ウェディングドレスは誰が着る(5)
うーむ、と自宅のリビングのソファで渉は腕を組んで目を閉じる。
自分の妄想力の貧困さを思い知る。いかにも楽しいと思える茅子との時間も、具体的に想像できる彼女は、ジャージの上にひまわりのアップリケがついたエプロンをかけた姿だ。結局のところ材料が少なすぎる。
そもそも、望月とかおるが社会人になって結婚というゴールに至ったのはそれ以前から長く付き合っていたからだ。渉の想像には肝心の過程がすっぽり抜けている。
それを飛ばして結婚生活について考えてしまったのは望月の影響はもちろん、清水が以前「嫁」だなんて発言をしたからだ。ここでも、いかに自分と清水とで距離が開いているかを感じてしまう。
つまり、自分の「好き」の気持ちが現実的かどうか。
「もう、めんどくさいなあ。さっさと押し倒しちゃえばいいのに!」
そういうわけにはいかない。なにせ一度失敗している。
――フケツです!
泣きながら詰られたのは、なかなかの衝撃だった。二度とあんな顔は見たくない。
「その前に言うことがあるでしょうが。言うことが」
その通りだ。何が間違っていたかといえば「好きだから」と言わずに「可愛かったから」などとスカしたことを言ってしまったからだ。それだって素直な気持ちではあったものの。
「ええー。言葉より行動で示せじゃない?」
う、そうだろうか。アクションしてしまっていいのだろうか。
「口より先に手が出るヤツなんてろくなもんじゃないよ」
そうだよな、その通りだ。
「ちゃんと責任とるならいいじゃん」
そうだ。責任だ、責任。
「事前にしっかり言質は取らなきゃだろ」
そうか。言質……。
「んもー。お母さん、全然ロマンティックじゃなーい」
「ロマンティックで男と付き合えると思ったら大間違いだよ」
「あーもう! お母さんが横であーだこーだうるさいからいいトコ見逃したー」
「良かったじゃないか。コドモが見るもんじゃないよ」
我に返ると、渉の前では母親と真美がいかにも酸っぱそうな緑色の極早生みかんを食べながらドラマを見ていた。
「食べる?」
振り返った真美が一房差し出してくる。深く考えずに受け取って口に入れた渉は、あまりの酸っぱさに口を押えてソファの上で悶えてしまった。
訪問先には九月決算の会社も多く忙しない空気を感じ取っていた頃、最大の取引先である国内メーカーの周年記念パーティに茅子と清水が出席することになった。
「営業部から三人出せって話で、部長が清水とカヤコチャンを連れてくって」
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