ぼくの可愛い人だから(8)
「うお、けっこー速いんだけど。マジ? トンネルなんか通ったっけ? うげ、高いし! けっこー怖いんだけど。って、二周するのか!」
そう、園内を走る豆電車は大人が乗ってもスリリングでダイナミックで面白かった。座席に並んで座った茅子はずっと楽しそうに渉の手を握っていた。
ケーキはオレの担当! と俊が譲らないので、彼が買ってきたホールのケーキで改めて誕生日を祝った。
その後、茅子の部屋のちゃぶ台にあちこちから貰い集めた子育て支援の案内リーフレットを並べて見せた。妊娠初期から出産後までの助産師による相談サポートや、一時子ども預かり所。会員同士による子守りの互助サークル、家事代行の無料訪問サービス。個人基金による無料学習教室まで。
「知らなかっただけで、これだけのことをしてもらえるんだなって」
「ほんとですね」
「園長も言ってるけど、こういう場所を利用して助けてもらうのは悪いことじゃないし、それだけで良い親かそうでないかを決めつけるなんておかしいよ。だから俺たちはどんどん人に頼ろう。ね?」
「そうですね」
「俺のことももっと頼ってよ、茅子ちゃん、すぐひとりで悩むから」
「そんなことないです。頼りにしてますよ?」
ほんとかな、と思う。相変わらず会社では清水のことをキラキラした目で見てるし。
憧れと好きは違う。以前真美に言われたときにはまったくピンとこなかったが、今なら少しわかる気がする。渉にとっても清水は目標にするべき先輩なのだし。
少しずつ協力しあって準備を進めた〈ひまわり〉のクリスマス会は大盛況だった。サプライズゲストで登場したほっそりした体型の白いひげのサンタクロースはあからさまに丸山園長の仮装だったが誰も何も突っ込まなかった。毎年暗黙の了解なのだろう。
正月には茅子を家に誘ってみたけれど、まだ無理だと謝られた。それはそうだと思いもしたし言質は貰ってあるのだから焦りはしない。次はお盆に誘ってみよう。
俊は県立大学に進学が決まり、二十歳まで里親の星野家ですごすことになった。茅子と渉が結婚の約束をしたことは聞いているはずだし、渉のことを黙認するような態度を示すようになった俊だが、それでも時々思い出したように姉と一緒に暮らすのだという約束を口にするし、刺々しい態度に戻ったりもする。彼とはまだまだ先の長い闘いになりそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます