第66話 いよいよ開催大運動会!

 三カ国で行う大運動会の準備も順調に進み、この提案をした晩餐会から七ヶ月、ようやく明日、ブラウエール国とターレナン国の王族と騎士団がこの国に入国する。


 検問所で翻訳ブレスレットを配布する手はずになっているので、入国して言葉で困ることはないだろう。


 季節は秋になり、運動会をするにはちょうど良い季節だ。


 アンドレお兄様に任せっきりだった樹脂車輪とサスペンションもようやく完成し、まずは王家に売りつけることに成功。


 サスペンションとカッコ良く言っているが、ようは頑丈に出来た大きなスプイングバネを4つある車輪に装着する仕様だ。

 でもちゃんと『揺れ軽減、振動吸収』の術を施してあるので効果は絶大だ。


 我がリシャール領で作成した樹脂車輪とサスペンションを王都の商業ギルドへ運送するのに、一度に運べるのが馬車一台分の部品だけだと嘆くアンドレお兄様に荷馬車の荷台ごとマジックバックにする事を提案。


 私がルメーナ文字で魔法陣を構築し、無限亜空間を展開した。

 これで大荷物も運べるようになった。

 もちろん、盗難防止に使用出来る人間を特定するのも忘れない。

 そして、類似品防止に企業名を『リシャドール』とし、エンブレムを刻印しての販売だ。




 バルト殿下は長い間離れていた家族に会えることでとても嬉しそうだ。

 

『マリア、僕の両親にぜひ会ってね。マリアのことを父上と母上に紹介するのが待ち遠しいな』


 バルト殿下ったら、なんて可愛いのだ。

 そうだ、バルト様のご両親にも乗り心地抜群の馬車をお勧めしてみよう。

 ナイスなアイデアに思わず頬が緩む。


『私もバルト様のご両親にお会いするのが楽しみです』


 そんな私の手を微笑みながらギュッと握るバルト様。


『じゃあ、僕たちの気持ちはお互い一緒だね。僕は第三王子だからなんの障害もないんだよ』


 ほお~

 バルト様は第三王子なんだ。

 障害ってなんのだろう?

 そうだ、後でバルト様にも翻訳ブレスレットをあげなくちゃ。


 大運動会では、テオドルス隊長がお世話になったお礼にとアナウンスを買って出てくれ、大運動会を盛り上げてくれるようだ。


 翻訳のブレスレットを渡そうとしたらベリーチェに言葉を教わったので大丈夫と言う事だった。

 さすが、テオドルス隊長だ。


 両国の皆さんが我が国に入国して旅の疲れがとれた三日後に予行練習、その二日後に本番だ。


 私、ルー先生、ジーク様、アスさんは大運動会実行委員として競技に出場しない騎士団の皆さんと裏方のお仕事をする予定。

 衣装もお揃いのブルーの長袖のシャツに濃紺のスラックス、アスさんに作って貰ったインカムで情報の共有もバッチリだ。


 そして、ランとナタリーには極秘任務を任命。

 ちょっとカッコ良く言ってみたが、早い話がカメラマンね。

 ギラギラした目でやる気満々の二人の様子にちょっと引いたことは内緒だ。





 **************




 さて、今日はいよいよ本番。


 綺麗な秋空が広がる中、三カ国の選手が勢揃いする様は圧巻だ。


 それぞれの国の動きやすい騎士服着用だが頭には色分けしたハチマキが運動会らしい存在感を醸し出している。


 我がシャーナス国は青、ブラウエール国は赤、ターレナン国は黄色だ。


 二日前にちゃんと予行練習もしたからバッチリだ。



 その予行練習だが、初めての試みの三カ国大運動会とあって初っぱなから緊張の空気が会場に漂っていた。


 そんな中、拡声器片手に真剣な表情をしたテオドルス隊長が壇上へと立つ。


 厳つい顔つきに見合った野太い声が拡声器から流れた。


「しょれでは、しゃんかこくのみなしゃん! これよりだいうんどうかいをかいしゃいしましゅ!」


 ギョッとしてルー先生とジーク様にインカムで『テオドルス隊長を捕獲せよ』と指示を出した。

 二人は慌ててテオドルス隊長を羽交い締めにし壇上から引きずりおろした。


「なにしゅるでしゅ?! はなしゅでしゅ!」


 なおも暴れるテオドルス隊長を押さえつけ無理やり翻訳ブレスレットを装着させたのだった。


 なんてこったい、テオドルス隊長が習得したのはベリーチェ語ではないか。


 30過ぎの厳つい男から発せられる幼児言葉は、もはやホラーでしかないぞ。

 可愛さが一ミリもない分、怖いだけだ。

 それを良しとするのはある種の性癖を持つ特殊な人種だけなのだ。


 まあ、テオドルス隊長の第一声で会場の緊張の糸が切れたことは否めない。


 ブラウエール国の皆さんに至ってはテオドルス隊長が身を削って自分達の緊張をほぐしてくれたと感激していたくらいだ。


 身を削りすぎにもほどがある。



 そんな予行練習を経て迎えた今日の本番である。


 翻訳ブレスレットを装着したテオドルス隊長の開催の言葉を引き継ぎ、各国の代表選手たち三人の選手宣誓。

 会場の観客も満員だ。


 そして競技が始まった。

 プログラム1は綱引きだ。


 あらかじめアスさんに作って貰った録音機能付きプレイヤー。


 私がピアノで弾いた運動会定番の曲を録音し、それを競技に合わせて流す。


 ああ、懐かしい運動会の光景だ。

 出場しているのは可愛いとは言い難いマッチョの男達だが。


「おらぁ! お前たち! しっかり引っ張れ! それがお前達の本気なのか?! おらぁ、おらぁ、いい加減なことやってるとぶっ殺すぞ!!」


 ん?

 なんだか、平和なはずの運動会にはおよそ似つかわしくないワードがスピーカーから聞こえる。

 アナウンス席を見ると物凄い怖い形相でマイクを握るテオドルス隊長がいた。


 テオドルス! やめんかい!

 私はアナウンス席に走るとテオドルス隊長からマイクを取り上げた。


「申し訳ありません。ただいまのは放送事故でございます。ここからはアナウンスを交代いたします」


 アナウンスはランにバトンタッチだ。


 そして、アナウンス席の後ろで私はテオドルス隊長に運動会とは何たるかをこんこんと説明したのだった。


「マリアちゃん、もう止めてあげて。十分反省してるみたいだから」


 仕方ない、アスさんがそう言うのなら解放してあげましょう。




 プログラム2はリレー。


 各国の早足自慢が勢揃いしレースがスタート。

 概ね順調な滑り出しだ。


 観客の応援も盛り上がっているようだ。


 そんな中、三人のごぼう抜きをしてトップでゴールしたのはターレナン国の選手だった。


 ゴールテープを切りガッツポーズ。


 女の子のような可愛らしい容姿をしたこの少年は会場中の拍手を攫っていた。


 私はここぞとばかりにシャッターを切る。

 ランがアナウンス席に引きこもったので私がカメラマンとなったのだ。


 このカメラは魔道具になっていてシャッターを切ると別の場所に置いてあるプリンターから自動で写真が出来上がる仕組みになっている。


 今頃、女官さんや侍女さん達の休憩所に配置したプリンターから排出される写真を皆で厳選して値段をつけているだろう。


 そう、この大運動会で撮影した写真は会場出口で売りさばくつもりだ。

 その許可をヒューベルト殿下に貰いに行ったところ、物凄く嫌な顔をされたが、収益は孤児院に寄付するつもりだと言うと途端に許可が出た。


「すまない。僕は君を誤解していたようだ。金の亡者と書いてマリアと読んでいたよ。これからは改めよう。さぁ、許可証だ、持って行くと良い」

 

 誰が金の亡者じゃ!

 失礼な奴だ。

 売りさばく写真の中にこっそりとヒューベルト殿下のプライベート写真も混ぜてやる。




 さあ、いよいよこの大運動会のハイライト、プログラム3の騎馬戦だ。


 選手達は自分達の陣営で準備をする。


 観客から『キャーキャー』と黄色い声が飛び交う中、各国の選手達が勢揃いした。


 私とナタリーは一心不乱にシャッターを切る。

 ふふふ、騎馬戦は上半身裸がルールなのだ。

 これは私の個人的な趣味ではないぞ。

 騎馬戦は下手に服を着ていると引っ張られたりして危ないんだよ。

 本当だよ?


 それにしても、さすが騎士団の騎士様達だ。

 無駄な贅肉の付いていない筋肉質の体は芸術的な美しさだ。

 そして皆さんイケメン揃い。

 これは写真が飛ぶように売れるだろう。

 




 ***************




 三カ国大運動会が無事に終わった翌日、王城では各国の選手達の戦いを労い、立食パーティが行われた。


 優勝したのはターレナン国だ。

 二位がシャーナス国、三位がブラウエール国という結果となった。


 でも終わってみると三カ国の騎士様達は国関係なくお互いの健闘を褒め称えていた。


 私達、大運動会実行委員として動いたメンバーとランとナタリーも参加。


 各国の王族も出席するパーティだったので一応正装。


 ランとナタリーも元が美人さんなのでドレスを着用するとどこのご令嬢かというほどの仕上がりで騎士様達の視線を集めていた。


 そして私は子供枠と言うことでバルト様とテーブル席で食事中。


「マリア、これ美味しいね」


「バルト様、こっちも食べてみて下さい。美味しいですよ」


 そんな和んだお食事中にバルト様のご両親が挨拶に来た。

 ブラウエール国の国王様と王妃様だ。


「ああ、そのまま座ったままで良い。マリアーナ嬢、この度は我が息子、そして我が国共々救って貰い有りがたく思っておる」


 ひとしきりお礼の言葉が続き、恐縮していると、バルト様が声をあげた。


「父上、僕はこの国に来て運命の女性と出会いました。我が国へ連れて帰りたいと思います。お互い一緒の気持ちを確認しました」


 なんと! 爆弾発言炸裂ではないですか!

 お互いに一緒の気持ちなんてすごいじゃないか。

 ああ、5歳児でさえも自分で嫁を見つけるなんて。

 私ったらかなり出遅れているわね。

 バルト様と相思相愛のご令嬢は誰でしょうね?

 私が運動会の準備で忙しくしている間に運命の出会いが会ったようだ。


「まあ、バルト、それは素敵ね。そのお嬢さんはどちらにいらっしゃるの?」


 王妃様の柔らかい声にバルト様は答えた。


「はい! ここに居ます。マリアです」


 はい? いまなんと?

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