4-17「犯人は……」♤
紙には──────髭男と記入されていた。
「髭男! ? 誰のことですかい? 」
皆の視線が集中する中髭男がとぼけてみせる。
「どうして名前を書かないのですかスペードさん」
ダイヤにツッコまれるも名前よりも印象深かったのだから仕方がない。仕方がないので他の紙をオープンする。
「とまあ、このようにベアド? って名前だけないわけだから犯人は髭男、ベアドお前だっ! 」
「い、言いがかりだっ! お前ら元からグルだろう! 事前に示し合わせて何か紙に仕掛けがあってそれを選ぶように仕向けたんだろう」
髭男はそう怒鳴った。
「そんなことはない、ウィザーとはずっと一緒にいたけれど相談している様子なんてなかった」
「それにウィザーの魔法のウデは俺達が証明するぜ」
ナックとソアドが言い返す。すると先ほどから大人しく静観していた伯爵が口を開く。
「とりあえず続きを聞いてみましょうか。名探偵さん話してくださいますか? ベアドさんがどのように犯行に及んだのかを……ククッ」
「ああ、まず髭……ベアドさんはバルコニーに行くと見せかけて通りがかりに見張りの船員を魔法で眠らせた。それで眠らせた後被害者の部屋に行き扉を開けてもらい、まあ何かを忘れたから貸して欲しいとか言って隙を見せたところをフードを被り撲殺、何食わぬ顔でバルコニーに戻ってゴブリンに罪を擦り付けるための仕掛けを作った。あとは扉を壊して素早く曲がり角まで走って仕掛けを作動、何食わぬ顔でオレとぶつかってゴいもしないゴブリンを犯人に仕立て上げたってわけさ」
「待った、扉壊して素早く移動ってそんなことできるのか? 」
ソアドが挙手をして質問をする。オレはそれに答える代わりに
「ナック、どうだ? 」
とソアドの隣に立っているナックに質問をした。
「扉を拳で壊すのは問題ない、あとは……」
そう言い終わる前に人をかき分け道を作るとダダっと走り出してあっという間に曲がり角を曲がり消える。オレはそれを確認すると髭男に向きなおった。
「室内にいる場合、音がしてからすぐ人が駆け付けるといっても状況の把握とかを考えると少しは時間に余裕ができる。強化の魔法を使えば格闘家とも同等に戦えるんだったよなベアドさん? 」
「そういえば、あの時眠気に襲われる前に何か呪文のようなのが聞こえたような」
畳みかけるようにガタイの良い船員が呟いた。しばらくの沈黙の後ベアドが震えながら口を開く。
「なら、あっしはどうやってゴブリンに見せかけたというんですかい」
「それは……」
浮かせる呪文、と答えたくなるが伯爵が感知できるか怪しい以上止めておいた方が良いとトオハに釘を刺されたので言われた通り別の可能性を提示することにする。
「……こういうことさ! 」
オレは用意していた長い糸の先にS字のようになっているフックをつけたものを皆に見せる。
「あのフードがついたコートは首の辺りに左右を合わせる用の金具がついていた。合わせた後にそこにこのフックをかけて引くだけだ、そうすれば……」
説明しながら似たような冬用に購入しておいたオレの茶色のコートの端の部分にフックを取り付けて引っ張ってみる。
「なるほどなるほど、何か背の低い生き物が姿を隠しながら走っているようにもみえますね。ククッ」
伯爵が愉快そうに笑いながら納得を示す。それに釣られるように何故か髭男も笑った。
「がハハハハハハハ、ならば次はあっしが推理を披露しますぜ! あっしが思うにこの事件の真相は小娘魔法使いのどちらかが仲間と共謀し名探偵さんの言うように殺害した後にまず見張りの船員を眠らせ、強化の魔法で強化した身体で扉を破壊、素早く部屋に隠れ服をその後浮遊の魔法で浮かせゴブリンの様にみせかけた……これですぜ! 」
「待って、私今挙げられた魔法どれもつかえない! 」
髭男の推理を聞いたウィザーが上擦った声で訴える。しかし、髭男は澄ました様子で淡々と告げる。
「お嬢さん、そんなの口ではどうとでも嘘をつけるんですぜ」
クソっ! 奴の言うことはどれも魔法で片づけていて説明になっていない、でもオレにはダイヤが強化の魔法や浮遊の魔法に眠らせる魔法を使えないことを証明することができねえ! 万事休すだ…………すまねえトオハ。
オレが諦めたその時だった。
「残念ですが、それは不可能です」
誰かが声を発した。オレは慌てて声のした方向をみて驚く。沈黙を破ったのは────ダイヤだった。
「どういうことですかい? 」
髭男が嘲笑うようにダイヤに尋ねる。ダイヤは凛とした様子で答えた。
「お年をめしたベアドさんの時は違ったのでしょうが、透明になる魔法、眠らせる魔法、小さくする魔法……この3つの魔法は今では習得するには厳密な審査が必要なんです! 」
「な、なんですと! ? 」
これには髭男も面食らった様子だ。そういや透明人間がどーとかも言ってたな……とにかくこれは良い手だ。この髭男にはダイヤが2つの魔法を使えるのを確かめる術はねえしダイヤはトオハのトラブルメーカー体質のおかげで大怪盗やらと接触したり王様に特別に配慮してもらったりと普通の冒険者では想像もつかないような経験をしてきたらしい。
そこを隠して普通の魔法は使えねえけど筆記の得意な魔法使いとして知っていることを披露した。奴の滅茶苦茶な理論は彼女の一言により崩れかけている。このチャンスを利用しない手はねえ!
「あ、そういえばそうだった。先生が口を酸っぱくして言っていたっけ」
遅れてウィザーも思い出したように言う。みると髭男は先ほどの威勢はどこへやら顔は青ざめていた。今が好機だ!
「でも情けねえよな、あれだけ優秀な魔法使いみたいなことを言っていたのにさっきまで馬鹿にしてた学校卒業したばかりの新米魔法使いに論破されてさ。」
煽りながらチラリと髭男を見ると青ざめていた顔が今度は真っ赤になっていた。「どうやらもうひといきだ」とオレは内心ほくそ笑みながら続ける。
「何より浮遊の魔法も使えないからこんな風にちゃちな仕掛け作ってまで罪を逃れようとするなんて……n」
オレがそこまで言いかけた時だった。
「黙りやがれこのクソガキがああああああああああああああああああああああああああ! ! ! 」
髭男の怒声が辺りに響き渡った。
「あっしが論破された? 浮遊の魔法が使えない? 舐めるのもいい加減にしやがれ! いいかよくみやがれあっしの魔法を! 『フロウト』! 」
そう言うとオレの持っていた奴の指紋が貼ってある紙が宙に浮いた。
「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッヒヒッ! これでわかったか落ちこぼれ共! あの時も間抜けた老人を殺した後こうやってコートをあっしにしかできないであろう船に潜入したものの窓から転落した哀れなゴブリンの背丈位の高さで絶妙に保ちながら間抜けなアンタの目を誤魔化してやったんだよ! ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ、あの時のビビったアンタの顔ったら傑作だったぜ! ヒーヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ」
髭男はそれからしばらくオレとダイヤ、ウィザーに死んだと思っているトオハを馬鹿にして笑っていた。一番馬鹿なことをしたのが自分だったと気付くのはもう少しあとの話だ。
──指紋で犯人が特定出来たら後はとにかく自白させろ
それがトオハからの最後のアドバイスだった。ちなみに相手を怒らせて情報を引き出すこのやり方は『アクティヴフェーズ』と呼ばれているらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます