第17話 その街は、舞踏会に向かない寂れた場所(3)



 食事を済ませて、ジーンはエレスと一緒に街を巡っていた。ラフィアがこの街に来ている騎士団に挨拶に行くという話を聞いて抜け出してきたのだ。

 絶対にアスナーシャ教会の宿舎から離れないように、と言われたが完全に無視である。エレスも二人っきりで出掛けられて少しだけ嬉しそうではある。

 街の状況が状況なのでそこまで顔には出していなかったが。

 まずはこの街に何があるか。本当に特徴のない街だったので、語ることも少ない。住民は皆診察を受けていて店も開いていない。街が機能していないのだ。


「お、ガーベックの花。こんな時季に咲いてるなんて……」

「珍しいの?」

「時季的にはな。もう少し経たないと咲かないんだが」


 街の花壇に咲いている赤い花。あと二月もしないと花を咲かせない植物なのだが、辺り一面に咲いている。他の花も咲いているが、どれもこの時期には咲くことがない花だ。


「全部神術の影響だよ。必要な太陽の光とか水分とかを神術が賄ったんだ。そのせいで時季外れの花が咲く。本来なら違法だ」

「ダメなことなんだ?」

「生態系を壊すからと、それで儲けようとした奴が昔いてな。珍しいからって売れたらしい。むやみやたらに神術と魔導を使うなって決められてるよ」

「そうなんだ……」


 その法に照らし合わせれば、ジーンが家に仕掛けている自動防衛魔導は違法である。

 だが、自動発動型という誰も使えない物で、しかも目的も自衛のためで、解除方法は魔導研究会に問い合わせれば教えてもらえるため認可されている。

 強すぎる神術は全ての生命体に影響を及ぼす。活性化させることができるのだから、野菜や家畜を肥え太らせて上質な物を流通させたとか。

 神術士の農家に反発して魔導士も魔導を使って上質な土や水を用いて上質な農産物を作り出し、一時期市場には上等な物しか流れなかったとか。

 それによって人間の農家が農作物を売れなくなって困窮したため、法を整備。今では特許を取った神術士しか神術を用いた農作物は市場に流せなくなった。

 魔導は次第に怖がられ始めて、そもそも魔導を用いた農作物は流れなくなった。汚いとさえ罵られたのだとか。


「じゃあ、誰かが怪我しててわたしが神術使ったら怒られるの?」

「治療のためなら問題ないよ。治療以外の行為が基本的に禁止なだけだ」

「そっか。お兄ちゃんに治癒術って使ったことないけど、効果あるの?」

「魔導士はエレスティが発動するからな。治癒術は受け付けない。魔導士には治癒術使ったらダメだからな?」

「うん」


 その答えには納得したようで、エレスは手を繋いできた。別にはぐれるような人ゴミもないのに、何故繋いできたのかジーンにはわからなかった。


「だいじょうぶ。わたしなら、傷付けないよ?」

「ああ、そうだな」


 神術さえ発動させなければエレスは魔導士を傷付けない。彼女は自身の神術を抑え込める。それは今回の事件解決に、活かせるかもしれない。

 一時的にただの人間になれるからこそ、神術の壁も突破できるかもしれないのだ。


「エレス。今夜、手伝ってもらうかもしれない」

「うん、いいよ」

「……まだ、内容も言ってないぞ?」

「だってわたしたち、兄妹だよ?手伝うよ、家族だもん」

「まったく……」


 ジーンはエレスの頭を撫でる。それだけ信用されているのは嬉しいが、何でもかんでも頷いてほしくない。


「エレス。自分で考えないといけないこともあるからな?俺の言うことを何でも受け入れてどうする?」

「?でもお兄ちゃん、わたしにウソ言ったりしてないでしょ?」

「それはそうだが……」

「お兄ちゃん以外の人が言ったことなら、自分で考えて行動するよ?」


 それならいいか、と思ってしまったジーンは甘いのだろう。もしジーンがいなくなったらという不安もあるが、いなくならなければいいのだから。


「じゃあ、ちゃんと行動できるようにこれからも勉強続けるか」

「それはお手柔らかにお願いします」

「おう。ゆっくり教えてやるから」


 そうして街の中央部を除き、全て歩き回ったことになる。

 ジーンもただ歩いていたわけではない。今やれることを少しずつやっていただけだ。それがただのお散歩にしか見えないだけで。


「街丸々使って魔法陣が形成されてるな……。やっぱり一人の神術士が暴走しただけじゃこうはならないか」

「この街に術を仕込んであるってこと?」

「ああ。いるとは思っていたが、黒幕がいる。最終目的はわからないが、広く薄く神術が浸透するように援助術式が設置されてやがる。本来は治癒術を重ねがけするよりもマナ効率がいいように開発された術式なんだがな……」


 術式のアイディアには思わずジーンは舌を撃つ。そんな使い道を思い付かなかったためだ。そもそも考え方がテロリスト向けというか、犯罪向けなので思い付かない方が正常ではあるのだが。


「術式の起点は宝石だな。宝石に刻印を施してる。壊したらマズいものかと思って放置してたが、こいつは壊した方が良いな」

「あれ?でも刻印術式って何日も保てないんじゃなかったっけ?」

「覚えていたのは褒めるが、応用ができていないな。たしかに刻印術式はそこまで効力を保てないが、供給元が街の中央にいて、延々と送り込んでる。彼を止めないとずっとこのままだ」

「あ……。広げてる補助をしているのが真ん中に置かれてる人なんだ」


 この術式を正常に起動させるために街の中央にわざわざ配置した。

 これは作為的だ。ならば、街の中央にこしらえた者の中に黒幕に繋がる人間がいる。

 その人間の割り出しと確保はメッカに一任しようと――もとい押し付けることを勝手に決めてこれ以上の思考はやめる。


「エレス。課外授業だ。術式の破壊の仕方を教えるぞ」

「かがい、授業?」

「あー、その説明は後でする。まあ、実践ってことだ。街の中をもう一周な」

「うん!」


 それから今夜のことを話しつつぐるっと街の中をもう一度回って、宝石を破壊しながら楽しく散歩した。

 エレスは術式破壊を容易に覚えたが、今回の事件ではこんな荒い方法は使えないことを伝えておく。強引に壊せない物もある。エレスにやってもらいたいことは誰にでもできる破壊ではないのだ。

 破壊活動も終えて宿舎に帰ると、手を繋いで帰ったからかラフィアに変態と怒鳴られた。

 二人は兄妹で手を繋ぐのがそんなにおかしいのかと首を傾げていたが。



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