後書きからの~ 

『あとがき』


 かつて別サイトに載せていた小説の加筆修正版とは名ばかりの、ほぼ完全新作として15万字を超える文量でお送りした『黄昏街と暁の鐘』は、何とも、“不真面目”な作品だと自己評価しています。


 主人公の晃陽こうようにしてからが、どうにもふざけた奴で、割と命の危険が差し迫ったときも天然発言をかましたり、思わず敵の親玉が作った大型怪獣にときめいてしまったり、「お前もっと真面目にやれ!」と書きながら思うこともありました。


 じゃあ、そういう風に書けよという話ですが、そうではなくて、この不真面目さこそが、本作に必要なものだったのだと思っているのです。


 一応、最終的に世界がかなり危機に瀕しているという設定で駆動させましたが、その根底にあるのは、それほど時代が流れても消えないであろう、少年たちの冒険心と、日常からふっと零れ出た謎を解き明かす楽しみでした。


(※改稿にあたって文章修正)

 この作品を当初『ミステリー』という枠内に入れていた理由も、そこにありました。「こんなバトルまみれのミステリーがあってたまるか」という意見は受け入れます。何しろ、初めて書いた十万字越えの小説の改稿だったものが、結果的に、ほぼ新作の書き下ろしとなってしまうほど、とっ散らかった内容です。よくぞ一回書き上げたものだと、過去の自分を褒めてやりたい。(後に『現代ファンタジー』ジャンルに鞍替え 2020年4月)


 いろいろと未熟さを噛み締めながら、それでも止まることなく書き上げることができたのは成長であったと思います。


 また、初めての試みでしたが、カクヨムの仕様に合わせて『1話』『2話』と、順に物語を紡いでいく上で、この淡々と積み重なる数字に、少しだけ意味を持たせたくなりました。


 その結果の一つが、54話に出した、『最終話』というタイトルです。人生という名の物語に、スッキリと決まった最終回と呼べる日が無いように(死亡という終点は、ただの命日)、晃陽たちの物語も、彼らが立ち止まらない限り、まだまだこれからも続いていきます。誰かに決めつけられた最後を超える瞬間というものを―――結局作者が決めてはいるんですが、そういう意志のようなものを描きたかったわけです。


 その思いのもう一つの結実が、これから始まります。


 あとがきからの番外編。


 彼らの物語は、まだ始まったばかり。というわけで、本編よりさらに頭の悪いアフターストーリーです。








※※








 2030年。二色町、五月某日。


 暁井あけいあかりの朝は遅い。


 連休中、繰り返した夜更かしで、完全に体内時計が狂っている。


 でも、これは自分のせいじゃない。


 勝手に行方不明になっていたあの男のせいだ。心配で、夜も寝られなかった。


 ―――東雲しののめ、晃陽。


「うううううぅぅぅ!!!!」


 ベッドの中で、女子にはあるまじき濁声だみごえで唸る。頭の中で名前を呼ぶだけで、あの銀縁の眼鏡を掛けた男の子が目に浮かんでくる。そして、あの『二色町決戦』の日、影喰いに操られた自分を助け出してくれたあの意外な腕の力強さがまだ身体に残っている。


 お姫様、抱っこ……された。


「うわあああああ!!!!」

「うるっさいわ!! 黙れ妹ォ!!」


 また叫ぶ明に、ついに同室の姉・ひかりがキレた。こちらはアウトドア派の健康優良児なので、とっくに起きて着替えまで済んでいる。カーキ色の半袖パーカーに、黒のベレー帽を被っている。よく見た服装―――なのだが。


「あれ、お姉ちゃん、今日スカートなの?」


 シックな色合いだが、膝上で布がひらひら揺れている。珍しい。というか、制服と、父方の実家で無理やり着させられたとき以外にない。


「……なんか文句ある?」

「ん~ん?」


 別に、という声色を発しながら、布団から亀のように出した顔には何かを楽しむような笑みが浮かんでいる。


「やっぱり私、行かない方が良いんじゃない? せっかくのデート、邪魔しちゃやめてやめて、布団引っぺがさないで、馬乗りにならないで、ただでさえ酷い寝癖をさらにグシャグシャにしないでごめんなさい」


 二年の空白で体格こそ追いついたが、精神的な上下関係は変わっていない姉妹の朝は、遅いが、騒々しい。


「大体ね、アンタも人のこと言えないんだから」


 待ち合わせ場所に向かう途中、光が反撃に出る。明の今日の私服は、お気に入りらしい少し大きめなトレーナーに、ジーンズというシンプルなもの。頭には赤色のキャップが乗っかっている。


「晃陽くんが帰って来てから、アンタ、まともに話しかけられもしてないでしょ」

「あぅ……」

「一回ギュってされたくらいでそれとか、どんだけチョロいの?」

「だって~」


 完全にクールな文学少女の仮面など剥がれ落ちた明が、姉の腕にまとわりつきながら情けない声を出す。


「あんな風に抱っこされたの、生まれて初めてだったし」

「抱っこってね、見てたけど、荷物みたいに小脇に抱えられてただけじゃない。断じて、あれは抱っことは言わない」

「抱っこだもん。小脇に荷物持ちなんてされてないもん」

「現実を受け入れろ。マジで。妄想の世界から戻って来られなくなるから」


 かつて、とある少年に「妄想狂だ」「名前で呼ぶな」「話しかけるな」と言っていたとは思えない堕落ぶりである。


 その後も、罵倒交じりのじゃれ合いを繰り広げながら、姉妹は、待ち合わせ場所たる駅近くの中央図書館に辿り着いた。


「よっ! 暁井姉妹っ!」

「おはよ~。もうすぐ昼だけど~」

「やっぱり明ちゃんが寝坊したの?」

「昼飯は二人で奢りだぜ?」


 藤岡月菜ふじおかつきな浅井香美奈あさいかみな三好貴江みよしきえ、そして、この物語もう一人の主人公、小暮黎こぐれれい。順番に喋った四人に、明と光が近付いていく。


 本編に67話も使いながら、名ありのキャラは意外と少ない『黄昏街たそがれまちと暁の鐘』の、メインと脇を固める者たちのほとんどが介している。


 しかし、いずこかに去っていった氷月ひづきは別として、主人公の姿はそこになかった。


「では、始めましょうか」


 図書館の自習机に全員が腰掛けると、貴江が言う。


「勉強会、兼、東雲晃陽くんのお誕生日会の打ち合わせ」


「「「「「はーい!」」」」」



 これは、ただでさえ不真面目な冒険譚だった本編を、もっと頭の悪いものにしたかった者の意思が働いた、とんでもなく益体も無い番外編である。


 

『第68話 太陽と夕暮れと、

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