ウェディングドレスは誰が着る(6)

「いいなあ、みなとみらい」

「仕事じゃなくたっていつでも行けるだろ」

「微妙に行かない距離なんですよ、箱根と同じで」


 冷蔵庫の前で水のペットボトルをあおっている川村と、マグカップを持った小永井が話しているのを渉は廊下から聞いていた。

「パーティってなにやるんですか? ムズカシイ話を聞くだけですか?」

「当然、最新のプロモーションを見せられるだろうなあ。あとはもしかしたら気の利いたレクリエーションがあるかもしれんが期待はできないだろうな」


 当日の午後、緊張の面持ちでオフィスを出た茅子は、退社時刻間際に未だに固い表情のまま帰ってきた。小永井にどうだったー? と脳天気に声をかけられ、そこで初めてしおしおと表情が崩れた。

「緊張しました」

「そんなに!?」

「しょうがないよ、俺も肩が凝った」

 苦笑いしている清水からお土産の紙袋を渡された蓮見さんがさっそく漁り出す。


「お菓子は社章入りどら焼きか、フツウだな。このUSBメモリはプロモーション入りでしょ、どうせ。んでオリジナルブックカバー付き最新の自社製品カタログと。かさばるだけだよね、こんなの」

「いや、蓮見さん。これがいちばん大事だからっ」

 わかってて言っているだろう蓮見さんにツッコミを入れて川村がカタログを取り上げる。その間から、ひらっと紙切れが舞い落ちた。


「ん? なんだ?」

「なんだろね」

 蓮見さんがL判サイズの紙きれを屈んで拾い上げる。

「あら、カワイイ」

「なんですか?」

 横から覗き込んだ小永井が目を丸くしてからにやにやと茅子を振り返った。

「カヤコチャーン、お嫁に行くときにしか着ないって言ってたくせに~」

 きょとんとしていた茅子だったが、数秒後には顔を真っ赤にして蓮見さんの手からL判の写真らしいものを取り上げた。

「ち、ちが……違う、です」


「それ、バーチャルフィッティングの画像なんだよ」

 うまく話せずにいる茅子のフォローを清水がする。

「バーチャル? うっそ」

「すごかったよね。体の動きに合わせてちゃんと服がひらひらするんだ」

「言われなきゃわからないですよ。カヤコチャン、それもう一回見せてよ」

 手を出す小永井に茅子は後ろ手に写真を隠してぶんぶんと首を横に振る。

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