2-30「商人との会話」

「そういえば、俺がこうなったのも原因は君なんだ。何で店を放って森の中にいるのさ。」




「それはっすね…私にも色々と事情があるんっすよ///」




「そっか、1人であの店経営してるの?」




「いえ!店長と2人で経営してるんっすけど店長はまあ…ちょっと遠くで見張ってもらっていたところをオオカミに襲われたんですっかり離れちゃったんっす。」




 先ほどから彼女が顔を赤らめているが用事というのは一体なんなのだろうか?いや、こういうのは詮索しないほうが良さそうだ。




「じゃあ店長もこの森にいるわけか…。」




 流石に店長も迷子というのは洒落にならないのでそうではないと信じたいところだけど、森で迷子にならないってどうすればいいのだろうか?




「ところで、何でゴブリンさんは喋れるんっすか?成人済みとか言ってましたけどどういう事情で?」




「信じられないだろうけど、俺は別の世界から来たんだ。」




 隠す必要もないので本当のことを話す。まあこんな途方もない話そう何人も信じるわけもないし。




「へー、どんな世界だったんすか?」




 あっさり信じた!……のか?どちらにしてもどんな世界かというとどういえばいいんだろう?俺のいた世界は俺にとっては普通だったけど説明するとTVとかパソコンとかスマホとか意外と説明が難しそうだ。どれも一言で済みそうなものではない。




「えーっと………手紙とかなしで遠くの知り合いとすぐに連絡取れる世界かな。」




 かなり悩んで簡潔に纏めたけどこんなに悩んだら怪しいよなあ………。




 思わずため息が出る。しかしそれを聞いた彼女は両手で握りこぶしを作り目を輝かせていた。




「それって例えば今のこの状況ですぐに店長に連絡を取れたりもするんっすか!?」




「うん。」




「じゃあ、遠くのお得意さんとも連絡が取れたり?」




「出来ると思う、それどころか店に行かないで買い物をして全国に配送とかもできる。」




「くーっ!すごいっす!!それができればこうやって旅をしなくても商売ができちゃうんっすね!」




「まあ、その場合他の店も同じことをするから安くしたりタダで商品を送ったりと工夫しないといけないんだけどね。」




「ううっ…いいことばかりじゃないんすね。」




「そうなんだよ、便利な分問題もあってそういうも何とかしていかないといけないんだよね。都市部とか行くと色々と音が凄いし………」




 言いかけてふと俺は気付いた。彼女がどうしたのかと顔を近づける。




「そうだ音だ!ここの森は川が流れているから森の奥に近付くにつれて川の音、道に近付けば通ってくれれば馬車の音がするはずだ!!」




「なるほど!その手があったっす!」




 彼女はポンと手を叩いた後俺に倣って耳を澄ませた。すると、丁度ドタドタと馬車を引く音が聞こえた。




「こっちだ!」




 俺たちはその音がした方向へ木々を避けながら歩いていく。




「そういえば、さっき旅をしなくても商売できることに憧れているみたいだったけど旅嫌いなの?」




 さっきの会話で気になっていたことを聞いてみる。




「いえいえ、旅は勿論大好きっす!でもうちの商品なかなか売れないんっすよね………。」




 彼女が小さな声でつぶやいた。




「さっきチラっと見た様子だと武器売ってるんだっけ?」




「はい、でも一体何が駄目なんすかね、どれも一級品ばかりなのに…。」




「そんな良いものが売れないってのは確かに不思議な話だなあ。」




 彼女の悩みを聞きながら進んでいると木々の間から大きな壁が見えた。あれは───ニンビギの壁だろうか?となるとあそこがダイヤとの待ち合わせ場所か。




「みえた、ニンビギだ!とりあえず、まずはこのままニンビギの壁に平行に門のところまで進もう、そこからは道沿いに進めば馬車につく。馬車の商品をみれば店長が戻っているのかも確認できるし武器についても冒険者目線で何かアドバイスができるかもしれないから。」




 ダイヤとの待ち合わせ場所に向かう、あそこからならダイヤが既に来ているのかも確認できて森の中を道沿いに進めば馬車までも迷わずにたどり着けると一石二鳥だ。彼女の意見を聞こうと振り向くと何と彼女はこちらをみつめていた。




「ゴブリンさんって………冒険者なんっすか?」




「言ってなかったっけ?」




「聞いてないっす、何か高そうな剣持ってるな~とは思ってたっすけど。ていうかその剣どうしたんっすか?」




 不審顔で聞き返す言われてふと思い立ったように剣に手をかける。




「ああ、これは貰ったんだよ。」




 正直に答える。まあ正確に言えば本来は俺がもらうはずではない剣だったがそこは端折ってもいいだろう。




「へえ~ゴブリンにそんな立派な剣をくれる人がいるんっすね~」




 マズい、商人故に物の価値が分かるのか高価な剣を持っていることで何か怪しまれた。




「まあ、本来は俺がもらうものじゃなかったんだけど…」




 慌てて付け足すもまだ納得していないようだった。言われてみると確かにそうだ。1ゴブリンがこんな立派な剣を背負っているのは人には奇妙に写ったことだろう。




「分かったよ、最初から話す。」




 そう言って目が覚めたらゴブリンだったこと、流されて村を襲撃したこと、サイクロプスとの戦いの話をした。




「…とまあ、これが俺が剣を貰った理由という。」




「うーん、何というか余りに波乱万丈すぎて真実味がないっすけど店長が旅人から各地で魔王のペットとやらが暴れててこの近辺にはサイクロプスが出るとか言ってたっすね!」




「え、各地で?」




 自分の身の潔白を証明しようとしているのを忘れて半信半疑で聞き返す。やはりダイヤからも聞いていたけれどケルベロスの存在も噂ではなく魔王のペットというのはサイクロプスだけではなく各地に存在したのか…ダイヤのことを信用していないわけではなかったが1人より数人知っている人がいるとより信憑性が増す。




「各地でっすね、まあゴブリンさんが本当のことを言っているかどうかはこれからトータスに行けば分かるっすけど…」




 彼女は俺に疑惑の視線を向ける。




「馬車をみて探しに来て助けにまできてくれてこんなとこまで丁寧に道案内をしてくれるのをみると悪い人…ゴブリンじゃないってのはわかるっすよ。」




 彼女は笑顔で言った。




「ありがとう。」




 素直にお礼を言う。俺の話をしながら歩いているとダイヤとの待ち合わせ場所についた。まだダイヤは来ていないようだ、その時だった。




「トーハさあああああああんん!!!!」




 商人の姿が木により死角となっているときにこちらの姿を確認したようで彼女が声をかけながらこちらに走ってきた。


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