1-9「サイクロプス襲来」

苦笑いをして困っている様子の彼女を見て確信する。


 どうやら俺の身体がゴブリンなのは彼女が指定したわけではなさそうだ。妖精とやらの趣味だろうか?だとしたら悪趣味かつ迷惑だとしか言いようがない。


「そういえば、まだ君の名前を聞いていなかった。俺は阿藤踏破、君の名前は?」


「アトー・トーハさん…?変わった名前ですね。」


 ちょっとイントネーションが違うのを聞いて、このような名前が馴染みのない異世界なのだということを痛感する。


「私は、ダイヤ・ガーネットです。」


「それは、キラキラしていて眩しい名前だね」


「ふふっ…よく言われます。」


 そう言ってダイヤは笑った。こう、落ち着いてみてみるとかなり可愛い子だ。彼女の笑顔は名前の通りキラキラと輝いていて眩しい。俺が冒険者だとしたらこの笑顔だけで攻撃魔法が使えないというちょっとしたハンデなど気にせずパーティに加えたいと思うのだが、命がけとあって冒険者もストイックになっているのだろうか。


 縄を解くのも忘れ、俺がダイヤとそのように会話をしていた時だった。


「おーい、ダーイヤー、そこにいるのかー?」


 男の声が森に響いた。


 声のした方向に目をやるとうっかり辺りの木に火をつけないようにと細心の注意を払いつつ木を避けている赤い火の玉がこちらにだんだんと近づいてくる。

 やがて、それは男が松明を持っているのだと確認できた。


「どうやら、迎えが来たようだね」


 名残惜しいことだが彼女は人間で俺はゴブリンだ。これ以上一緒にいると迷惑になってしまう。


 俺はダイヤから離れ、ひとまず木の裏に隠れて様子を見る。


「ええ、ですがあの声は………」


 どういうことだろう、迎えが来たはずなのにダイヤは喜ぶどころか浮かない顔をしている。

 思えばこの声は村にいたダイヤの父とは違う、ということはもしや………さっき話をしていた同期の人だろうか?


 彼女の反応に疑問を抱きながら木の陰から覗いているとやがて男がダイヤの目の前に到着する。


「大丈夫かい、ダイヤ?」


「ルイーダ、やっぱりあなただったのね!」


「ああ、この辺りを探していたら君の声が聞こえたからね。ゴブリンは?」


「私を縛った後、向こうへ逃げてしまったは…」


 何というか、会話を聞く限り特に嫌味なところもない好青年どころか剣を持っていることと新しく買ったらしいピカピカの銀の鎧が似合っている顔をみると、イケメン剣士とか格好良すぎて羨ましい。


 あの好青年と旅をすることのダイヤは何が嫌なんだろう………。頼みの綱の杖の願いで召喚された俺はゴブリンであの剣士と旅をしたほうが苦難はないだろう。そもそもゴブリンと旅をするって………絶対目立つだろうし不便もあるだろう。

 というか制約があるとはいえ人間の彼女と違い俺はゴブリンだ………パーティーを組みたいなんて物好きはいないだろう。

 ってそれじゃあ結局俺は一人で旅をして魔王とやらを倒さないといけないのか………!?

 いっそ俺のことを知っているダイヤがいるしあのルイーダという青年のパーティに加えてもらうというのはどうだろうか?

 いいや、彼からすれば俺はダイヤを攫った憎むべき敵で………


 俺がどうするのか今後のことをあれこれと考え始めたそのときだった!ズシン!ズシン!と何やら大きな音が鳴り響いた。


 ズシンズシンズシンズシンズシンズシンズシンズシンズシンズシンズシンズシンズシンズシンズシンズシンズシンズシンズシンズシン!


 気のせいじゃない………それどころかどんどん音がおおきくなってきていないか……?心なしか地面も何か恐ろしいものの到来を知っていてそれを恐れて上下に震えるように揺れているように感じる。


 ズシンズシンズシンズシンズシンズシンズシンズシンズシンズシンズシンズシンズシンズシンズシンズシンズシンズシンズシンズシン!


「な、なんだこの揺れは!?」


 彼らも音に気が付いたのかキョロキョロと辺りを見回す。すると、音がピタっ止まった。


 地震か?この世界にも地震があるのか………?それにしてはやけに揺れというよりは音の大きいものだったがこの世界の地震はそういうものなのだろうか?

 それとも………


 俺が考え事をして最悪の結論に達するか否かのそのとき、葉っぱをかき分けながらこちらに向かってくる一つ目の巨人の姿が視界に入った。巨人は背丈が木と同じくらいの高さで1つだけでも問題ないというようなギョロリと大きな丸い目、身体には葉っぱとツルで作ったであろう服が原始人のように雑にまかれていた。

 武器は持っていないようだが、あの巨体と筋肉質な肉体をみると人間を、この森のモンスターを蹂躙するのに武器など必要がないように感じられる。


 一つ目の巨人、間違いない………サイクロプスだ。


 サイクロプスがギョロリと大きな目で彼女たちを見ていた。

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