第8話 繋がりと情報
「国のために命がけだな……」
アルベールの説明に新島は言葉を何とかひねり出した。アルベールは苦笑いしつつ続ける。
「それが王の役割ですから」
まるでお葬式のような空気が漂う。そんな空気を変えようと新島が口を開く。
「そ、そうだ。どうやって戦うんだ?殴ればいいのか?」
「まあそんなとこです。王は契約者に力を貸す。その力で勝敗を決めます」
「クラシスがか?こいつ弱いぞ?な?」
「竜之介、俺はあくまでも王だぞ。それなりの力はある」
クラシスは腕を組んで仁王立ちしている。自信があるようだ。
「僕らと契約者は心の奥で繋がっています。司る感情が強ければ強いほど、また絆が強いほど力は強力になるのです」
「ちなみに俺は『度胸』だ。竜之介の度胸があるほど俺の力は強くなる」
「僕は『優しさ』です。光君の優しさは計り知れない……だから大丈夫、勝てます」
ただの殴り合いなら負けることが確実だった光だが、この場合はどうやら違うらしい。勝機はあるようだ。
「竜之介も凄いぞ?何にも臆せず突っ込む!そこに惚れたのだ!」
「男に惚れられても嬉しかねぇよ!」
少し冷めてしまったコーヒーを口に含む。
ぬるくなったコーヒーはとても苦かった。
「4月までは準備期間なんです。契約者を探して、絆を深めるのもよし、情報収集したりするのもよし。戦いに備えるんです。アプリの方から装備を揃えることもできます」
「色々見たけど、それは知らなかったな……」
「国の方で扱ってれば、ですけどね。僕の国では武器の扱いはないので……」
「あんな平和な国だもんな。じゃあどうしたらいいんだ?」
「同盟を結んだ国からなら入手も可能です。なのでクラシスの国から購入することができます」
「お金はどうするの?」
「国の方で支払います。国は国民から税収として集めたお金ですから大切にしないと。税率などもアプリから確認変更可能です」
「税金か!俺らも消費税払ってるしなんとなくわかるぜ」
「竜之介に分からなくても金銭面なら俺がやる」
「そうなのか、んじゃ考えるのやめるわ」
あっさりしている新島。新島とクラシスはよい関係を築いているように感じた。
「光君、改めてお願いしますね」
アルベールは光の方を向いて丁寧にお辞儀をして微笑んだ。同性ながら少し照れてしまう。
「ああ、よろしくな」
その後はアプリの操作を光が新島に説明した。お互いスマホをあまり使わない生活をしているのでぎこちない操作だったが、国の様子をみたりして過ごした。
そうしてるうちに外は暗くなってきていた。スマホの時計を確認すると18時を過ぎていた。
「もうそろそろ帰るよ。コーヒーご馳走様」
「お邪魔いたしました」
「そんな時間か!今日はありがとな。助かったぜ」
「俺の家じゃないけど、また来いよな!」
新島は家の外まで見送ってくれ、軽く手を振る。光も手を振り返して帰路についた。
家に着くといつもと違って真っ暗だった。
「あれ、誰もいない……」
「皆さんまだ帰ってきてないのでしょうか?」
「いつもは誰かしらいるんだけど……」
自転車をいつもの場所にとめて玄関を開けようとすると鍵がかかっていた。
こういうときの場合には玄関前の鉢植えの下に鍵が隠してある。鍵をとって玄関を開けて入る。下駄箱の上に鍵を置いておく。
「誰もいないですね」
リビングへ向かうと置き手紙があった。
『みんな出かけるので、好きなもの食べてね』
「皆さんどこか行ってしまったようですね」
「多分みんなで外食だよ。こんな弟がこの前の絵画展で賞を貰ったからそれのお祝い。俺に隠してる雰囲気だったけど、同じ家にいればわかる」
手紙をくしゃくしゃにしてゴミ箱に捨てた。食後にすぐ入浴できるようにお風呂を沸かしておく。
「光君は何を食べるのですか?」
「カップ麺だよ」
棚からカップ麺を取り出し、やかんに水を入れて火にかける。お湯が沸くのを待っている間にグゥーっと大きな音が響いた。
「す、すみません!僕のお腹の音です」
肩に座っているアルベールは恥ずかしそうに顔を隠した。
「一緒に食べよう」
「はい!」
カップ麺にお湯を注ぎ待つこと3分。茶碗に少し麺を分ける。
「箸がないな……大きいけど爪楊枝でいいか?」
「お願いします」
1本の爪楊枝をアルベールに渡す。
「「いただきます」」
アルベールは器用に爪楊枝を使って麺を食べる。熱かったのかゆっくりと食べる。
「美味しいです。僕の国にも取り入れたいです」
「口に合ってよかった」
光はアルベールに合わせてゆっくり食べる。いつもなら家族による圧から急いで食べて部屋に戻っていたが、今日は久しぶりにゆっくりと食事をした。
アルベールは小さな体に反して大食いのようで、取り分けた分は全て食べきった。
食事に使用した食器を洗い、部屋に向かう。荷物を適当に置いて入浴の準備をする。
「また風呂いくよ」
「ああ、ちょっと待って下さい。毎日同じ服というのも気になるので、服を買ってもらえませんか?」
着替えを持ってアルベールに声をかけると、止められた。確かに毎日同じ服というのも少し気になる。
「買うって……そのサイズのものなんてどこに買いに?」
「アプリですよ。僕の国の織物はとても素敵なんです。それを使った衣服を数多く扱ってます。一式購入をお願いします」
スマホから確認すると、ショップの項目の中に衣服があった。そこで下着から全てを探す。その画面をアルベールが覗いた。
「項目にチェックを入れて購入を押してください。必要なものですし、仕方ありません」
言われた通りに購入を押すと画面からポンッと購入した服が現れた。
「すごいな……どうなってんだ?画面から飛びてた」
「そのアプリのおかげです。購入したものはこうやって届きます。さあ、お風呂に行きましょう!」
着替えを手に入れたアルベールは嬉しそうにしながら浴室へと向かって飛んでいく。
光は画面を見て不思議に思いながらアルベールを追った。
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