3‐9「落とし穴」
【どうじゃった? 】
無事に集落まで帰った俺の姿を確認したシャーマンが尋ねる。
【確かにケルベロスは見るからに凶暴なモンスターでした、しかし人間と比べるとやり易いと考えます】
【ほう、それはどうしてかね? 】
シャーマンは眉を顰めた。
【奴は力に特化したモンスターです、しかしそれだけで私がトータスの村で使ってきた人間達のような厄介な戦法や道具は使ってきません。幸い私は人間どもの戦法や道具をある程度把握しておきました。ですのでそれを利用してケルベロスを倒す方が容易だと考えます。】
【ほう、人間ごときが我々どころかケルベロスすらも凌駕する戦法を知っていると? それは一体…………】
【それは………………】
ここで言葉を切る。相手はゴブリンの中でも賢いと言われているゴブリンシャーマンだ。あまり戦法を教えすぎると万が一悪用される恐れがあるので与える知識は最小限にとどめておかなければならない。最後にこれから伝える作戦を再確認しておこう。………………よし、問題はないか。
最終確認を済ませ俺は続ける。
【………………落とし穴です】
【落とし穴! ? 】
シャーマンがなんだそれはと言うように聞き返す。
【はい、丁度ここから北東方向のケルベロスの住処側に大きな穴を掘ります。そこにケルベロスを落としてしまいます】
【しかし、穴を掘るといってもあの巨体を押し込むとなると相当大きな罠が必要なのではないか? 】
ケルベロスの巨体を改めて思い出したのか恐ろしいとばかりにブルブルと震えた、俺は頷く。
【その通りです、ですが今すぐ全員で取り掛かれば明日の昼までには可能だと考えます】
【確かに我々のパワーと我々の数では明日までにも可能かもしれないが、そう急ぐ必要もないのではないか? 】
【それは………………】
当然の疑問だが答えにくい質問に俺は思わず生唾を飲み込む。
俺にとってはダイヤとの待ち合わせが明日の昼だからだが、ここは彼らにとってのメリットもしくはデメリットを考えて説明しなくてはいけない。
【………………食料は有限です。果実なんかも奴らは木をかみ砕いてしまうので一日でも早く倒さないと食料が尽きてしまうからです】
【確かにその通りだ。1日でも早いほうが良いな】
俺の説明にシャーマンは力強く頷いた。どうやらうまくいったようだ。
【それでは、早速始めるとするか……皆の者集まれええええ! ! ! ! 】
【お呼びですかいボス? 】
【どうしました? 】
【ボースー】
ボスであるシャーマンの言葉によりゴブリンが穴からぞろぞろと出てきた。小さいゴブリン数体に人間型のゴブリン6体ほど、最後にホブゴブリンが2体だった。
シャーマンは彼らに作戦の説明を始めたのでその様子を見守る。
【北東ってどっちですか? 】
【安心しろ! ワシが案内する! 】
【ケールーベーロースー? 】
【ワシらの食料をほとんど奪っている憎き敵のことだ! ああもう! 久しぶりに話せる奴と出会ったせいでこいつらの知能レベルを忘れていたわい! 】
次々と上がる質問にボスが答えていくが、様子を見るにどうやらここのボスも大変そうだ。
【穴はどうやって掘るのー? 】
【それは………………どうするんじゃ? 】
ホブの質問にシャーマンが頭を悩ませこちらにヒソヒソと尋ねる。それを説明していなかった!
彼らの手を見て回る。彼らの手に握られているのは大きさは違えど牙らしきものが所々に刺されたツルハシを持っているというわけでもなさそうだ。さて、どうしようか?
【ここの洞窟の時と同様に岩ではなく地面を砕くように下に叩いて掘って頂きそのあとは広げていけば良いと思います】
俺は囁き返す。
【おおそうか! 】
納得して再び説明を再開した。
それから数分後、俺たちはゴブリンの住処の北東方向に集まり穴掘りを開始した。
【うーーーーーーーおーーーーーーーーーーーーーーー! ! ! ! 】
ホブたちがズシン! と会心の一撃を地面に向かって放つと地面が抉れる。それを何度も何度も繰り返し十分な深さに至ったらたら次は人型のゴブリンや小型のゴブリンの番だ。次々と穴の中に入り協力して穴を広げていく。
そうして夜は交代制で掘っていき、明け方頃には大きな穴が完成した。
その穴に橋のように木の枝を架けたあとに木の葉をかけカモフラージュする。全部周辺にあったものなので作るのは容易だった。
【何とか完成したようじゃな、確かにこの大きさならケルベロスも入るだろう。それでどうやってここまで奴をおびき寄せる? 】
シャーマンが尋ねる。待ってましたとばかりに俺は口を開く。
【その役は私が引き受けます、時間がかかると思いますのでこの罠にかかるまで皆さんはお休みください】
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます