ずっと雨でも

@nakamichiko

居間の雨

   


 夜、各チャンネルの天気予報を見ることが大切な日課となっている人は多いだろう。漁師さん、農業関係者、工事関係者 、営業などなど。

そういう人のことを思うと、自分がすごくとは言わないまでも心得違いをしているとは感じる。

でも、各局の気象予報士の、「明日は雨でしょう」という言葉が積み重なっていくたび、ニヤニヤから最終的には人に見せたいくらいの満面の笑みになっているのが自分でも楽しくて仕方がない。そして狭いワンルームの一人の家で、最後は傘を広げてダンスをする始末だ。何度も見た「雨に歌えば」という古いミュージカル映画のように。

そう、私は雨が好き、だから雨具が大、大、大好きなのだ。

 

「初お披露目しようかな、ゴアテックスのつばひろ帽子」


 うれしい独り言だ。雨の日用の帽子と言えばビニールで、つばの部分だけが透明のものを思い浮かべるが、この帽子は見た目も全く普通の帽子。表面は撥水加工の生地で雨粒はコロコロと落ちていく。

ゴアテックスはその生地の裏に使われていて、透湿防水加工、要は濡れるのは防いで蒸れるのは抑えるという、私よりもずっと年上の素材だ。アメリカ生まれで、パテントの厳しさから、これを使っているものは必ずゴア、ゴアテックスと英語のタグが付いている。ゴアテックスにもグレードがあり、登山用のレインウエアの値段はその質によるものが多い。

 もちろん他のメーカーもこれに代わる素材で頑張ってる。

コロンビア(知らない人のために。アメリカの衣料のメーカー、旦那様の釣り用ベストを作ったのが誕生秘話だとか)のオムニテック

日本のポールワーズ、過酷な冒険者のためにも開発は進んでいる。

繊維メーカーの東レの新素材も面白いし、スパイバーの蜘蛛の糸の生産成功も喜ばしいが、まだまだ高価で手には届かない。でもいつか、とは思っている。

私としては、周りから少しあおられているせいもあるが、


「職場まで濡れずに行きたい、そのあと気分よく仕事がしたい」というのが目標だ。


  雨具にお金をかけているのに他の人と同じだったら、笑い話ならまだいいが嘲笑はよろしくはない、お互い不愉快だ。それならば


「すごいね! この雨で大丈夫だったの! 」


これこそ完全勝利、尊敬も集められるというものだ。かくして、ただの雨具好きが最新の素材や、はたまた天気についても知識を増やさざるを得なくなってきた。

だがゲリラ豪雨は確かに怖い。あまりの長時間はさすがにどんな雨具でも無理だと気付いて、朝は会社に行かなければならないのでどうしようもないが、帰りにひどい場合は、どこかで一時的に雨をしのぐ。それを一度同僚に見つかったが正直に言った。


「私は雨が好きなんです、だからなめてもいません。小さな、あるは糸のような彼らが集まって大水になります、自然には勝てないんですよ、危険を感じるからここにいます」

「おっしゃる通り」

その人とは今でも何故か仲がいい。

 

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