5-10「スペードの意地」♤

 参った……悔しいけど技術じゃオレの負けだ。このまままたさっきみたいに斬りあっても負けはみえてる。亡霊が走ってこないのをいいことにこのわずかな時間で作戦を考えないとな



 実力の差は戦ったオレが一番感じていた。横目で階段を見る。下の階にはダイヤ達がいるだろう、助けを求めるなら今だが……


 いいやダメだ! こいつはオレ一人で倒す! こうなったらアレしかねえ! ぶっつけ本番になっちまうがうまくいってくれ!


 すがる思いで右手を剣から離し亡霊に向ける。その時、恐ろしい咆哮が響き渡った。新手かと辺りをキョロキョロと見回すも気配はない。亡霊も同じことを思ったのだろう、動きを止めて気配を伺っているようだった。


「今だ! 『ファイエア』! 」


 オレが炎の魔法を拳2つ分位の大きさの火の玉が亡霊目掛けて進んでいくそれに対して防御をしようと盾代わりに刀を前に突き出すのを確認すると身体を小さくして素早く走り出す。そのまま火の玉に身を隠すように走り奴が防いだ瞬間、素早く懐に入り込む。


「もらったあ! 『秘剣迅雷斬』! 」


『秘剣迅雷斬』とは船で考えた相手の懐に飛び込み何度も斬るパワーアップしたオレの必殺技だ。決まれば人型が相手なら致命傷は避けられないだろう。加えてトオハとの戦いをヒントに相手を魔法で牽制して懐に入り込みやすくしたことにより決まりやすくした。


 1発目、オレの件が左下から斜めに鎧を斬る。このまま2発目! と右上から剣を振り下ろそうとした瞬間、亡霊が伸ばした腕を曲げてその勢いのまま峰打ちをしようとするのだと判断する。


「クソっ! 」


 すぐさましゃがむと文字通り間一髪峰を躱すことが出来た。そのまま後ろへと下がり部屋の端まで距離を取る。


「結局振り出しかよ」


 吐き捨てるように言うも振り出しではないのは分かっている。恐らく奴には同じ戦法は通用しねえ、状況は振り出しどころか更に悪くなった。案の定一発『ファイエア』を打つもオレの攻撃を警戒してか先ほどよりも手を伸ばさずに曲げたまま防いだ。同じことをしていたら返り討ちにあっていただろう。

 つくづく先ほど決められなかったのが痛いが理想の『秘剣迅雷斬』を放つためには速さが足りないことも自覚していた。でもオレの唯一の勝機がそれだったんだ。


「こうなりゃいい作戦が考え付くまで逃げ切るしか……」


 弱音を吐いたその時だった。パチパチという音とともに隠し階段を伝って炎が部屋にやってきた。


「なんだ、何が起こってんだ」


 動揺するオレを他所に炎はあっという間に部屋中に燃え広がる。


「クソッ、もう時間はねえってことかよ! 」


 炎による暑さでオレの体力は凄まじい速度で奪われていくだろう、目の前の炎に照らされる鎧に包まれた亡霊が悪魔に見えた。


「こうなりゃヤケだ! 行くぞおおおおおおおおおおお」


 オレは雄たけびを上げて真っ向から鎧目掛けて走って行った。


「うおおおお! 」


 オレの振り下ろされた剣を膝をつき受け止めると亡霊はすぐさま立ち上がり仰け反っているオレに上から斬り伏せようと構える。それをみてオレはすぐさま防ごうと剣を構えようと動かしたその瞬間、ゾクリとした寒気がオレを襲い気がついたらオレは後ろに跳んでいた。オレが跳ぶより遅いか早いか亡霊は剣で防御するのを待っていたとばかりに刀を振らずに片膝をついた。


 やべえ……あのまま防いでいたら懐ががら空きだ。奴の先ほどの動作はフェイントだった、最初からオレがガードをさせてがら空きの腹を狙うつもりだったんだ。跳んでなければやられていた。


 しかし完全に避けることが出来たわけではない、剣はやつの射程圏内だった。亡霊は素早く剣を振り…………オレの剣を掃った。


 カランと剣が炎の向こう側に落ちるのと同時に身体が床にドサリと落ちる。


「クソっ! 」


 床を拳で叩く。


 命は助かった、しかし剣を失ってしまっては……まだ銅の剣が残ってはいるもののディールには悪いが親父の剣に比べると使い勝手は格段に劣る。三度撃ちあってもやられるのは時間の問題だろう。だったら……


 オレは銅の剣を背中から抜きつつ右手を先ほどの様にこちらへむかってくる亡霊へと向け呪文を唱える。


「『スァンダ』! 」


 呪文と共にバチバチと小さな雷撃が鎧へと向かい直撃するも鎧はそれがどうしたとばかりにこちらに歩み寄るのを止めない。


 鎧だかオレのショボい雷撃でも通用するかもなんて考えたけれどダメか……もう万策尽きちまった。


 がっくりと肩を落とした時だった。


「スペードさん! スペードさん! 」


 ダイヤの声が聞こえた。空耳でないとするとどうやらダイヤは無事のようだ。いや、オレの名前だけを呼んでいる辺り恐らくトオハも。あいつ、てっぺんの部屋ですらこんなに火が回ってるってのにまだ残ってやがんのか! もしかしたらトオハも一緒に? 大した奴らだ。船内では見たことがなかったけど言葉に詰まっちまったけど、ダイヤの『盾の魔法』は階段丸ごと覆うなんて見事なものだった。トオハと2人でサイクロプスやゴーレムやらケルベロスを倒したって言うのも本当だろう。


ならさ、オレがあの2人に本当に仲間として認めてもらうためによ………………ここでこいつを倒さなければならねえんだ! !


 覚悟を決めて剣を構え深呼吸をし亡霊を睨む。するとオレの覚悟が伝わったのか亡霊が歩みを止めた。それからしばらくオレも亡霊も動かなかった。パチパチと城が燃えている中どれほどお互い見つめあっていたのだろう。もしかしたら永遠に続くかもしれない、とも思われた睨み合いの終わりを告げるようにドガァン! と何かが壊れるような激しい音が響き渡った。その言葉を合図に、オレと亡霊は同時に動き出した。








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