4-9「犯人はゴブリン! ? 」♤

 オレは勢いよく木製のドアノブを回し扉を開く。音は左側から聞こえたので部屋から出て左に曲がろうとしたその時、シャアアアアアアと目の前を丁度トオハと同じくらいの大きさの黒いフードらしきものを留め具を止めてしっかりと被ったものが通り抜けていった。


 トオハ? んなバカな!


 確認のため振り返るとダイヤがトオハに何やら声をかけていた。どうやら人違いだったようだ。


…………なんて安心してる場合じゃねえ!


 音がした方向と逆側に立ち去るやつなんて犯人に決まってるじゃねえか!


「ダイヤ! こっちだ! 」


 オレは後方のダイヤに声をかけながらフードの奴を追うように右側に駆けて行った。馬鹿め、そっちには見張りの船員がいるぞ! 丁度影も見えるから奴が突き当りに言った途端確保……と思ったんだがフードの奴は堂々と船員の前を通り過ぎて行った。船員は動く気配すらない。


 確か左側が食堂に通じる階段だったから右側は……バルコニーに続く道か! 逃げ場はないだろうしどうするつもりだ! って何でこんな時に見張りのお前は寝てるんだよ!


 見張りの船員はガタイが良いのにどうして動かないかと疑問だったがこういうときに限って居眠りをしていた。一発椅子に蹴りを入れる。と「うおっ」と間抜けな声を出して目覚めたようだがこいつに時間を取られるわけにはいかない。


「逃がすかよ! 」


 そう口にして曲がり角を曲がろうとしたその時だった。


「大変だ! 」


 1人の男が曲がり角の向こうから走ってきた。


 ガッツーン! !


 急に止まれるわけもなくオレ達は勢いよくぶつかった。


「いってえな気をつけろ! 」


「それはこっちのセリフだ! 」


 こちとら何か事件起こした容疑者らしいのを追いかけてんだ! それを邪魔するなんて許せねえ! ん? 待てよ……


 オレは素早く頭を回転させてこいつはさっき見た容疑者の件で慌てているのではないかと推理する。


「何かフード被っている変なのを見たのか? 」


 オレが尋ねると男は両手を震わせながら喋る。


「さっすがお姉さん頭の回転がお速いこって。そうなんすよ、歩いているとあっしが無くしたと思っていたコートを被ったゴブリンが目の前を通り過ぎてそこの通風孔をこじ開けて中に入って行ったんですぜ! 」


「ゴブリンだって! ? 」


 オレは男の言葉に心臓が飛び跳ねそうになりながら答える、と同時に厄介なことになったと小さく舌打ちをした。


「クソ、もう逃げた後みてえだな」


 通風孔の中に何もいないのを確認して吐き捨てるように言う。側には血だらけのコートが脱ぎ捨てられていた。


「船内にゴブリンだなんてエライことになりそうですぜ、何も起きてないといいすけど……」


 男のその言葉を聞いてここまであのフードの怪しい奴を追いかけていた理由をハッと思い出した。そういえば声をかけたはずのダイヤもいない。いくらトオハの身を気にかけていたダイヤとはいえあの時トオハに何かを伝えてオレを追いかけていたはずだし何もなければオレの後を追いかけてきて今頃合流しているはずだ!


 ……そう、何もなければ。


 オレは突然悪寒がしてブルブルと身震いする。それとほぼ同時だった。


「きゃああああああああああああああああああああああ! ! ! 」


 ダイヤの声が船内に響いた。


「待ってろ、ダイヤ! オレが今行くから! ! 」


 トオハ、出てくるなよ。オレが何とかするから! という意味を込めながら大声でそう言い放ちダイヤの元へ向かった。


「大丈夫か、ダイヤ! 」


 ダイヤはオレ達の部屋のすぐ左隣の部屋のドアの前で目に涙を浮かべながら尻餅をついていた。ひとまず無事なことに安心する。周りを見るとオレたちと同い年位の銀の鎧を着て剣を持った男と紫のトンガリ帽子に青い球体がはめ込まれた星の形をした杖を持った魔法使いに色黒で白い道着を羽織った格闘家らしき男が集まっていた。


「ス、スペードさん」


 彼女がオレの名前を呼んだあと人差し指で何かを指す。オレが彼女に近付きその指が指すものに気が付いた。


「……っ! ! 」


 余りの光景に言葉にならない。そこには、力任せに壊されたであろうドアにその木片を身体に纏いながらもうつ伏せに血を流しながら倒れている老人の姿があった。遺体の側には虹色の5角形の槍のように先細りしている立派な杖に凶器らしき割れたガラスの置物の破片が転がっている。


 ……嘘だろ


 目の前の光景もそうだがそれに加えオレはある一つの情報を持っている。向こうへ逃げて行ったこの騒動を起こしたらしき犯人を目撃したものの証言だ。


「あっしが歩いていると突然フードを被ったゴブリンが目の前を通り過ぎて」


 さっきぶつかった男の言葉が脳内をよぎった。

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