第14話 部活動でお世話
同盟を結んだ日の夜以降、アルベールは悩んだ顔をしていることが多くなった。
おそらくヒリスが言っていた『兄殺し』について悩んでいるのだろう。深く聞き込むことはせず、アルベールが話してくれることを待つことにした。
花の世話をする技術部にはヒリスの契約者の葵も入部し、技術部は3人になった。
雨が降ってない平日は部活動として花の世話をする。そこで情報交換をするようになった。
「知ってますか?最近、狐面の男が暴れてるみたいです」
水やりをしている葵がふと話出した。
狐面の男には覚えがある。
「あいつか……!マジであいつ強いから近寄らない方がいいぞ」
「竜之介先輩、知ってるんですか?」
「俺ら会ったことあるからな。瞬殺してた」
「こわっ!」
「その狐面ですが、ここから近いところに住んでいるようですわ。出没した場所が限られてるし、狙われる可能性もなきにしもあらずですわ」
「怖いこというなよ~あいつとはもう会いたくない」
「同感」
ヒリスは傘を差したままで作業することはないが、ヒリス以外は皆草むしりや水やりをしている手を止めることなく話していた。
「それと、もう1人。こちらの情報は少ないですが、ものすごく強い人がいます。気をつけてくださいませ、クラシス様」
「狐面以外にもう1人……これはもっと鍛えないとですね、光君!」
アルベールはなぜかわくわくした顔で光を見た。光は苦笑いで返した。
「ところでどうやって情報集めてるんだ?」
竜之介の素朴な疑問だった。確かに王に力を借りれば、光のようにシールドをはったりすることができる。なら情報収集はどうやるのか疑問になったのだろう。
「先輩でも使える方法、ありますよ?というより、使わないと危ないです」
「まじか?聞きたい」
「アプリから『ハイドスキル』を買ってつけておけばアプリで近くにいることを通知されなくなります。それで散歩しつつ王探しをしました」
葵は淡々と説明した。
アルベールは葵を見て、驚いた顔をしている。
「そんなスキル売ってなかったぞ?な?」
クラシスは竜之介に同意を求める。竜之介もそれにうなずく。光も見たことはなかった。
「光君には国によって扱うものが変わるっていう話、しましたよね?」
「したね。アルベールのとこは服とかに特化してるんだよね?」
「ええ。それがヒリスのところはそういったスキルや魔法に特化してるってことです」
「やっとわかったようね!さあ、クラシス様も買ってくださいまし」
「ぜひ買ってくださいね」
すぐに光と竜之介はスマホを取り出し、すぐにヒリスの国からハイドスキルを購入した。そしてそのスキルを装備させる。
「これでいいのか?」
「はい。それで相手に通知されることはなくなります」
「便利なもんだなぁ」
敵に見つかることはなくなったため、奇襲はされないかもしれない。少し安心して過ごせるようになった。
「ハイドスキル、すごいですね」
帰宅するなりアルベールは感心していた。
近くに誰かがいるという通知は相変わらず来るが、相手にはそれがいっていない。自分でそれを確認することはできないけども、そう考えて安心する。
「アプリによる発見はされないでしょうが、他の手段で見つかる可能性もあるので何か対策を考えておきましょう、光君」
「対策って?」
「うーん……やっぱり自衛しか」
「だよねー」
「とりあえずはシールドを素早く的確に使えるようにすることが目標ですね。その後はそれを応用させていこうと思います」
日々走り込みも続けてるが、まだまだシールドをはるのに時間がかかる。もう少し早くなければ攻撃を防ぐことができない。先が長そうに感じるが、やらなければ命が危うい。
「じゃあ練習、アルベールよろしく」
「やる気を出してくれて嬉しいです。練習しましょう」
こうしてアルベールとのシールド練習を日々の日課に加えた。体力が少しついたおかげで、以前よりも長い時間シールドをはることができるようになった。
が、耐久面、スピードの面からみてもまだまだ問題あるので練習あるのみとひたすら練習した。
「あれ?ヒリス、今日の服なんか違くない?」
いつもの部活。ヒリスは前日と少し違う服を着ていた。とはいっても、同じ黒をきちょうとしたゴスロリ。変わったといえば微妙なデザインの違い。胸元にリボンがついたとか、袖のレースが大きくなったとかその程度だ。
それに気がついたのは竜之介だった。
「なんであなたが先に言うのです!?クラシス様に言われたかったのに!」
「わり、わり」
「よく気が付くな……俺全然わかんないよ」
「僕も気がつきませんでした」
光、アルベールが続く。
「ヒリスの服はアルベールさんの国から素材を買ったんです。素敵なものばかりでヒリスも楽しそうに見てましたよ」
「葵!余計なことは言わなくていいの!」
まだ短いが、葵とヒリスに関わりを持ってやっと性格を理解した。葵は大人っぽく暴走したヒリスのストッパーにもなる。ヒリスは好きなことには好きとまっすぐ向き合う。それと俗に言うツンデレ要素を持っているようだ。
「生地にスキルついてたので、見た目にも戦いにもかなりいいものを作れました」
「葵が作ったんか?」
「そうですよ。既製品は少し高いし、デザインが気に入らないというので作っちゃいました!」
「すごい……」
男たちには『作る』という概念がなかった。4人の男たちは驚くばかりだ。
「褒めてくださいまし、クラシス様!」
「いや、作ったのお前じゃなくて葵だろ?」
「ク・ラ・シ・ス・様!」
ヒリスはかなり怒ったようで、傘をクラシスに向けた。まずいと感じ取ったクラシスは竜之介のポケットから飛び出て逃げ出す。
「逃がしませぬ!」
傘の先からは連続して弾がでる。傘と銃を兼ね備えた武器になっているようだ。
「ちなみにこの傘はクラシスさんのところから購入しました」
葵はヒリスの傘を指さして解説してくれた。
「竜之介!助けてくれ!」
逃げ回るクラシスは助けを求める。
「いや、今のはクラシスが悪いな」
「僕もそう思います」
「俺も」
誰も助けてくれずクラシスは走って逃げる。ヒリスはうまくクラシスには当てず、追いかけ回すように連射する。
それが3分ほど続くと、弾切れになったのかヒリスは撃つのをやめた。クラシスはその間ずっと走り逃げ息が切れていた。
「国によっていいものあっていいな~」
竜之介のつぶやきにみんなが納得した。
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