第9話 集落
魔法。それは呪文と言う
~ファルド帝国風土記より東部森林地方における記述より抜粋~
◇
イングラスは広間で自分の背負い袋を見つけ、中身に不足がない事を確認するや、迫り来る
「凍てつく氷の精霊よ、
が、イングラスが鎚を持つ
◇
エリアスは見た。
ミーナも見た。氷の
彼ら二人は見る。誤射したはずのイングラスの顔に、笑みが張り付いていることに。
◇
だが、その笑みについて考えている暇など無い。
エリアスは「
エリアスの背中に冷たいものが走る。
そして焦ったエリアスはかの
「頼む、
エリアスは
「お願いだ
祈りに祈る。
願いが届いたのか、剣から魔力が帯となって噴出する。エリアスの口が嬉しさに綻んだ。
勝機を得た彼は振り降ろされた棍棒を脇を掻い潜る。エリアスの手にする魔剣、紫の軌跡はまたも敵の首筋を捕らえていた。
「ミーナ、引き上げだ!」
エリアスはあらかじめ決めておいた集落の外れを目指す。
しかし、エリアスの遥か後ろでミーナが、
「助けてエリアス!
「なんだって!?」
エリアスは足を止め、即座に反転する。
「ミーナ!」
エリアスはミーナに向けて石の拳を振り上げている
「
たわむ床、跳び掛るエリアス。敵の石腕は今にもミーナの頭を叩き割りそうで──、
「頼む、
頼む、届けと願いつつ、エリアスは戦利品の
「ミーナに手を出すな!」とエリアスは吼えて、紫の軌跡がエリアスの上段から走り抜ける。
鋼の感触、
関節球は砕け散り、ミーナに迫っていた腕が千切れた。
だが、ミーナの額からは一筋の赤い血が流れる。おそらく
無造作に、そして無慈悲に振り下ろされる左腕。
エリアスはその強靭な刃、先の打撃で刃こぼれ一つしなかった魔剣で弾く。そしてそのまま首の間接を突く。刃は金属めいた硬い喉笛を食いちぎり、間接球がまたも散乱する。
首も右手も失った
それはエリアス目掛けて左手を振り上げ──氷の
そんな凍った
そして抉る。
またも金属の感触。突いて出て来たのは黒い宝玉であった。
イングラスは「これは私がいただいても、よろしいですか?」と、今も
◇
屍骸が片付けられた広間では、エリアス、ミーナ、そしてイングラスの前に多数の
「どうする?」とはエリアスは困ったようにイングラスに振る。
「せっかく
エリアスが立ち上がり、ネックレスを手に取る。
「ええと、ミーナ?」
エリアスが青い宝石のついたネックレスをミーナの首に巻いてみせる。
ミーナはそれをじっと見つめて「にあってるよ」とのエリアスの言葉に、顔を赤くして俯いた。
◇
三人は戦利品を手に湖沼地帯を抜けた。
イングラスを先頭に、南へ向かうこと
針葉樹林はいつしか広葉樹が混ざり、大地を覆っていた雪も見えなくなっていた。
森を抜けると、そこは青空だった。
溢れる光に、草を掻き分ける。
エリアスとミーナ、二人は駆けた。
そこには大草原がある。大地から伸びる大空がある。
見渡す限りの大草原。
今、二人の前に見知らぬ世界が広がっていた。
エリアスはつぶやく。
「これが、世界か」
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