夏の日の記憶

秋霖

夏の日の記憶(1話完結)

8月某日。

ジリジリと暑い日差しがまだ舗装のされてない地面に照り付ける。

今日も空が青く、点々と白い綿雲が浮かんでいる。

私は毎年この日になると

10年前、儚く散っていった兄のことを思い出す。

そう、10年前のこの日、兄はこの青空の中に飛行機と共に消えていった。



兄とはよく遊んだものだ。

春には桜を見ながら一緒に散歩して、

夏には川で一緒に水遊びする。

秋には栗を拾って家に持ち帰ってご飯にしたり、

冬には雪で大きなかまくらを作ったり、、、

他にもいろいろなことをして遊んだ。

この日に思い出すのは遊んだ思い出だけではない。

今日のように太陽が照りつけていたあの日。

兄が兵隊さんになり、家を出る日。去り際に見せたあのいつもと変わらない笑顔を思い出す。

その笑顔は今でも色褪せることなく頭に残っている私がみた最後の笑顔だったのだ。



ここまで思いをめぐらせふと我に返る。

外は相変わらず太陽が照りつけ、蝉の声がより一層うるさくなっている。

きゅうりとナス、リンゴが入った買い物カゴをさげ、玄関の前まで歩く。

玄関の鍵を開け家の中に入る。

家の中は静まり返っており、冷蔵庫の機械音だけが響いていた。

冷蔵庫から麦茶を取り出す。

ぶどうの柄が描かれているガラスのコップに注いでみる。

するとふつふつと水滴がコップの表面に出来あがり、その水滴は周りの水滴を巻き込みどんどん大きくなり、やがて下に落ちていった。

いつも見ている当たり前の光景もこんなにも哀愁漂うものになるとは驚いたものだ。

一通りその光景を眺め満足すると、注がれた麦茶を飲み干し買い物かごの中のものを冷蔵庫にしまう。

洗濯もしたし買い出しもした。

一通りやることを終えもう夕方まですることは何もない、縁側に座りうちわで仰ぎながら外を眺める。

お盆まで2週間切っていた、



私はいつも思うのだ。

終戦がもう少し早かったのならば兄は生きて帰ってきたのではないか?と。

そう思ったところで仕方がないのは分かっているのだがどうしてもそう考えてしまう。


夏にしては冷たく、心地よい風が肌を撫で、私の意識を外に引き出す。

その風にあおられ風鈴が涼しい音色を奏でる。

そんな代わり映えのない日常に私は生きているのである。

蝉はうるさく、太陽はこれでもかというくらい照り、コップに麦茶を注げは水滴がつく。

私は亡き兄に伝えたい。

「貴方いた普通の日常が恋しいわ」と。

風にあおられ、ふと空を見上げると果てしなく続く長い長い飛行機雲が出来ていた。

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夏の日の記憶 秋霖 @Night-Sky

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