第一章 元少年司令、異世界の大地に立つ
プロローグ
『ヨウタよ…… 目覚めなさい、ヨウタ……』
懐かしい声に呼掛けられ、ゆっくりと意識が覚醒していく。
目を開けば、自分が白一色の光の中に浮かんでいるのが分かった。
意識を失う直前まで、俺は自分が働いている工場で、高校生の工場見学の案内をしていたはずだ。
しかし驚きは少なく、すんなりとこの状況を受け入れる。何故なら、俺は十五年前にこの状態を何度も体験していたからだ。
『久しぶりですね、ヨウタ……』
俺に呼掛けていた温かい女性の声が、穏やかにそう言った。
声の主の姿はなく、声は直接頭に響くのだが、それも当然のことで声の主は俺を包んでいる白い光そのものなのだ。
「マザー・ガイア……」
彼女こそ、惑星生命体・地球の意志マザー・ガイア、十五年前のギルレイダー襲撃に際し、当時小学生だった俺に十二体の守護者、世間では「勇者戦隊」と呼ばれていたロボット軍団を託し、ギルレイダーの迎撃を依頼した張本人(張本星?)である。
だが、彼女はギルレイダーの壊滅後、守護者達と共に再び眠りに就いたはずだ。
『そう、つい先ほどまでわたしは眠っておりました。それでも、貴方のことはいつも見守っていたのですよ?』
惑星規模の生命体にとって、眠りの片手間に人一人の人生を見守るのは大した作業ではないのかもしれないし、俺が頭で考えてることまで読み取って会話するなんてのは、昔からちょくちょくやられていたので、今更違和感も感じない。
『貴方が、健やかに生き、人としての生命を全うしてくれるのなら、わたしも見守るだけです。我が身の上で起こる命の営みの内でなら、貴方に何があろうとも手を出すつもりもありませんでした』
ああ、つまり事故や病気、貧困や人間関係のいざこざみたいな理由なら、俺に何があっても手を出す予定ではなかったと。
なのに今こうしているってことは、何かそれ以上のことが起こっているのか。
『その通りです。何者かが、貴方の周囲の空間に干渉し、貴方をわたしの元から連れ去ろうとしています。今は一瞬の間に割り込んで貴方の意識に接触していますが、それももうすぐ途切れてしまうでしょう』
「え? 俺、地球上から誘拐されつつあるの? いや十五年前と違って、俺にも仕事とか生活とかあるし、困るんだけど?」
『わたしとて、貴方を連れ去られることに憤りを禁じ得ません。しかし、既に転移は成されていて干渉することができないのです。そこで、再び彼らを貴方に託すことにしました』
マザー・ガイアの言葉と共に、十二色の光球が白い闇の中に飛来し、俺を囲むように輪を作る。
『久しぶりだな、ヨウタ!』
コバルトブルーに輝く光球が、明滅しながら語りかけてくると、他の十一個の光球もそれぞれに言葉を掛けてきて急に頭の中が騒がしくなる。
「ガイアース! それに他のみんなも久しぶり! けど、話すのは順番にしてくれ!」
十二の光球はマザー・ガイアが生み出した守護者達で、最初に俺の前に現われたときもこんな光球の姿だった。コバルトブルーは彼らのリーダー、ガイアースの色だ。
十五年前、共に戦った戦友達との再会は嬉しいが、皆で一遍に話し掛けてくるのは勘弁して欲しい。
『再会を懐かしむのは後になさい。ヨウタ、貴方を連れ去ろうとしているのが何者であろうと、彼らがいれば貴方を害することはできないでしょう。また、彼らを通じて、貴方を追うことができるかもしれません。貴方は強い子です。何があろうと、彼らと協力して乗り越えてゆくのですよ』
俺の手の中にスマートフォンのような端末が現われると、マザー・ガイアの光は薄れてゆき、この言葉を最後に俺の意識は再び暗転していった。
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