1-13「踏破の覚悟」

「つまり、君の話をまとめると。君は何故かこの世界とは別の世界からゴブリンとしてこの世界にきてゴブリンたちに流されるまま村を襲ったときに、手がかりになるかもしれない私の娘ダイヤを攫い、色々と話を聞いているときにルイーダ君とサイクロプスが現れてサイクロプスを倒すもルイーダ君は殺されてしまったということか。にわかには信じがたい話だ。」


男は俺が話をしている間も、こちらをずっと睨みつけていた。警戒を解いたわけではなさそうだ。


「はい、そしてその手がかりがダイヤさんがみたという夢のきっかけとなった杖にある………と考えています。」


「杖………?ああこの杖のことか!ダイヤ!!私のバッグから杖を取りなさい!!!」


ダイヤは言われるがまま男が持ってきていた大きなバッグから杖を取り出した。


「え………?お父さん、これは一体………」


ダイヤがバックから出した杖はピカピカの新品のように綺麗で野球のボールくらいの円の部分に綺麗な黄色のオーブがセットされていた。


「ああ、私もダイヤが眠ってしまってから杖をみて驚いたんだがね………杖が変わっているんだよ!オーブをセットして変わったのを見るに、これがこの杖の真の姿なのかもしれない。」


2人の反応を見る限り、どうやらダイヤが見た杖と今の杖は違うようだ。杖が変わるなんて聞いたことがない………!それほど神秘的な杖だということか。


「この杖をみるに、君の話もあながち嘘ではないのかもしれん。私は喋るゴブリンも姿が変わる杖も見るのは初めてだ。」


「お父さん!」


ダイヤが嬉しそうに再び抱き着く。俺も、とにかく信じてもらえてよかったと思わず笑顔になる。


「ところで」


男が不審そうに尋ねる。


「なんでゴブリンなんだね?モンスターならほかに幾らでも強いのがいてなんなら人間でもよかっただろう?」


「それは………僕も知りたいです。」


「実は、私も最初は魔王を倒してほしいと願ったのですけどそれはできないと言われまして………」


どうやら杖でも叶えられない願いもあって全てが思い通りの万能もの、ということでもなかったようだ。


「そうだ!、お父さんはこの杖を触ってなんともなかったの!?」


ダイヤが突然思い出したかのように父に尋ねる。そうだ、ダイヤは杖にオーブをセットした瞬間、妖精が出てきたという不思議な夢を見たと言っていた。

つまり、ダイヤの父がこうやって杖を持ってくるには触れなくてはならなかったはずだ!そのときにダイヤと同じことが起こったかもしれない。


「いや、何も起こらなかった………いや、この杖を手にしてから一刻も早くダイヤに届けなければ………という気持ちが強くなったような気がするな。」


「それってつまり………」


「ダイヤを主として認めたってことじゃないかな。」


何も起こらなかったのは、ダイヤを主として認めたからなのだろう。

万能ではないとはいえ主と認めればどんな願いも叶えてくれるというのが人の手に渡るごとに何度も何度もされていては、妖精もたまらないだろうし。持ち主から離れると鞍替えではなく持ち主の元へ持っていきたくなるとは、浮気性な杖でないようで何よりだ。


「この杖に認められたというのは何よりだ。さてダイヤ、旅に出る前からこんなことになってしまったが、今後どうするつもりだ?」


ついにこの時が来た。ダイヤは明日、いやもしかしたら今日既に18歳なのかもしれない。こんな過酷な出来事があっても冒険者として出発しないといけないというのはダイヤの家柄の辛いところだろう。

しかし、これは俺にとってはチャンスだ!


「すみません、えーっと………ダイヤさんのお父さん」


「オパールだ」


「オパールさん!僕は阿藤踏破と言います、どうか僕にダイヤさんと旅をさせてください!!!サイクロプスと戦って分かりました、魔王と戦うにはパーティが必要です。1人で旅に出ても死んでしまうでしょう。ダイヤさんは僕が責任をかけて守ります。ですからどうか、僕にダイヤさんと一緒に旅をさせてください!!!」


俺は地面に正座し手をつき頭を下げる土下座の姿勢のままで言った。土下座はこの世界の人には伝わるのだろうか………

オパールさんに言ったことはすべて本当だ。サイクロプスは3人の協力で倒せたもので1人だったら勝てなかっただろうしゴブリンということは、ゴブリンからは情報を得られるものの、人間から集めるということは不可能だ。人間とゴブリンの情報どちらも得られるというのはかなりの利点になるだろう。だが、ゴブリンではパーティを組むことすら難しいどころか不可能に近いだろう。

ならば、こちらのことを知ってくれていてさっきも俺のことを庇ってくれたダイヤと一緒に旅をしたい!責任をもって守るという言葉に嘘はない!

もしだめならば、もう道はない………ここでオパールさんに首を斬ってもらっても構わないという気持ちだ!

それほど真剣だった。


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