」


 目を赤くしたダイヤが俺を抱きしめながら言う。


「俺の方はまだ大丈夫だからはやくスペードを……」


 そう言い終わらないうちにダイヤは素早くスペードに水と回復薬を飲ませた。するとこちらを振り向く。


「これでスペードさんは大丈夫です。さあ、次はトーハさんです」


 そう言うと回復薬を手渡し飲んだのを確認すると俺を横にして再び薬草をつけた包帯でグルグル巻きにした後に『回復の魔法』を唱えた。


「私にできるのはここまでです、少しは痛みが和らぐと良いのですが……」


 ダイヤが申し訳なさそうに告げるのを制するように彼女の頭に手を伸ばし撫でる。


「良いんだ、俺が頼んだんだから」


 そう、この作戦の発案者は俺だった。もちろん彼女は反対したけれどスペードを助ける方法が他に思い当たらなかったので渋々承諾したのだ。


 みるとオーラは徐々に薄くなっていった。これが消えると再びフィードバックが訪れる。俺は歯医者の治療中、治療器具が迫ってきて痛みを待ち構えるような気持ちになり目を瞑った。


 それから数秒もしないうちに体中に激痛が走った。先ほどとは比べ物がない程だった。


「あっ……」


 叫ぶ暇もなく俺は意識を失った。

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