2-28「悲鳴」

 ♥


 ダイヤがニンビギに向かったので、再び木を上り葉の中に隠れる。彼女が体制を崩したときは本当に焦った。彼女は腰を抜かして立てない様子だったが、かといって試練で恐らく命が取られないところで飛び出したら突如現れたゴブリンに大騒ぎになると判断が難しかった。今でも正解だったと自信を持っては言えないけれど、彼女が「なんで飛び出してくれなかったのか!」と怒ることもなかったので飛び出さなかったのは間違ってなかったのかもしれない。


 日も暮れてきたので彼女を待つ間一眠り───といきたいところだが万が一人間に見つかったら襲われるだろうしうっかり木から落ちるというヘマもやらかす可能性があるのでそうもいかない。




 しかし彼女が来るまでは暇でだなあ。




 スライムの所に別れを告げに行きたいところだったが彼女が王様に会って冒険者として認められて帰ってくるまでの時間が分からない。この前はかなり早かったので長らく待たせるわけにもいかないと考えた。




 スライムの所へは彼女が来てから向かうとしよう、それにしても暇だなあ………。




 馬車がゴロゴロとする音と馬の泣き声がしきりに聞こえたので葉を手でかき分けて舗装されている道を見る。日が暮れ始めたので帰宅ラッシュだろうか?




 おや、あれは何だろう?




 俺が気になったのは一台の人を大勢乗せるための馬車ではなく周りが様々な飾りつけのようなものがされている派手な馬車だった。目を凝らすとそれは飾りつけのように見えただけで馬車を飾り付けるためのデコレーションというものではなかった。全てが剣や槍、弓、杖と言った武器だった。車内に入れるスペースがなかったのか武器が外側に所狭しと並べられているのだ。




 あれだけ武器があれば最悪モンスターに襲われても安心だな。




 しかしもう一つ気になっていることがあった。その馬車は森の近くで止まっているのだった。御者の姿も見当たらない───あれでは盗んでくれと言っているようなものではないのか?


 ニンビギの方を見るがたまに門から馬車こそ出るも人が出てくる気配はない。思い切って木を伝って馬車の近くまで近寄ってみる。ゴブリンの身体は軽く身軽なため太い木の枝から枝までそこそこの太さでも折れる心配もなく忍者のように移動することができた。しかしゴブリンの身体だと不便なのはここからだ、余り近寄りすぎると泥棒だと勘違いされてしまう!いや、それは人間でも不審に思われるだろうしあまり変わりはないだろうが───




 改めて馬車を近くの木から見下ろすも相変わらず人の気配はない。───店員は何処に行ったのだろう?




 辺りをキョロキョロと見渡しても人らしきものはなく馬車の音以外は静かなものだった。




 情けない話、みつけても俺が言っても怖がられるだけか───いや、ここから見張りをして盗もうという輩がいたら野生の振りをして追い払う位はできるか。




 まさか大事な店を何時間も放置するわけないからせいぜい10数分だろうと見張っているも30分ほど待っても来る気配すらない、御者は不審に思うもそれだけのようで止まることなく通り過ぎていく。




 限界か、ダイヤが戻っているかもしれないしそろそろ戻るか。




 来たように木を渡って帰ろうと決めたときだった。




「うぎゃあああああああああああああああああああああ!!!」




 森の中から大きな悲鳴が聞こえた。




 何だ、と森の中をみるもどこにも見当たらない。誰か今の悲鳴を聞いて助けに行きはしないかと道を見るとこういう時に限って道には誰もおらず、悲鳴は俺にしか聞こえていないようだった。




 ………俺が行くしかないか。




 俺は決心をして木を蹴り悲鳴の元へ向かっていった。




 ジャンプして渡れそうな距離にある丈夫そうな枝を見極めてビュンビュンと渡っていく。悲鳴が聞こえたのは1度、記憶を頼りにその場所へと向かう。




 しかし、マズいな。悲鳴が上がってから数分は経った。間に合わないかもしれない、悲鳴を上げるような状況なら数十秒あれば最悪な事態が訪れるには十分だろう。周囲を伺ったその時だった。




「はわあああああああああああああああああああああ!!!」




 再び大きな悲鳴が響いた。まだ生きているという証明で安堵するも急がなくてはならない!声がさっきよりも大きく聞こえる───近いぞ!




 俺は力強く木の枝を蹴った。




「ああああああああああああああああああああ!!!!!」




 声がすぐ近くで聞こえる。辺りを見渡すと遂に悲鳴を上げたらしき人物を見つけた!!!




 声を上げているのは───赤茶色の髪にツインテールで赤い帽子に白い服、青いスカートとトリコカラーを着こなした女の子だった!彼女を追いかけていたのは3匹のオオカミで彼女は腹をすかせ直線的に襲うオオカミを木々を華麗にすり抜けることで追いつかれずに逃げおおせていた。


 しかし、彼女の体力とオオカミの体力を考慮するとこの状況が長く続くとは思えない───




 待っててくれ!今助ける!!




 そう心で宣言した。



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