第8話 プール

 目的の駅についた私達は、電車から降り歩いてすぐのプールに向かった。


 プールの入り口で、向日葵が持っているチケットを、出入りができるパスチケットに交換して更衣室に入っていく。


 更衣室に入り着替えを始めるのだが、私はなんだか気恥ずかしくなり服を脱ぐのを少し戸惑ってしまった。

 もちろん女同士なので恥ずかしがる必要はないのだが、やはり少しだけ恥ずかしい。

 そんなことを考えているうちに二人は服を脱ぎ始めてしまった。


 百合さんが服を脱いでいる姿は綺麗な長い髪も相まって大人の色気を醸し出している。

 反対に向日葵は短く綺麗に整った髪で、まぁ胸も大きいので大人の色気ではないがもの凄くエロい体をしていた。


 すると百合さんと向日葵はほぼ同時に、私が恥ずかしがっていることに気づいたようで、着替えを止めて二人同時に私のところに歩み寄ってくる。


「葵もしかして恥ずかしいの?」

「葵ちゃん恥ずかしいの? 可愛いー」


 やっぱりこの二人姉妹だ、私はそう確信しながら否定する。


「いや別に恥ずかしがってないよ全然」


 すると向日葵の顔がニヤとニヤついた。


「もう恥ずかしがってないで、早く脱ぎなって!」


 向日葵はそう言いながら私の上着を無理矢理脱がしていってしまった。

 下着のみの姿になった私を二人はまじまじとみてくる。

 私は腕で胸を隠すような体勢で二人を牽制するが、全く見る目を止める気配はなかった。


「やっぱり葵スタイルいいよねー」

 向日葵は何か感心したようなトーンでそう言った。

 それに続くように百合さんも喋りだした。


「ホント葵ちゃんスタイル良いー! 私が男だったらこのスタイルだけで好きになっちゃうかも」


 この人は何を言っているんだ? と疑問に思いつつも今この目の前状況を冷静に考えてみると、もの凄く恥ずかしくて顔が赤くなってしまう。


「もう恥ずかしいのでそんなジロジロみないで!」


 私は照れを丸出しにして叫ぶようにそう言った。


「照れちゃって葵、可愛いー!」


 向日葵はもの凄くバカにした表情で、そう言い終わると着替えを再開し始めた。

 百合さんもこのタイミングで、着替えを再開し始めた。

 私も着替えを再開しようと下着を脱ぎ始めると、いつのまにか気恥ずかしさがなくなっていた。


 着替えも終わり私達はプールサイドに向かう、その道中歩きながら向日葵が喋りだした。


「葵、その水着可愛いー!」


 そう言ってくれた向日葵は、黒色のビキニを着ている。


「ホントだ葵ちゃん、似合ってるね」


 そう続けて褒めてくれた百合さんは、やっぱり大人っぽいオレンジ色パレオを腰に巻いている。

 私は一言「ありがとうございます!」とお礼を言った。

 そんな私はパーカーを羽織り、中にフリフリがついた青っぽい色の水着を着ている。


 水着の話をしているうちにプールサイドに到着していた。

 すると向日葵が「それじゃあ」と掛け声をかけて今にも走りだそうとしていた。

 それをみた百合さんは、歳上としての風格を見せつけるように向日葵に声をかけた。


「待って向日葵! プールに入る前に準備体操しなくちゃダメだよ!」


 それを聞いた向日葵は、一瞬別にいいじゃんという表情を見せたが、素直にしたがって準備体操を始めた。


「いっちに、さんし」


 そう掛け声をかけながら準備体操を始めている向日葵を、追いかけるように私と百合さんも掛け声をかけ始める。


「いっちに、さんし」

「いっちにさんしー」


 数分間の準備体操も終わり向日葵が、「今度こそ」と言いながら走っていく。

 私はそれを追いかけていくが、百合さんは全く追いかけてこなかったので、後ろを振り返って見ると百合さんが笑顔で喋りだした。


「しばらく二人で遊んでてー」


 そう言い終わると百合さんは、近くのベンチに腰を下ろした。

 私は「百合さんも行きましょ」と誘おうか迷ったが、前から向日葵の「葵ー早くー」という声が聞こえてきたので、まぁまた後で誘えばいいやと向日葵の方に走っていった。


 その後向日葵が、ビーチボールを膨らませに行っている間私はふと百合さんを見てみた。

 百合さんは誰かと電話をしている様子だった、なんかちょっと慌ててるというか、もの凄く嫌そうな表情をしていた。


「葵ー何みてるの?」


 とボールを膨らませ終わった向日葵が、私の肩に手を乗せながら聞いてきた。

 一瞬ビクッと体が動いたが、すぐに向日葵ということがわかったので喋りだす。


「うんあのね、百合さんがなんか凄く嫌そうな表情で、電話してるから気になっちゃった」


「お姉ちゃん時々あーゆー顔するしあんまり気にしなくて大丈夫だと思うよ」


 向日葵はそう言い終わると「早く遊ぼ」と言いながら私の腕を引っ張って歩きだした。

 私は抵抗せずに引っ張られていくが、やはり気になってしまい、百合さんの話を聞こうと耳を立てた、すると一言。


「⋯⋯無理⋯⋯」


 と叫んでいる百合さんの声が聞こえてきた。


 プールの中に入りボールで遊ぼうと向日葵が「いくよー葵」とボールを打ち上げ私が向日葵にボールを返したタイミングで、さっきまで電話をしていた百合さんが小走りにこちら向かってきた。

 私はやっと百合さんと遊べるそう思いほっとしていると、百合さんからは予想外の言葉が発せられた。


「二人ともごめん、用事できちゃったから私先帰るね」


 百合さんは両手を合わせて申し訳なさそうにそう言った。

 私は思考が追いつかない、百合さんが先に帰る? なんでせっかく遊べると思ったのになんで? そんなことを考えていると少し離れた場所にいた向日葵が来た。


「何があったの?」


 そう聞かれた百合さんは、色々濁すように「ちょっとね」とだけ呟いた。

 それを聞いた向日葵は、どこかほっとしたような表情をしていた。

 すると百合さんが本当に申し訳なさそうに喋りだした。


「二人ともホントごめんね」


 そう言い終わると百合さんは出口の方に歩きだした。

 私はなんとか思考を元に戻し勇気を振り絞って百合さんに声をかけた。


「百合さん今度またどこか遊びに行きましょ!」


 すると百合さんは後ろに振り返り「オッケー」と返事をして出口に向かっていった。

 私は思わず笑みをこぼしてしまった。

 ただやっぱり百合さんが帰ってしまったのは残念でならなかった。


 その後のプールでの遊びはどこか欠けているような感じで、お世辞にも盛り上がったとは言えなかった

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