田舎令嬢に転生したのはいいけれども王子の婚約者になってしまった…

七井修一

第1話 田舎令嬢の平穏

 どうも、俺…私はアルトリア・ルーデル、この国、ファジエルド王国の南の辺境を治めるルーデル家の長女です。


 自分でいうのもなんだけど結構な美少女です。でも中身がね、まあ異世界転生ってやつですよしかも前世は男。5歳ぐらいに記憶が戻った時は本当動揺したわー。


 でもチートとかは特にもらってないし、貴族の家に生まれたけど基本貧乏だし、領地は自然いっぱいのいいところだし、深いこと考えずに野山を駆けまわって育ってきたの。


 その私がね、今ね。


「私は今ここで、このアルトリア・ルーデル嬢との婚約する!」



 なぜかこの国の王子様と婚約する流れになってしまったりするわけであります、はい。


 …一体なんでこんなことになったんや。




 数日前、ファジエルド王国南部、ルーデル領。


「アル!今日は何して遊ぶ!」

「ごめんね、今日は家で稽古があるから遊べないや、また明日ね!」

「アル嬢ちゃん、今日はいい猪の肉狩ってきたけどいるかい?」

「おお!うm…おいしそうなお肉ね!後でミハ兄と一緒に取りに来るー」

「アルさんアルさん、ケイネスト様はいつごろおかえりになるの?」

「ケイ兄は今王都だからね、もうすぐ帰ってくるって手紙に書いたあったよ」


 この村はいい、俺が貴族の娘だからって遠慮しないで普通に接してくれている。暖かい人たちで本当うれしい。


「おっ、男女じゃねえか!相変わらず貧相な胸だな!」

 …ま、まあ子供たちも俺に懐いてくれているってことだから…。


「早くお家に帰ってふりふりのおべべで着飾れよwwwwwあ、そんなの持っているわけないかwwwwwww」


 落ち着け落ち着け、一応俺は伯爵家のご令嬢、こんな幼稚な煽りなんぞ優雅に受け流して…。


「いくら女が武術のお稽古したって雑魚は雑魚だろwwwwwwJKwwwwww」


 ブチッ、と頭の血管が切れる音が聞こえた。


「…黙って聞いていたらいい気になりやがって、クソガキにはきちんと躾をしないとなぁ!」

「男女がキレたぞー!逃げろ逃げろ!」


 クソガキを追いかけたらなぜか他の子どもたちまで逃げてしまった。こいつら俺をおちょくりやがって…全員捕まえて説教タイムじゃ!。



 30分後


「あーあみんな捕まっちゃったー」

「無駄に広範囲に逃げやがって…時間かかっちまったじゃねえか…」


 特に一番初めに煽ってきたあのガキ、橋の裏側に張り付いているなんて誰が気づくか!忍者か貴様は!

 疲れ果ててエセお嬢様口調も取れてしまった、まあいいかどうせみんなにこの性格はばれてるし…。

「鬼ごっこはこれでしまいだな、次は何して遊ぶ男女wwwww」

「お前はいい加減にしろ!ったく遊びてえなら遊びたいってちゃんと言えよな…」


 乱暴にクソガキの頭をなでる。や、やめろよーと煩わしそうに声を上げるクソガキ。けけけけ、どうせだからめっちゃダサい髪形にでもしてやろう。


「あー!カイト君ずるーい!私もアル姉さんに頭撫でてもらいたいー!」

「お、おうこのぐらいでいいならいくらでもいいぞ?」

 頭を撫でられたがるとは、まだまだ子どもなんだな…。


「じゃあ私も!」「わたしも!」「ぼ、僕も!」「俺もやってほしいー」


 おっと?なんだ、この頭撫でブームは?今子供の中で大人気なのか?


「順番、順番は守れっておい!押すな!倒れるだろ!」


 一気に押し寄せたものだから原っぱの真ん中で子供たちと大の字で寝っ転がる形になってしまった。…日差しが気持ちいなー。


 こども達も逃げまくったせいか疲れて寝息を立て始めた。かくいう俺も、かなり眠く…。




 懐かしい光景を見ていた、俺がアルトリア・ルーデルではなく田中一郎として日本で生きてきた時の記憶だ。


 あの日もすっげえいい天気であくびを噛み殺しながら学校に向かうとこだったっけ。


「…ル‥リア…」


 そしたら隣町の高校の奴らがうちの生徒カツアゲしてやがったから喧嘩売って、ボコって、


「‥ルトリア…」


 気持ちよくぶん殴れたから気分良くスキップしていたらトラックが歩道に突っ込んできて…。


「アルトリア!」

「のわッ!?」


 耳元で名前を大声で叫ばれた!耳がジンジンする・・・。


「せっかく人がいい気持ちで寝ていたのに…いったい誰だよ!」


 背後を振り返って声を上げた下手人を見上げるとそこには見慣れた顔が立っていた。


「それはこちらも聞いておこうかな、日が沈んでいるのに野原の真ん中で爆睡しているお嬢さんは一体誰なのかな」


 夕陽に照らされた短く切りそろえられた黒髪、すべてを優しく包み込むようなさわやかな笑顔、視線が合ったら目を離せなくなるアメジスト色の瞳、この絵にかいたようなイケメンは―。


「ケイ兄ィ!帰ってきてたのか!」


 我が一番目の兄にしてこの領地の跡取り、ケイネスト・ルーデルだ!

 頭脳明晰で優しい自慢の兄だ、しかも武術にもたけている。まさに俺の理想の男性像…こうなりてえなぁ…。


「ついさっき帰ってきたよ、それでなんでこんなところで寝ていたんだい、お転婆なお嬢さん」

「ガキどもと一緒に寝っ転がってて、気づいたら寝てたんだが…というかガキたちは?」

「私がここに来た時にはもういなかったよ、もう日も沈むし家に帰ったんじゃないか?」


 あのガキども…仮にも領主の娘だぞ?誰一人起こさないってどういうことだよ!


「…ふっ、ま、また手玉に取られたようだねアル」


 ケイ兄が耐え切れないといった様子で口元を抑えて笑い出した。


「ち、違うし!俺があいつらと遊んでやったんだって!」

「もう16になるのに10近くも年が離れた子どもと楽しく遊んでいたのか…はははは!」

「だ、だから笑うなってもう!」


 たまにケイ兄は意地悪だ、ものすごく恥ずかしい。


「す、すまんすまん、とりあえず家に帰ろう、父上と母上が今日は豪華な夕食にすると言ってたぞ」

「やった!早く行こうぜケイ兄!」


 今日は久しぶりに芋粥以外の食い物が食える~。思わずスキップしてしまうぜ!


 家への道を鼻歌交じりで帰る。今の俺は無敵だ!


「…あ、そうだった言い忘れていたんだが、アルの武術の師匠のカイエンさん、帰ってきたら組手1000本だっていっていたぞ、何か怒らせるようなことしたのか?」


「えーそんなことは身に覚えはございま…あっ」


 今日の稽古、ぶっちしちまった…。


「…夕飯はお預けだな」


 ケイ兄は俺の絶望した表情をみて笑いながら俺の首根っこを摑まえて家へと引きづっていった…。


 勿論晩飯は食えなかった。

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