人生にコンセプトなんてあるか。

John

1月15日(火) 

 朝、中学校の教室にて。


「アタシたちの街が危ない」

「はぁ」

「何その気のない返事は。危ないっていってんでしょうが。もうちょっとアゲた返答があってもいいでしょ」

「おけ。もっかいやって」

「アタシたちの街が危ないっ!」

「ふぅん」

「危ないっ!」

「へぇ」

あぶっ!」

「うん」

「あっ!」

「わかった。聞くよ」

「よし勝った。いや今日ね。天気予報見たんだよ」

「そっか。偉いね」

「いやそんなことで褒めないでよ」

「あんたが世情を知ろうとするなんて稀有だなって思って」

「けうって?」

「珍しいってこと」

「どんな字書くの」

「のぎへんに希望のき書いて、あとは有象無象のう」

「はぁー、なるほどぅ。うぞうむぞうの字出てこないや」

「烏有に帰すのゆう」

「わかんない。何でそんなんばっかなの? もっとわかりやすく説明できないの? 難しい言葉知ってるアピール?」

「いや、何かわかりやすいの思いつかなくて……」

「素直に申し訳なさそうにしないで。怒ってないから」

「有る無しの有る」

「やっぱ怒ってるわ」

「ごめん、今思いついた」

「まぁいいけど。稀有ね。メモるからちょっと待って。ついでに『うゆうにきす』も教えて」

「いいけど……あんた何でこういうとこばっか真面目なの」

「真面目? うゆうのうってどんな字?」

「いや、こういうのって大概嫌がる人多いでしょ。知らない言葉使わないでーってなると思うんだけど、あんたメモるし。うはからす。鳥のぼっこないやつ」

「知らなきゃその人知ってるんだから聞けばいいじゃん。バカじゃないの? 鳥の……ぼっこないやつ? いや、棒だらけだけど。どこ? 縦? 横?」

「そっか、バカか……わたしがバカなのか……? 縦取ったら明らかに字崩れるでしょ。取るのは横で、えっと……」

こう?」

「そうそう。すは家に帰るのかえるに、送り仮名で」

「ははぁ、これで。意味は?」

「すっかりなくなる、みたいな感じ」

「字面から全然意味が汲み取れないや」

「たしか、元は『いずくんぞ有らんや』じゃなかったかな」

「なるほど納得」

「何でこの説明は納得できるんだろう……」

「ほら、お受験漢文ずっとやってるから」

「烏でいずくんぞって出てきたっけ」

「多分出てきた出てきた」

「あぁ、そう……で?」

「でって?」

「話、戻そうよ」

「話」

「何でそんな呆けた顔してるの」

「何の話してったけ」

「天気予報みたんでしょ」

「見た」

「わたしたちの街が危ないんじゃなかったっけ」

「あー!」

「いや、『君天才っ』って感じに決め顔で指パッチンされても……それで?」

「今日最低気温マイナス十五度だって。寒いよねー」

「……そうだね」


 嘆息をかき消すように、朝のチャイムが鳴る。

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