第24話 灯台守と僕の海

「それが君の選んだ運命なのだな」


 上を向くと、コハルが立っていた。ナギサは腕で目を擦り、立ち上がった。


「シキが魂を分け与えてくれたのだ。最期まで忠義のある男だった。…さて、私とて持て余しておる。命尽きる前にここが崩れてしまっては、意味がないだろう。どうしたものか…」


「…灯台へ行かないか」


 ナギサは鏡を指さした。姉の幻影を見せたまやかしが、鏡にまとわりついてこちらを伺っている。


「壊しちゃって、ごめん。コハルは、ずっと俺たちを守ってくれていたのに」


「私だけではない。神だけではない。人間だけではない。生き物は弱いから、生きるのは難しい。だからこそ、支え合う。そうして難しいことを成し遂げる。尊いことだ。」


 そう言ってコハルは、指を鏡に向けてくるくると振った。周りの景色が歪み始める。

 目を開くと、目の前に薄暗い海が広がっていた。錆びたおばけ灯台の手すりを握ると、冷たい風がナギサの顔を撫でた。


「まもなく朝が来る」


 世界が真っ青に染まる。木々がざわざわと揺れ、どこかで小鳥の囀る声が聞こえる。


「神は死んだ。この世界は紛れもなく、お前たちの世界だ」


「俺のものでもない。もう。」


「…ナギサ。」


 コハルは手すりに腰掛け、ナギサの肩を撫でた。


「お前の意思に応えてやろう。もう、これくらいしかできないが…。最後に美しい景色を見せてくれたお礼だ」


 コハルは立ち尽くすナギサをそっと抱きしめた。乾いた風が落ち葉と共に着物を優しくはためかせている。


「ありがとう」


 コハルはそっと微笑むと両手を広げ、身体を後ろに傾けた。突然海の向こうから光が差し、その眩しさに慣れた頃には、そこにコハルの姿はなかった。

 ナギサの目の前には、ただひたすらに美しく、青々とした海が静かに広がっていた。

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