3-8「ケルベロス」

 それから1時間ほど飛んでいき遂にケルベロスの住処と思われる場所についた。そこは大きいと感じたゴブリンの洞窟よりも大きな穴が開いていて中を伺うことができたが中に今ケルベロスはいないようだった。

 

 代わりに恐ろしいものが視界に入る。それは食い散らかせた物の肉や骨、血しぶきのあと。人もモンスターも等しく肉だと言わんばかりに食われたのだろう。思わず戻しそうになるところを自制した。

 

 できるだけ洞穴の中は見ないように周囲を警戒する。辺りの木が何かに噛み砕かれたかのような跡を残し折れていて1本の道ができていた。恐らくあれがケルベロスにとっての狩りの通路なのだろう。今いないということは狩りの時間ということか……木の葉に隠れるようにして息をひそめながら身を隠す。


 30分ほどそうしていると


「ガルルルウルルルウル! ウ~ウ~」


 この世の者とは思えない恐ろしい雄叫びが聞こえた。目を凝らすとそこには1体の胴体に3頭分の頭をつけた1体の怪物───ケルベロスがいた。


 ケルベロスはよくみると首輪みたいなものをしていた。あれは本当に首輪なのだろうか? まさか飼い主が近くに? ? 犬を飼いたいといった少年に母はケルベロスを買い与えるも余りに凶悪で泣く泣く森で飼うことにした、今も夜な夜な少年は食料を与えるために森に来ているなんて感動的な話だろうか?


 なんて遠近法で愉快な妄想をしてその場を誤魔化そうとするも目の前の事実は誤魔化せなかった。次第にこちらに近付いてくるにつれ大きくなる奴をみて首輪だと思っていたものの正体に気が付いたのだ!

 それは蛇だった。十数匹もの蛇が3頭分の首にびっしりと巻き付き首輪のようになっていたのだ! 狩りの帰りのようだったが収穫はタカラス1体だけだったようで右の1頭だけが咥えていた。残り2頭は悔しそうに呻いたり涎を垂らしたりしながらもゆっくりノソノソと歩きながら洞穴へ向かう。

 やがて洞穴へ着くや否や号令がかけられたかのように勢いよく咥えていた1頭だけが勢いよく収穫物を貪り始めた。ぐしゃぐしゃという音とともにタカラスはあっという間に原型がなくなった。


「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオン! 」


 食べ終わった後「ごちそうさまでした」とばかりに1頭は嬉しそうな雄たけびを上げた。


 2頭のケルベロスは「グルルルッル」と終始悔しそうな顔をしていたが食事が終わると再び外へ出た。


 どうやらあそこは食事はあそこで取るようだ。見た目に反して行儀が良いというギャップからかわいいという印象を持ちかけるももしかしたら狩りの本場である道端に食い散らかした後を残しておくと以降警戒されてしまうかもしれないという計算故の行動なのかもしれない。


 洞穴を出たケルベロスは何故かこちらの方へ歩いてきた。気付かれたのか?


 より近付いてきた怪物はサイクロプスとは異なり高さこそなくも全長4メートルほどで3頭それぞれに恐ろしい番犬の顔に蛇と目の前で相対していたら腰を抜かしているうちにやられていたかもしれない……改めてダイヤが言い悩むのも納得のまともに接近戦を行っては勝つのは困難な相手に見えた。


 いや、そうではないようだ。丁度俺より2本先の木がリンゴのなる木だったようでその木から1つリンゴが落ちていることに気付いたのだ! それを左の1頭が咥えて洞穴へ行き貪る。


「ウガアアアアアアアアアア! 」


 食べ終わった後にケルベロスはまたもや雄たけびを挙げるも不思議なことに今度のは喜びよりも悲しみや怒りの感情がこみあげているように聞こえた。みると食べられなかった2頭も悔しそうといったわけではなくむしろ嬉しそうにニヤリと笑ったように見えた。


 これは一体どういうことだろう……?


 しばらく悩んだ後ピーンと閃いた!


「そうか、そういうことか! これならいけるかもしれない! ! ただ、これをやるには急いだほうが良さそうだ! ! 」


 俺は小さく呟いてケルベロスが洞穴でこちらに背を向けたタイミングを見計らって音を立てずに枝を蹴りゴブリンの集落に戻って行った。

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