第5話 楽しい日々、最高のリゾート(その1)
隣は女子のコテージだ。
幸いホテルも予想してか、エキストラ・ベッドが各コテージに1個づつ入れてあった。
コテージは入るとまず居間が12畳ほどあり、向かって左側にキッチン、その奥がバスルームとなっていて、居間の奥のベッドルームとつながっている。正方形の形だ。
「うぉー」
まず柴崎が荷物をおくとベッドに身を投げ出した。宇田川はコテージの各部屋を念入りに見て回る。
俺もベッドに寝転ぶ。朝が早かったから布団が気持ちいい。このまま眠りに入りそうだ。
宇田川は一通りコテージ内を見て満足したようだ。よく新しい環境に連れてこられた動物が、まず臭い付けに色んな場所をウロウロするというのを思い出した。
「なにいきなり寝に入ってるんだよ」
宇田川は自分の荷物を取りながら入ってきた。
「このコテージすごい金かかってるぞ。フロなんかも総ヒノキで大きく作ってある」
吉岡は風呂をチェックしてきたようだ。
「一応木材とかで作ってて和風っぽいんだけど、全体的な雰囲気とかが洋風なんだよな」
俺は自分が感じていた事を言った。
「な、来てよかったろ」
柴崎が自分の腕を枕にしながら言った。
吉岡は荷物をさぐりながら
「ああ、こんなにいいとは思わなかったよ。これなら1人で金払ってでも来たいね」
俺が「しかし、ここ一体どこなんだ?」と言った時、ドアが勢い良く開いて秋田が入ってきた。
「ねえ、あたしらのトコ、ベッドが1つ足りないから運んでよ」
と言う。
「おまえは床で寝ればいいじゃん」
柴崎は面倒臭そうに言った。
「あっそ、そういう態度とるわけ?誰のおかげでミツモとアカは来たんだよ?」
「少なくとも秋田のおかげとは思ってねぇよ」
柴崎も相当に秋田を嫌ってるなぁ。
秋田はマジに怒っている。俺も宇田川もこれ以上怒らせてはマズいと思って
「ジョークだよ、運んでやるよ。空いてるコテージがあるから、そこからベッドを運べばいいんだろ」
寝転がってる柴崎をおこし、3人で使ってないコテージからエキストラ・ベッドを女子のコテージに運びこんだ。
ベッドを置いた俺達に蜜本が話しかけてきた。
「ねぇ、これからどうするの?」
俺は柴崎に振った。
「おーい、幹事!これからどうするって聞いてるぞ」
柴崎は女子のコテージを眺めながら
「決まってるでしょ、海だよ、海!」
「食事はどうするの?」赤川が聞いた。
「リゾートの色んな所に売店やカフェテリアがあるから、そこで適当に食べればいいよ」
「じゃあ、これからすぐに出る?」
蜜本が考えながら言った。
「まず、水着に着替えてからな」
柴崎の考えはガラス張りで見えていたが、俺達も同じ意見だったのでただ黙っていた。
「水着でずっと行動するの?」
蜜本は半分笑いながらいった。
「当たり前じゃん、ここはビーチ・リゾートだぜ。何が恥ずかしい事があるんだよ」
吉岡も
「こういう所は、別にそんなの気にしなくていいんじゃない」
とクールに笑いながら言った。こいつの必殺技だ。
「では15分後に水着に着替えて、中央のテラスの所に集合!」
柴崎はそう掛け声をかけて出ていった。
15分後、俺達は全員水着に着替えて外に出た。なぜかこういう風に男は裸になると、誰が一番腹筋を鍛えてるか比べたがる。
そこに女子が来た。赤川だけがワンピースだが後の3人はビキニだ。でも赤川のワンピもウエストの部分が露出していてハイレグぎみで、細身なきれいな足がスラっと出ている。宇田川の言うとおり胸の盛り上がりもけっこうあるぞ。
蜜本は想像通りの見事なプロポーションだ。足は赤川よりはボリュームがあるが太っている感じではなく、むしろセクシーだ。ビキニの胸も日本人離れして突き出ている。
園田はちょっとポッチャリ目だが中々可愛い感じだ。秋田に関してはコメントを差し控えよう。まあ普通の日本人体形(ズンドウ、短足、O脚)と言ったところかな。
「みんな揃った所で記念に写真とらない?」
宇田川が言った。
準備がいいぜ、俺はオマエが好きだよ。
テーブルの上にカメラを置き、タイマーをセットして宇田川が「1+1は?」と言った。
みんな爆笑だ。
「おまえ、古いよ。」
「なに乗ってるんだよ」
「宇田川君ヤダー」
とブーイングの嵐。まあ俺達ヲタクは女の前ではしゃぐと、大抵コケるよな。
ビーチにはあまり人がいなかった。まあエライお方と各界の著名人、一般人は家族連れが多いもんな。高校生のグループなんて俺達くらいだ。
まばらな松林をぬけて砂浜に出る。この松林越しの砂浜が美しい。なんとも言えない。
絵画に出てくる海岸のようだ。太陽はサンサンと頭のてっぺんからさしている。
陸地の方を振り返ると、富士山をバックに美しい松林が続き、トビが何匹もゆっくりと輪をかきながら飛んでいた。
いいなぁ、本当に心からのんびりする。今までこんな所、来たこと無いけど、何か懐かしい感じが心に込み上げてくる。
「なに感傷にひたってるんだ?」
吉岡が声かけてきた。
「いや、きれいな風景だなぁーと思ってな」
「本当だな、日本にこんな所あったんだな・・・・あれっ?」
急に吉岡は考え込むようにした。
「何だ?どうしたよ」
「いや、なんかこの光景、どっかで見たような気がするんだが・・・・。」
俺は海の方を向き直りながら言った。
「そりゃ、東海道沿いのどっかなんだから見てても当然だろ」
吉岡も海の方に歩きながら話した。
「いや、そう言うんじゃなくって、本とか絵かなんかで見たような気がする」
「おーい、2人とも、なにしてんのよー」
蜜本が海の方から呼び掛けた。
「早くこっちにおいでよー」
柴崎と宇田川は早くも海に飛び込んでいた。女の子たちは波打ち際でキャッキャッと騒いでる。
俺と吉岡も海に飛び込んだ。ちょっと冷たいけど気持ちいい。海もすっごくきれいだ。
胸まで入ったが自分の足元まで見える。
「みんな来いよー」
柴崎は早くも沖の方に出ようとして、波打ち際の残りのみんなに声をかけた。
吉岡は女子の4人をエスコートするように一緒にやってくる。赤川にも何かと話しかけて気を回しているようだ。う、一本取られた。
背が立たないくらいのところまで泳いでくると、俺達に驚いたらしく、1センチくらいの小魚の群れがピュンピュン目の前を跳ねはじめた。
「うぉ、なんだ!」
いきなり目の前から銀色の物が跳ねはじめたので吉岡が声を上げた。
「魚の稚魚だよ。俺達を外敵だと思って逃げてんだよ」
俺は笑いながら言った。
宇田川が平泳ぎして来てガバッと顔を出すと
「しかし自然が濃いところだよな。さっき海に入った時に30センチくらいの魚がさっと逃げるところが見えたぜ」
といった。
俺が
「どっかで釣りでもできないかな?」
と言うと柴崎が
「なんかあっちの方に岩場があって、そこで釣りとか磯遊びもできるらしいぜ」
と、陸に向かって左手の方を指さした。
そこに女の子たちが来た。
「すっごいきれいな海ね。ハワイよりもサイパンよりもきれいだよ」
と蜜本が言う。
こっちはそんな所は行った事がないからわからないが、相当にきれいな海なんだな。
「アカもね、オーストラリアのケアンズよりもきれいだって言ってるよ」
女はどうしてこう金持ちなんだろう?
「だれと行くんだ?そんな所?」
俺は聞いた。
蜜本は
「やーだ、家族に決まってるじゃん、なに考えてるの?」
と笑って言った。
「良かったよ、思わずパパ活でもしてるのかと思った」
「バーカ」蜜本は俺に水をかけた。
いきなり柴崎が後ろから「潜水競争しようぜ」と言ってきた。
俺が「おまえ、元気あふれてるなぁ」と言うと「いいからやろうぜ」と言い、すばやくゴーグルを付けた。
宇田川はもう準備してる。
俺も仕方なくポケットからゴーグルを付け、柴崎の「スタート」という声と共に水中に潜った。
1メートルほど潜って一生懸命に陸へ向かって泳ごうとすると、2人ともあまり泳いでいないことに気がついた。柴崎が指をさす。
そこには水中で幻想的な女子の水着姿があった。秋田はできるだけ見ないように視界から外す。女子たちの水中での水着姿は、青白くて妙にエロチックだった。
なるほど、柴崎がなぜいきなりこんな事を言い出したのかわかった。
確かにこれで適当に泳いでいれば、ゆっくり鑑賞できるもんな。
赤川のハイレグのヒップが目に焼き付いた。蜜本のビキニもこれまた感動だ。
1分ほどで息が続かなくなり顔を出すと蜜本が
「いま、水の中であたしたちの事を見てなかった?」
と言ってきた。
鋭い、鋭すぎる。でもよく考えたら、この透明度だったら水上から俺たちも丸見えだよな。
「見てない、見てないよ」
俺があわてて否定すると、蜜本は「ホントー?」と顔をよせてきた。
赤川もこっちをじっと見てる。
俺は必死に「本当に見てないよ」と言った。
吉岡はニヤニヤ笑いながら
「その顔は本当は見てたな。」
と言いやがった。
くっそー、友達を売りやがって。
柴崎が少し離れたところに浮上する。
蜜本は
「ねぇー、いま水中であたしたちのこと見てたでしょー」
とまた聞いた。
柴崎はあっさり
「あれぇー、ばれたー」と言いやがった。
こっちに2かきで来ると
「それだけみんなが魅力的ってことだよ。女の体は鑑賞するためにある」
と神妙な顔つきでいった。バカやろう、俺の立場がないだろ。
ひとしきり泳いで浜辺に戻ると、既に吉岡は浜に上がっていた。俺が
「吉岡、もう泳がないのか?」と聞くと
「俺、頭が濡れるの、あんまり好きじゃないんだ」
と言った。どこでもクールな野郎だな。
浜に上がって洒落た感じの売店でハンバーガーやサンドイッチ、タコスにドネル・ケバブ、ピラフなど世界各国様々な屋台のものを買って食べる。もちろん海辺の定版イカ焼きも忘れない。
その後また泳いだり、ビーチバレーをしたりして過ごした。みんな朝早くから活動を開始したにもかかわらず、力いっぱい遊んだ。こんなに心から楽しんだのは小学校以来かもしれない。
かぁー かぁー
あたりが薄暗くなり、カラスが鳴きながらねぐらに帰るのを聞いた。まるで童謡の世界だ。
太陽が地平線の入道雲を赤く染めながら、西の海と黒い陸地との間に消えようとしている。反対側は濃紺の闇がおしよせてきていた。
西の空の雲は上の方は白く、下の方は夕日を受けてオレンジ色だった。
いつのまにか俺達は、声も出さずに夕日を見ていた。空の色が刻々と変わっていくのを、体で感じることができる。沈んでいく夕日で周囲は赤一色だった。隣をみると、赤川の顔も夕日でオレンジに輝いている。俺はこの世界にこの8人しか存在しないような気がした。
太陽が沈み、いつのまにかみんなを引き込んだ光のショーが終わると、その余韻を断ち切るかのように、柴崎がポツリと言った。
「メシ食いに行こうぜ」
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