3-16「死は突然訪れる」
再び冒険者になるための試練襲われてから数分、俺は木の上で日光浴を楽しんでいた。これ以上厄介ごとに巻き込まれるのはごめんなので木の上の高いところの葉に隠れていた。
始めからここに隠れていれば良かったのだ! ようやくゆっくり休めそうだ。
俺は馬車を眺めながら緑色の葉の間から覗く太陽の眩しさに思わず微笑む。
これぞ正に平和の象徴だ、ゆっくりこの時間を楽しむこととしよう。そういえば、昨日は交代とはいえ指揮する身分だったからあまり眠っていなかったな。いいや、寝ちゃダメだ! 彼女はそろそろ帰ってくるだろう。いやまて、彼女ならいつも来るときは大きな声で名を呼んでくれるはずだ。彼女の声を目覚ましにすればいいか。
眠気と戦いながらもこっくりこっくりと頭が激しく上下に揺れ始めたときだった。
「ゴブリイイイイイイイイイイイイィン! どこだああああああああああああ! ! ! 」
大声が森に響き渡った。俺はビクンッと一度大きく震え先ほどの眠気はどこへやら覚醒する。
しまった、敵か? いやここならみつかることはまずないだろう。それにしてもこんな静かな森で大声を上げるなんてどこのどいつだろう。
下に顔を向けると100メートルくらい向こうから駆けてくる剣士の姿がみえた。
あ、あいつはさっきみた女剣士だ! 女剣士がゴブリンを求めて森に走ってくる。珍しいゴブリンでもいたのだろうか?
「ま、待ってくださあああああああああい! 」
走っているのは彼女1人だけではなかった。見るまでもなく声を聞けばわかる、ダイヤだ。どうしてかダイヤが全速力と言わんばかりのスピードで彼女を追いかけて走っているのだ。俺はものすごく嫌な予感がして顔を引っ込め身をできるだけ小さくした。
「ハア…………ハア…………クソっ! もう逃げた後か! ! 」
森に入り辺りをキョロキョロと見渡した後彼女が悔しがってガンっと! 木を蹴っ飛ばした。そこにダイヤも駆けつける。
「ゼエ…………ゼエ…………待ってください、スペードさん」
彼女が息も絶え絶えに声をかけるとようやくスペードという女性はダイヤのほうへ視線を向けた。
「何で追ってきたんだよ! 待ち合わせは良いのか? 」
彼女は辺りをキョロキョロと見渡して俺がいない、もしくは隠れていることを確認したのだろう彼女が口を開く。
「構いません、それよりどうしたのですか? そんなに…………ハア……怒るなんて…………」
「あいつらオレの子分だからさ、少し前から学校が休みの日はオレが色々とやってたんだ。子分の仇は親分が取ってやらないとな! 」
彼女が剣を睨みながら答えた。
「えっ!あの方たちまだ学校を卒業していないのですか! ? 」
「まあな、あいつら顔だけは大人びてるし兵士はここの出じゃないから分からないし武器は…………親父のでもくすねたんだろうな。そのことは後できっちり灸をすえてやるけどまずはゴブリンだ! 奴をぶっ倒してやる! ! ! 」
「で、でも待ってください! ゴブリンでしたら氷の魔法なんて使えないと思いますよ! ! 」
慌ててダイヤが両手をブンブンと振りながらフォローをする。
「ああ…………つまり、相手はゴブリンシャーマンの可能性が高いってことだ。大人たちは冒険者に経験を積ませるために倒しやすいゴブリンをあえて残しておくとか手を出されないのをいいことに言っていたけどそうはいかねえ! この森のどこかに奴らの住処があるはずだ! ! それをみつけてぶっ倒す! ! ! 」
「それは無茶ですよ! ! ! 1人で突撃なんてしたら幾らスペードさんでも返り討ちにあってしまいます」
彼女の言う通りそれは無謀だ。幾らゴブリンといえど数が多ければ多いほど不利になるだろう。さらには住処には彼女の言っていたゴブリンシャーマンに加え力のあるホブゴブリンもいるのだ。彼らは人間の村は襲わないと言ったが襲ってきた人間に大人しくやられるなんて真似はしないだろう。
「別に、その時はその時さ。それで敵わなかったら潔く死んでやる! それは本望だ! ! 」
彼女は勇ましく答えた。何気ない一言だった、人によっては勇ましいと評価していたことだろう。だが俺は違った何かのスイッチがカチリと入る音がした気がする、気が付くと俺の身体は熱くなっていた。俺がこの世界に来る前に死んだときのことを思い出す、何もない世界で俺は1人無力感に襲われて「死にたくない」と願った。それは雷という予期せぬ死だったからかもしれない、覚悟をしてやり切った後の死なら違うのかもしれない。ならばモンスターにやられるときに人はやり切ったと思うのだろうか? 分からない、でも向こうはこちらを殺す気でかかってくるだろう。ならそれは………………彼女に確かめてもらうとしよう。
俺は勢いよく木の枝を蹴り飛び降りた。
みるみる地上が近くなっていきドンッ! と勢いよく音を立てて着地する。
「へー、隠れていたのかゴブリン! 」
スペードと言われた女剣士がこちらに歩み寄る。
「待ってください! 『シルド』! 」
途端にダイヤが俺と女剣士の間に立ち盾の呪文をはる。
「ダイヤ、ゴブリンを庇うとはどういうつもりだてめえ! 」
女剣士が声を荒げる。
「スペードさん、ご紹介します。この人がさっき話した私の仲間のトーハさんです! 」
「はっ? ゴブリンが仲間とは変わってるとは思ってたがどんだけだよ! どういうことだ一体! 」
女剣士は剣を下ろした。
「ダイヤ、盾の呪文を解いてくれ大丈夫だ俺は負けない」
俺の声を聞いた女剣士が目を丸くする。
「何だお前、喋れるのかよ! 」
「ああ。それでどうした、かかってこないのか? 子分とやらの仇を取るんじゃなかったのか? 」
「トーハさん! ? どういうつもりですか! 」
「いいから、今は俺を信じてくれ」
彼女は俺の顔を見るとハッと何かに気付いたのか何も言わずに盾の呪文を解除する。
「ダイヤの仲間らしいけどどうやら死にたいらしいな」
再び女剣士が剣を構えて言い捨てる。オレはすかさず答える。
「死にたがっているのはお前のほうだろ? 」
「ほざきやがれっ! 『秘剣稲妻斬り』! 」
女剣士は以前みたのと同様にこちらの懐に入ろうと一目散に俺目掛けて駆け出した。あの時は面食らって恐ろしい戦法に感じたが今では全く別の印象を受ける。
今の俺にはこちらへむかってくる女剣士が────死に目掛けて一直線に突っ走る危険な女に見えた。
女剣士の動きは速いが直線的で動きが読みやすい。俺は1歩前に踏み出し剣士の剣が降られる前に思いっきり蹴りを入れた。
「がっ………………………………」
女剣士は勢いよく飛ばされ背中を木に強打する。強打した時にうっかり離した剣を掴もうとするところにすかさず近寄り剣を奪い投げ捨てた。
「く、くそお…………」
尚諦めず剣を取るために立ち上がろうとする女剣士の頭を掴み後頭部を木の葉に打ちつける。もはや彼女は荒く息をするだけで手足が動かないようだった。今彼女の心を満たしているのは戦い抜いて死ぬことへの誇りの感情だろうか? それともそれ以外だろうか? いや、そんなことは俺にはどうでもよかった。俺は両手で棍棒を構える。
「っ…………トーハさん! やめてください! ! ! ! ! ! ! ! 」
今まで目に涙を浮かべながら静観していたダイヤが声を叫ぶ。
その叫びが終わるよりも先に俺は持っていた棍棒を振り下ろす。
ズシャッ!
静かな森に何かを殴るような音が鳴り響いた。
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