男はみんな狼なのよ?(4)
「すげー。花火みてえ」
「ぱちぱちいってたね」
「おにいちゃん、熱くない?」
遠くから心配そうに声をかけられ、渉は手袋をはずしながら首を横に振った。
「危ない作業はもうしないから大丈夫だよ」
すると、横から真っ先に俊が近寄ってきて覗き込んだ。
「すげえ、意外な特技。やるじゃん」
上から目線だが、感心してくれているようだ。ははっと笑って渉は踏み板の補修を始める。
割れた踏み板を枠の上に接着し、ひび割れたすきまを埋めるようにたっぷりめにパテを塗り込む。
乾いてから盛り上がった部分を削ってなめらかにする。だけど仕上がりの見た目が悪い。ペンキ塗装をすれば良いのだろうが。
「これで充分よ」
思い悩む渉に丸山園長が言った。
「業者さん相手ならもっと完璧にって言うところだけど、渉さんがやってくれたのならこれで充分、ね?」
「これで階段のぼっても平気?」
「うん。もう大丈夫。渉さんにお礼をしましょうね」
口々に子どもたちからお礼を言われ、渉はこれで切り上げることにした。見た目を気にするときりがないからだ。
俊と中学生の男の子と女の子(昨日は男の子ふたりだと思ったが、ひとりはショートカットの女の子だった)が片づけを手伝ってくれた。
「みんなでスイカを食べましょう」
最後に園庭の水道で手を洗っているとおやつに招かれた。
昨日出入りした掃き出し窓から室内に入り、更に隣の食堂らしい部屋に案内された。既に子どもたちがスイカに夢中になっている。
「こっち座ろうぜ」
促されて席に着くと俊がスイカと麦茶を持ってきてくれた。渉への当たりが若干柔らかくなった気がするのは気のせいだろうか。
もらったスイカは、皮が薄く実が真っ赤な小玉スイカで、スイカ自体久し振りに食べた気がして余計に美味しかった。農家さんからの差し入れなのだと言う。
「正月には毎年臼を持ってきてもちつきやってくれるおっさんで」
「杵と臼で? 俺、見たことないよ」
「そういうのは恵まれてるんだよな、オレら。こうやって支援してもらえるから。クラフト作家の人が工作を教えに来てくれたり、サッカークラブのコーチが来たり。チャンスは与えてもらえてると思う。ものにできるかは自分次第で」
こういうことをさらっと言える俊は、とても強いのだろうなと思った。だけど、みんながこんなふうに強いわけではない。
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