2-27「冒険者、ダイヤ・ガーネット!」♢


試験開始!と試験官の兵士が告げてからしばらく私たちは見つめあっていた。




「お先にどうぞ。」




 なかなか動かない私に業を煮やしたのか彼が口を開いた。




「すみません、私攻撃の魔法使えないないのです。」




 正直に告白をする、すると男が眉を吊り上げた。魔法使いが攻撃系の魔法を使わずにどうやって彼を倒すのか疑問に思ったのだろう。


 いきなり相手が熟練の兵士ということで他の冒険者がどうやってこの試練をクリアしたのか気になるが私のできることは1つしかない!『シルド』でのカウンターだ!




 私は生唾を飲み込む。相手はモンスターではなく人間だ!事前に唱えても突破されるだろう。であるならばチャンスは一瞬──────ギリギリまで引き付けてやるしかない!


 私にはそれしかない。失敗したら警戒されてしまうだろう。だからチャンスは一度しかない!───一瞬で一度の大勝負になる!!




「ですからお先にどうぞ。」




 こちらの考えを悟られぬよう向こうからの攻撃を促す。




「良いのですか?それでは遠慮なく。」




 そういって彼は木刀を構えて襲い掛かってくる!ギリギリまで引き付けるのはかなり綱渡りな賭けだがゴーレムと比べると柔軟な動きができると技術はあるだろうが迫力はない。


 それに何より───トーハさんはゴーレム相手に最後まで引き付けたのだから私が人間相手に失敗するわけにはいかない!!!




 彼が木刀を構え今にも振り下ろそうとする。




 まだ───まだ引き付けないと。




 彼が木刀を振りかぶり木刀が頭上から振ってくるように襲ってくる。




 ───今だ!!!




「『シルド!!!』」




 私が唱えた途端周囲にシールドができる。兵士はそれに気付き振り下ろす腕を止めようとするももう止まらない!木刀は勢いよくシールドに叩きつけられ折れる。




「ぐおおおおおおおおおおおおおおお。」




 それと同時に彼は両腕を押さえつけて倒れゴロゴロと地面を転がった。




「す、すみません!今治します!『ヒール!』」




 彼の両腕が緑色に輝く。痛みが和らいでいくようで兵士の荒い息が段々と大人しくなっていく。




「これは見苦しいところを………。まさかあのような手を隠していたとは………その戦法にギリギリまで引き付けた度胸。………文句なしの合格です。」




 彼が感心したように言った。




「おっと忘れていました、これが王様の言っていたものです、どうぞ。」




 彼がまだ痺れている手でとあるものを取り出した。それは───ペガサスが刻まれている丸い冒険者バッジだった。




「冒険者バッジ!これが試練達成の証だったのですね!!」




 私はバッジを受け取った。




「こ、これで私はようやく………。」




 感無量───私は誇らしげな気持ちでバッジをポケットにしまった。




「それでは、試験はこれにて終了です、お気をつけておかえりください。」




 彼が立ち上がり言った、私は頭を下げお礼を言ってその場を後にする。


 先ほど通った道を通りペーパーテストを受けた会場を抜け曲がり角に差し掛かった。私は左端によりながら歩いていく。やがて角の壁まで歩くと私は手を伸ばした。岩だったものは柔らかい感触がして皴ができた。




「ハッハッハ!お見事、今度は見破られてしまいましたか。」




 笑いながら壁を破りレンシさんが姿を現す。




「おや、失礼ですが試験を突破できなかったのですか?」




 私がどこにもバッジをつけていないことを見たのかそんなことを口にした。




「王様に報告してから付けようと思っていたのですが、もう付けてもよろしいのでしょうか?」




「そういうことでしたか、皆さん嬉しさのあまりその場でお付けなさるので早合点してしまいましたがそのほうが丁寧ですし良いですね。」




 レンシさんは最後まで洞窟を出るまで私のことを見送ってくれていた。






「ダイヤ、試練達成おめでとう」




 試練の洞窟から出て平野を越え道を下っているときにトーハさんがバッグ越しにお祝いしてくれた。




「ありがとうございます、トーハさんのお陰です。ドキドキしていましたがなんとか達成することができました。」




 幸か不幸か、私が実技を突破できたのは先に大怪盗パンルの洞窟での冒険があったからだった。あそこで『シルド』の攻撃手段への応用と実戦で経験を積まなければ突破することは不可能だったと思う。


 トーハさんは勿論のこと言い間違えた王様にも幾ら感謝をしてもし足りないくらいだ。幸せな気分で道を下る、一歩間違えたら滑って大けがに繋がりそうだから気をつけなきゃ!




「その、レンシという人の時はすぐに飛び出さなくてごめん。声と衝撃で察して覗いてみたら試練中に加えて剣を持ってなかったから判断ができなかったんだ。」




 トーハさんが言いにくそうにすまなそうに謝罪した。ふと足が止まる。




「別に良いですよ。気にしてませんから。」




 正直な気持ちを伝えた。あそこで不意を突かれたのは完全に私の落ち度だった。1人で本当の冒険だったらと考えるとゾッとしてしまうがそうではないのでレンシさんの言うように教訓にするためのいい勉強になったと思っている。


 それにしても、そのことをずっと気にしていたなんて………




「ふふっ」




 思わず声に出してしまった笑い声にトーハさんが不思議そうに「どうしたの?」と尋ねる。




「いえ、トーハさんって本当に優しい方なのですね。」




 何も言わなくなった意外と照れ屋なトーハさんは今頃顔を真っ赤にしているのだろうか?そんなことを考えて今度は悟られないように笑いながらニンビギに向かっていった。






 ニンビギに辿り着いた、トーハさんはいつものように木の所で待っていてもらい再び門を通り陽が沈みかけている中夕陽と同じ色の赤い目印を頼りに再び王宮に辿り着き荷物検査を受け王様の所へ来た。


 この1連の動作をわずか2日でもう何回も行っているせいか日課のようにすら感じ始めた。しかし、今回はいつもとは違い王様との面会の時の特別な持ち込み許可を得るべくバッジを見せたとき、小さな声で「おめでとうございます」と笑顔で祝福してくれた。




「おおう、ダイヤよ!今度こそ『とあるもの』を持ってきたのか?」




 広い玉座の間に座った王様が尋ねる。




「はい、何度もお忙しいところをお時間を頂戴し恐縮です。」




 本心からそう言い、ポケットからバッジを取り出す。心なしかバッジかキランと輝いた気がした。




「おおう、ここからでも分かるその輝くペガサス模様は!今度こそぶらああああぼおおおおおおおう!見事だダイヤ・ガーネットよ。これで其方は一人前の冒険者の資格を得た!!!皆の者祝え!新たなる冒険者の誕生を!!!」




 その言葉を機にその場にいた兵士たちから拍手が送られる。私は「ありがとうございます!」と頭を下げバッジを取り付けた。




「それでダイヤよ、ワシなりに其方への支援を考えたのだが、まずゴルドは当然として武器はオパールが太鼓判を押す杖を授けるということだったからこの本を授けよう。」




 そう言って王様は懐から一冊の厚い本と膨らんだ巾着袋を取り出し畏れ多いことに直々に立ち上がり私の元まで歩いて手渡してくれた。




「王様直々に………身に余る光栄であります!」




 私は頭が上がらず何度も何度も頭を下げ、玉座の間を後にした。




「ダイヤ・ガーネットに幸あれ!」




 兵士が扉を開け外に出ようとしたときに王様の声が響いた。私は王様の方を向き頭を下げ回れ右をして外へ出た。




「頑張ってくださいね。」




 荷物検査担当の方たちにも応援をされたので「ありがとうございます」と答え螺旋階段を下る。初めて来たとき女王様みたいと思っていたが、思えば何度もこの階段を下っていたのだなあとしんみりとする。


 王宮を出て赤い目印を元に入り口へと戻る。この派手な赤い目印代わりの通路ともお別れかな?次に来るときは魔王を倒したときがいいなあ。と考えながら入り口を目指す。


 そのとき、ふと剣を背負いながらも棍棒とリンゴで両手が塞がっていたトーハさんの姿が浮かんだ。そうだ!トーハさん用のバッグを買おう!そう思い立ってかばん屋へと入って行った。






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