1-1「異世界転生」
♥
「踏破君、これは一体どういうことだね。」
「すみません。」
俺は課長に謝罪をする。俺の名前は阿藤踏破、黒い髪に黒縁眼鏡をかけ足長スーツを着こなすいたって普通の会社員!そこそこの会社に勤めていて今は課長に八つ当たりで怒られている。
課長は自分の企画が通らなかったようでご機嫌な斜めだ。
課長は何時も「お前にはわからん!」と部下の意見を聞かず、自分で企画を考えてはその企画書を部下に制作させる。
ここに配属されてから一度そのことを指摘したせいではれて課長に目をつけられてしまったというわけだ。
何十年と生きてきた人が新人の意見1つで「はいそうですか」と変えれるなら既に誰かが変えていたことだろう、あの頃は若かった───と我ながら思う。
といってもほんの数か月前のことなのだが。
「踏破君でも踏破はできなかったな。」
課長はお気に入りのように最後はこの洒落を言う。名前で弄られるのはこれで何度目だろうか。「踏破」という大層な名前から名前で弄ってくるのは無論課長が初めてというわけではない。
思えば小学生の運動会ではラストの大量得点チャンス運動会名物組対抗リレーを前に例えうちの組が1位2位をとっても勝利できない鳥ブルスコアをつけられ大敗をしたときは随分と弄られたものだ。
「お疲れ様です。」
課長の指導を終え席に着く俺に留美さんが優しく声をかけてくれる。目がクリっとしていて美しい黒髪ロング、おまけに優しいとまさに理想の女性だ!果たして彼女を狙っているのが何人社内にいることか……
夜19時、今日はいつもより格段に早く退社した俺は雨降る道の中を傘をさしながら歩きながら考える。
いつものことながらショックを受け、今後あの部署では自分の企画は何一つ通らない気さえしてくる。このままでいいのかな?雨雲を見つめながら考える。そのときだった!
『助けて…』
脳内に誰か女性の声が響いた
誰だろう、辺りをキョロキョロと見まわすが雨が降っているこの時間帯ということもあって人通りもまばらで助けを求めてそうな人物はいなかった。
「ああ、助けるよ」
幻聴かもしれないが困っている人がいるとなると放っておけず強く念じたはずだったがいつのまにか呟いていた。
ビカビカビカガシャーン!!!
突然、雷が落ちた!落下地点はなんと、今まさに俺が立っている場所だった。
「へ?」
当然、雷を避けられるわけもなく見事に直撃してしまう。何かがピカっと光ったと思ったらのことで悲鳴を上げる暇もない───
死ぬ────ここで?
雷に打たれて死ぬ、余りに唐突に訪れた死に驚きを隠せない。このまま何も成せぬまま死んでいくのか───
嫌だ!!!ここで死にたくない!死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない────
どれだけ強く想っても空しく意識は遠のいていく。助けられなかったけど、一体あの声は誰だったのだろう
薄れゆく意識の中、そのことが気がかりだった。
「ん…んん」
目が覚めると松明の火に照らされた薄暗い場所だった、かび臭い匂いに見上げると天井は岩で気がつけば横たわっていた身体にもゴツゴツとした感触がある。
生きてる………のか?しかし雷に打たれたはずの俺が何故洞窟に?
「ギギ、ギギギギギギギギギギ」
【よお、目が覚めたか新入り】
戸惑う俺の元に妙な鉛の言葉を発した何者かがこちらに近づいてくる。誰だろう?
雷に打たれ死んでしまったはずの俺がこうして生きていてそんな俺に人が近付いてくるという状況を考えると近づいてくる人は状況的に考えると命の恩人だろう。実は雷よりも速く動ける人がいてその人が助けてくれたということなのか?いや、雷には撃たれたはずだ、雷に打たれた俺をすぐ助けてくれた医者というほうが説得力があるか………なんて考え事をしていると近付いてくるものの姿が松明の火により明らかになった。
「……!?」
あまりの衝撃に叫ぼうとしても声が出ない。
近づいてきたのは尖った鼻と耳にギラリと鋭い目、小型で全身が緑色の怪物────ゴブリンだった
なぜゴブリンが!?いやそんなことよりも何とか逃げ出さなくては!まだ眠っているふりをして薄目で辺りを見回すが残念ながら出口はゴブリンの入ってきた1つしかない、ならば奴を倒して突破あるのみだ───!
何か武器になりそうなものはないかとキョロキョロと辺りを見回す。
武器になりそうなものは───松明だけか。アレをぶつけてれば走り出せるだけの時間は作れるだろう、寝起きというハンデはあるがやってやる!絶対に逃げ切ってやる!!
どういう状況かもわからないに加え何のためか知らないが幸い俺は生きている。人質だろうか?いや、この国にゴブリンがいるなんて聞いたことがない……そもそもこんな洞窟や松明なんて今の時代この国で使っている所があるのか…?
とにかく生きているなら今やることは一つ、奴の隙をついて松明を奪い逃げだすしかない!!覚悟を決め俺は身構えた。そのときだった、いやもっと前から視界に入ってはいたが初めてそこで意識をした。
俺の手がある位置に何か緑のものがある!俺の手は何処だ⁉
身体の、今までやっていたように手を動かし手を探そうとする。しかし動いたのは見慣れた肌色の手ではなく。視界に移っている緑の物体だった。ガバッ!!!と勢いよく身体を起こす。
「ギギギギギギギギ」
【なんだ起きたのか】
さっきまで寝ていたふりをしていたことなど忘れて勢いよく起き上がり身体を触る、そこには俺の普段触っている顔の感触とは異なる、奴同様の尖った鼻と尖った耳があった!身体も緑色になっている!
なんということだ……俺は………………ゴブリンになっている!!!!!!!!!!!
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