彼女は絶対賢者に向かない。 ~スマホ画面の向こうの冒険録~

赤城クロ

プロローグ

俺の彼女は異世界にいる!

 「やっほ~ノブユキ、おっひさ~! 大賢者である私は今、異世界にいるんだ!」


 6月が終わりを迎える前の日曜日の夕方、家の中にて。

 行方不明になったユキから突如、4日ぶりにビデオ電話がスマホにかかってきたと思えば、彼女から突如告げられた『異世界』という奇妙な言葉、俺はつい、ユキの心配をする前に。


 「は?」


 と疑問に満ちた音を口に出してしまった。

 というかコイツ、俺にもコイツの両親にも心配かけやがって、一体何やってるんだよ……。


 「いや『は?』じゃなくてさ、異世界だよ、異世界! 私、異世界で勇者!」

 「いや、お前何を言っているんだ? と言うかどこにいるんだ!? 俺もお前の両親も心配していたんだぞ!」

 「いやー仕方ないよね、異世界転生は突然に! だからね!」

 「いやいや、まるで意味が分からんぞ!」

 「なら、見ててよ! 私が異世界で大賢者になったって所を見せてあげるから! リリカルマジカル~……」


 こいつ、遂に中二病が悪化しやがったな……。

 と言うか、後ろ向いてどうするつもりだ?


 「リリカルマジカル~、プロテイーン! メガトンパワーでぶっ飛ばせ!」


 何がリリカルマジカルプロテインだ、コイツ……。


 「究極奥義、ビックバン!」

 「…………」


 きっとこれはCGか何かを使ったトリックだ、そうに決まっている。

 そうじゃなきゃ、目の前にあったはずの草原がぽっかり穴の開いた爆心地になる訳がない!

 きっとそうに違いない!


 勿論、別人な訳がない、スマートフォンの向こうに映る全身像は、間違いなく俺の幼なじみであり、彼女でもある森崎ユキだ。

 セミロングの黒髪に、お茶目な雰囲気を感じさせる顔だち。

 そして、やや小柄でスタイル抜群の体に、俺たちの高校の制服を纏い……。

 もっと言えば、制服のブレザーの右ポケットに縫われた『邪神降臨』と言う痛々しい文字がユキ本人であることを伝えている。


 まぁ、そこも許すよ俺は、けどな、決して魔法と認めたくないんだ……。

 だってさ……。


 「おい、魔法と良いながら、ロケットランチャーを放っただけじゃないか!」


 ロケットランチャーとか、どう考えても魔法じゃ無いもの、どう考えても戦闘漫画とかの世界の話だろ、もう!

 と言うか、どこからロケットランチャーなんか取り出した!?


 「ふふ、時代遅れねノブユキ、今の魔法はロケットランチャー、これに決まりだから!」


 それは胸を張って言える事ではないぞ……。

 ただ、ロケットランチャーを撃っただけだからな……。


 「そう、それは魔法の進化! つまりレゴ流ション、つまり革命なのよ!」

 「それを言うならはレボリューションな、何かレゴの革命みたいだぞ」

 「そう、賢者革命! そして、伝説へ……。 そう、つまり賢者の中の賢者になるのよ!」

 「……レボリューションを間違えるお前が賢者になれると思っているのか?」


 全くコイツは……、ホントにコイツは……。

 ……だけどまぁ、良かったと思う、コイツがいつもの調子で元気そうで。

 いや、その彼女だし、そりゃ当然……。

 オホン!しかし、ホントにこいつはどこにいるんだ?

 全く親父さんにも迷惑をかけて、何て奴だと思う。


 「まぁレゴ流革命で賢者の話はおいといてだ、今どこにいる?」

 「異世界だよ、異世界!」

 「全く、お前はいつまで中二病なの……ん?」


 ちょっと待て、何で全身が映ってるんだ?

 普通スマートフォンであれば、映るのは上半身くらい。

 もし、この様に写すには、誰かが持つなり、何かで固定するなりするだろうが、草原に立つ彼女の陰は、僅かに左寄りの後ろに長く伸びている、そして映像の下には陰はない、つまり少なくとも誰かがスマートフォンを持っている訳では無く、何かで抑えている可能性も低い。

 それに冷静に考えたら、ユキはまだ嘘をついたときに「ナ、ナンノコトデスカ~?」と右上を向きながらカタコトに話す癖を出していない。

 つまり……。


 「ウソだろ……、マジかよ……」


 全く信じたくないが、コイツの言ってる事はマジと言う事である。

 そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、フフンと満足げな顔を浮かべて。


 「どう! 賢者になって頭が良くなっててびっくりしたでしょ!」


 と口にしたユキを見ながら。 


 (彼女こいつは絶対賢者に向かない)


 俺がそう思いながら呆れていると。


 「あ、何だろうアレ!? ちょっと行ってくる!」

 「あ、ちょっと待て!」


 何かを見つけたのだろうか、ユキはそう言って一方的に通話を切りやがった。


 「……とりあえず、ユキの両親に報告するか……」


 そして、やや冷静になった俺は、ユキの家に電話をかけつつ、ユキの家に歩いて向かうのであった。

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