1-11「死闘、決着」

「遂に10本目だ!!!」

 後ろに村の景色が広がっていた、サイクロプスの攻撃を避け続け遂に10本目!

 10本目を越え村までの景色が一面に広がる。それを確認してしばらく走った後に俺は振り返った!


 丁度サイクロプスは1本前の9本目を通ったところだ、次がルイーダと約束していた………10本目!!!!

 今にルイーダが飛び出してサイクロプスの目を一突きにしてくれるだろう!!!


 ───しかし、10本目を通過してもルイーダは現れなかった。


 どういうことだ………………まさか逃げたのか?俺達は彼にまんまと嵌められて逃げるための囮にされたということか………?


 そのときだった。


「はああああああああああああああああああああああ!!」


 ルイーダがサイクロプスの後ろから頭めがけて剣を突き刺さんとばかりに構えて飛んでいた。


「おい、段取りは………!」


「ゴブリンのいうことなんて信用できるか!!!!死ねえええええええええサイクロプス!!!!」


 ゴブリンの意見より剣士としての直感を優先したのだろう。

 しかし、サイクロプスは通り過ぎたときにルイーダがいると分かっていたのだろうか?先ほどの経験だろうか?確かなことは分からないがこれまでののろい動きが嘘のように素早く振り返り丁度裏拳の形でルイーダの身体に直撃する。そしてルイーダがドスン!と木に叩きつけられた。


 やられた………?


 サイクロプスの一連の動き全てがスローモーションに見えた。しかし実際は瞬時のことでにわかには信じられなかった。


「ルイーダ!」


 あまりのことに呆然としていたところにダイヤの声で我に返った俺はダイヤを担いだままルイーダの元へ駆け寄った。


「おい、大丈夫k………」


 声をかけようとしたが余りの惨事に言葉が詰まった。鎧が砕かれ胸部が露わになっていて、辺り一面が真っ赤に染まっている。


 嘘だろ………あの一瞬に…たった一発食らっただけでこんなことに………。


「ルイ…ー…ダ」


 ダイヤも名前を呼ぶのがやっとのようだった。顔を見なくても声で泣いていることは分かる。

 無理もない、友人がこんな姿になってしまっては………


「ダイ……ヤ………?」


 鎧で衝撃を防いでいたおかげか即死は免れたようだ。しかしこの傷では………


「はや…く…回復を………、こうなったら…君の…攻撃魔法で……サイクロプスを……」


 何とか彼は言葉を紡ぐ。


「ごめんなさい、ルイーダ…私今杖を持っていなくて、魔法が使えないの…ごめんなさい」


 その様子をみて彼女は両手を握りしめ自分の無力さを嘆くように告げた。


「…使えない……?ハハハハハハハハッハハハハハハハ!アーハッハッハッハッ!クソが!使えない奴め!何のためにお前と旅に出てやろうとしたかもわからないのか!?こういう時のためだ!クソ!役立たずが!そういうことならもっと良い奴はたくさんいたのに!ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!」


 最後の力を振り絞るかのように悪態をつくルイーダの余りの豹変に目を見開いた。


 本当に目の前にいるのがあの好青年だったルイーダなのだろうか?これが彼の本性だとしたら余りにも恐ろしいことだ。


 しかし、驚いている俺とは対照的にダイヤはごめんなさい、と何度も何度も謝罪している。


 もしかして………彼女は知っていた?だから………嫌だったのか?それに、この傷は仮に彼女が杖を持っていたとして治せていたのだろうか。


「ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!ちくしょ………」


 何度も何度も悪態をついて、ルイーダは動かなくなった。


 そしてその様子を、サイクロプスはニヤニヤと顔に笑みを浮かべながら眺めていた。

 先ほどから攻撃を仕掛けてきた男は今ので致命傷を負い、目の前にいるのはゴブリン1体と泣きじゃくる女1人、もはや抵抗はできないという故の余裕だろうか。

 サイクロプスはこの状況を、ダイヤの泣き声をBGMのようにこの光景を見世物のように楽しんでいた。


「この剣、借りるよ。」


 その余裕な表情で見物している隙にできるだけのことをしようとルイーダの持っていた剣を取る。死者の持ち物を取るのは気が引けるがそうも言ってられない。


 あの巨大な目を狙うにしてもさっきのをみるに奴の視野は想像以上に広い、そして、先にはもう町しかないのでおそらく木に登り攻撃という戦法はもう使えない。


「君は奴が攻撃してきたら村に向かって思い切り走るんだ!!!」


「え………?それじゃあトーハさんは?それにルイーダをここに置いていくなんて………」


「大丈夫だ、俺に考えがある!!サイクロプスを倒してから迎えに来ればいい!!」


 左手に松明、右手に剣、一か八かの大勝負だが、彼女を安心させるため俺は自信満々に応えた。

「よし、1、2の3で行こう!3と言ったら右側から村めがけて全速力で走ってくれ!」


「はい!」


 彼女は力強く頷いた。


「行くぞ、1、2の………3!!!」


 俺たちは勢いよく走り出した。

 サイクロプスは突然の行動に怯みはしたものの鬼ごっこが再開された程度の認識だったのだろう。ニヤニヤしたままギョロリと大きな目で標的を見据え動き出す。

 やつの視線から推測すると標的は───ダイヤだ!!!


 狙いはダイヤか!!!させるかよ!!!


 俺は奴の股の下に入り、松明を持っている左手を伸ばせるだけ伸ばす。ゴブリンだから相手にしないのは勝手だがそうなったらどうなるのか…思い知らせてやる!!!


 サイクロプスはダイヤを狙い移動するも歩幅は大きいものの動きは前回のようにゆっくりなので、こちらとしては全速力で走らなければならないが問題はない、しかしもし先ほどルイーダを殺す時に見せたスピードが本来の姿で今は遊んでいるだけだとしたら………一刻の猶予はない。奴が飽きるのが先か、【その時】がくるのが先か………


 サイクロプスの下を聖火ランナーのように松明を持ちながら走ること数十秒、パチパチパチという音がする。ついに【その時】が来た!!!股の下からする不審な音に何やら焦げたような臭いにサイクロプスは立ち止まったのをみても俺は走るのを辞めず股下から抜け出した。


「があああああああああああああああああああああ!!!!!」


 俺が抜け出すや否や、サイクロプスの身体が途端に燃え出す。


「トーハさん、これは一体………?」


 ダイヤが村へ向い走るのを止め、こちらを向く。無論、サイクロプスの身体に火をつけた訳ではない───俺に魔法は使えない。


「奴の服に松明で火をつけたんだ」


 ダイヤが村に着くまでに火がつかない、もしくは股下の俺を先に排除しようとされたら終わりの一か八かの賭けだった………。しかし………うまくいった!サイクロプスは今や身体が燃えていることに動揺し俺たちのことは眼中にないだろう!今がチャンスだ!!!


「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」


 俺は叫びながら今度はサイクロプスのほうへ全速力で走り奴の目をめがけて松明を投げる!奴は手で燃えた服を引き裂こうと必死だがうまくいかないようだった。


「うがあああああああああああああああああああ!!!!」


 突如目の前に現れた松明をサイクロプスは慌てて手で振り払う!これで奴は片手は使えない、もう片手は服を破くのに集中している上に奴は今混乱している………!!!


「はあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」


 俺は勢いよくジャンプし何の障害もなくサイクロプスの懐に入る。


 そして───


 ズブッ!!!!!!!!!


 力を込め勢いよく奴の目に剣を突き刺した───!!!!!!


「がああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!???!!!」


 辺りに大きな断末魔が鳴り響く


「っ………!!!」


 余りの騒がしさに俺たちは耳を塞いだ。


 数分くらい続いただろうか、やがてやつはズシン!!!と大きな音を立てて崩れ去り───動かなくなった───。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る