4-16「名探偵スペード」♤
「実はオレ、名探偵なんだ! 」
食堂に集まって「やはりゴブリンが犯人だ」と水を飲みながら推理している乗客全員の前でオレは高らかに宣言する。あのあと合流したトオハが何か閃いたみたいだがあいつは身体がゴブリンだから人前で推理はできねえ。そこでオレが探偵役を買ってでたってわけだ! ダイヤのバッグの中でオレの推理ショーを見てろよトオハ!
「あいつが? 」
「賢そうにはみえないけどな」
「クククククッ」
オレの突然の告白を聞いて辺りがざわつく。
「それで、名探偵さんはこれから何を始めようというのですか? ククッ」
グラスを片手に伯爵が言う。
「勿論、推理さ! 犯人をズバリあててやるよ! 皆鼻に触った後にそのグラスに触れてみてくれ」
「バカな」
「ゴブリン、透明人間と来て今度は人間説か」
「ゴブリンが犯人じゃないのか? 」
「最近暑かったからな」
「クククククッ」
再び周囲がざわつくも全員オレの言う通りにした。
「それで、名探偵さんは誰が犯人だというのですか? クククッ」
そして再び伯爵がオレに尋ねる。意外とノリがいい伯爵なのかもしれない。オレは深呼吸をしてから口を開く。
「それは…………現場に行けば分かる! 」
今度は辺りがシーンとなった。
「困ります、お客様! 魔法鑑定士の方たちが現れるまで現場を荒らされては! 」
気の小さそうな船員が慌てて駆け寄る。
「その魔法鑑定士とオレの命どっちが大事だ? 」
「えっ? 」
船員がオレの言葉に目を丸くする。
「もう人間が犯人って宣言した時点でゴブリンやらに犯行を擦り付けようとしたことを見破ったオレは犯人に狙われてもおかしくないってことだよ! ここで犯人をみすみす部屋に返して次の日オレとダイヤが死体で発見されたら船員は責任を取ってくれるのか? 」
オレの顔が凄かったのだろう「ひっ」とダイヤの怯える声が聞こえた。まあやっていることはただオレの命が危ないから助けてくれって命乞いしているようなものだけどな!
しかし、トオハの言う通り「責任を取る」というのが重くのしかかったのか「あまり荒らさないでくださいよ」とだけ言って船員は渋々頷いた。
「じゃあその前に……っとダイヤ、手伝ってくれ。それと小麦粉貰えねえか? 」
オレは木製の長テーブルに置かれた長コップを皆が触れた部分を触るのを避けて回収する。そして疑問に思う乗客をよそに船員から受け取った小麦粉をかけて小麦粉を羽根ペンの羽根で丁寧に掃いていき残ったものをダイヤから貰ったプーテちゃんを当てて取る。それをそれぞれの名前が書いてある黒色の用紙に張り付けていく。
「何をやっているんだあいつは? 」
「名探偵だけに考えがあるのでしょうククッ」
乗客たちのざわめきも気にせずオレとダイヤは黙々と作業を進める。そして念のために名前の所を折って誰からも分からないようにした。
「よし、これで下準備は完了だ! じゃあ皆で現場へ行こうぜ! 」
オレはそう言って紙を持ったまま先陣を切り階段を下り現場である部屋へと歩いていく。チラリと見ると何だかんだ乗客ばかりか船員全員がついてきているのをみてニヤリと笑った。
「うまくいくでしょうか? 」
ダイヤが後ろでこっそりと小さな声で囁く。
「分かんねえけど、今はトオハのことを信じるしかねえ」
階段を下りて幾つかの部屋の扉を通り過ぎて現場に到着する。トオハを迎えに行く時とダイヤは2回転んだので見張りの船員がダイヤを心配そうにみつめた。その視線に気付き彼女が恥ずかしそうに俯く。
船員の説得により見張りの船員が道を開けてくれたので扉を開けて室内に入る。そのまま絨毯の床を歩いていき凶器の前で止まった。
「と、そのまえに……よっと! 」
オレは血だまりに転がっている木片を足でひっくり返す。トオハから聞いた通り木片に血は付着していなかった。
「遠目にみて血が染みた様子もないから変だと思っていたんだ。これが犯人がゴブリンでない証拠だ、被害者は扉に後ろ向きに倒れているのに対して木片に血がついていないってことは扉が壊されたのは被害者が死んでからしばらく経った後ってことになる。ゴブリンを部屋に招き入れる奴なんているか? 」
まあいるんだけどな……と内心ツッコミを入れながら声を張り上げて続ける。
「それにゴブリンだとしたら殺した後ドアを閉めてから扉を叩き壊したことになる。知らせるだけになるだけじゃないか、何のためにそんなことを? 」
「確かにそうだよな」
「余りにも不自然」
そういう声が聞こえてくる。しかし髭男は彼らの意見を振り払うように叫んだ。
「ゴブリンの行動に合理性なんてないと思いますぜ! 」
そう言われるとつれえな……このままじゃ水掛け論ってやつになっちまう。
「スペードさん、そろそろ」
ダイヤもそう感じたのか次に進むように促した。オレは頷いて…………凶器に小麦粉をかけた。
「な、なにをするんだ」
それをみた船員がヒステリックな声をあげる。
「まあまあ」
オレは手で制止ながらダイヤから受け取った羽根ペンの羽根で小麦粉を掃っていく。一部を除き小麦粉は絨毯に落ちた。そして残った小麦粉をプーテちゃんを凶器に張り付けてそのまま回収して黒い用紙に張り付ける。扉にも近付きノブでも同じことをした。
「さあ、これで準備は整った! さあウィザー、これらの模様と同じ模様がこの中にあるか得意の視力強化の魔法で調べてくれないか? いやその前にこの2つが同じかどうかだ」
「え! ? 私ですか? 」
「ああ、頼む。お前の力が必要なんだ」
突然指名されたウィザーは慌てた戸惑いながらも仲間から離れて近付いてきた。オレは彼女に先ほど凶器、ノブから採取した小麦粉をみせる。
「わかりました、『アイズ・エンハンス』! …………この2つ、扉の方は部分的ですが特徴的な部分が似通っているので同じといえます」
彼女が視力強化の魔法で確認したのか結論を述べた。
「指に何かマークがあるのは分かるけどそれって皆一緒じゃないのか? 」
ウィザーの仲間のソアドが腕を組み首を傾げる。
「それがな、この模様…………人それぞれ違うんだよ! 」
トオハ曰く【指紋】というらしい、とはいっても肉眼では判別はほぼ不可能らしいからウィザーがいて本当に良かった。驚いている皆を前にウィザーに凶器のガラスの置物と先ほどコップから採取した指紋の中で同じものがないかの確認を依頼する。
彼女の確認作業を皆静かに見守る。やがて彼女が「アッ!」と声をあげた。
「こ、これです! ここのほらこの部分とこの部分! ここも同じです! 」
そう言いながら一枚の紙をオレに差し出す。
「ありがとな、皆の指紋はさっきのグラスから採取させてもらった。それぞれの紙にはその指紋の持ち主の名前が書かれている! つまりこの紙に名前が書かれている奴が犯人ってわけだ! 当然、オレもウィザーもそれが誰かは名前の部分を折っているから分からない」
オレはそれを聞いた一同の視線が紙に集中するのを感じつつ折った紙を開いた。
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