僕と彼女の不思議な日常

バル

DAY0 プロローグ

 僕は世界を変えてしまおうなんてことを一度でも考えたり思ったりしたことがないのかと聞かれたときそんなことないと言ってしまえば、それは嘘になる。しかし、そんなことを考えたことのない人の方が少ないような気がする。まあ、どちらにせよ僕にそんなことをする力があるわけでも、政治家に知り合いがいるわけでもない。そもそも、今のよくできた階級社会のように見える平等を謳っているだけの社会も仕組みとしてはうまく回っているわけで、それを壊してしまっても混乱が残るだけであろうことを僕は分かっている。それでも、この世界を変えられるんじゃないか、と思ってしまうような人物が知り合いに一人いる。

 僕の幼馴染だ。幼馴染と言っても僕は彼女のことをほとんど知らない。

 僕は彼女の名前を知らない。

 だから僕は思考の中では彼女のことを“彼女”と呼ぶし、会話の中では“お前”とか言っている。改めて考えてみると僕は僕の身近にいる人の名前を誰一人として知らないような気がする。

 それでも、彼女は僕にいろいろなことを教えてくれた。

 彼女は僕に生きる意味を与えてくれた。

 彼女はいつかこんなことを言っていた。

「この世界は今の状態である程度の均衡を保っているんだよ。何かを改善しようとして少しずつ能動的に変わっていくことはあっても一度に大きく受動的に変えてはいけない。そんなことをしたとしてもその後に残るのは破滅だけなんだ。」

 つまり、彼女は世界を変える気はない。

 そして、僕は世界の均衡を守ることはあっても壊すことはないと思う。どちらをするにも僕にそんな力がないのもまた事実なのだが。

 とにかく、そんな彼女のこと、僕の幼馴染のことをもっと知ってもらうために彼女の小難しい話を聞いてもらいたい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る