最終章13 『観測者効果と泥棒悪魔』

 ここはカグラたち愛用の安宿のロビー。


「そういえばダンダリオン。お前、なんで実在しているんだ? お前は、転生前の俺の脳内妄想である存在。つまり、イマジナリーフレンドってやつなんだろ。ぶっちゃけ」


「くっくっく。ああ……その件ですね。それでは百四番目の試練。何故なぜ、私や、ソレイユ、セレネの妹たちが、現実に存在しているのか、答えなさい」


「だーっ! わっかんねーっつーの。ヒントだ。ヒントを寄越せよこせ!」


「確かにクイズ問題は、カグラさんには相応しくふさわしくありませんでしたね。それではヒントを差し上げましょう。切っ掛けは、『奇跡を問う法廷』です」


「あの無数の世界とやらが参加していた法廷の事か?」


「そうです」


「無数の世界の観測…………観測者効果デスか?」


「くっくっく。本当はカグラへの試練だったのですが、カグラの頭では一生答えを出せなそうなので、今回はお仲間が代理で答えるのも、特例で良しとしましょう」


「そして、それが裁判の議事録として記録されたという事にへ?」


「そうです。奇跡を問う法廷は、多くの世界によって観測されることによって、真実虚構から事実現実へシフトしました。更に造物主がその真実虚構事実現実と解釈し、それを事実として最も権威のある、法廷の議事録という形で残してしまいました」


「造物主? そんなやつ、あの法廷にいたのか?」


「くっくっく。この世界の極秘事項ですが、話しましょう。正体は、裁判長と……その召し使いですよ」


「へぇ、そう。でも、造物主というくらいに偉い存在なのであれば、真実虚構事実現実を間違えることなんて無いんじゃないか?」


「彼は自分にかせを課しているのですよ。あえて、彼自身を全知全能で無いように制限しているのですよ。そうでなければ、物語を創ることも、楽しく読むこともできませんからね」


「まあ、分からねぇでもないな。つい最近、超パワーで無双っていうのを経験した者の感想としては、何だかチートツールで世界を自分の都合の良いように改竄かいざんしたみたいで微妙な感じだぜ。あの時は必要な力だったとは言え、デコピンで星を破壊できるような力って、いざ持ってみると、結構興ざめするもんだな」


「そうデスね。ギルドのクエストも、ワタシのマシンガン一発で、敵が爆散して終わるので、ちょっと寂しいというのが本音デス……」


贅沢ぜいたくな悩みなのは分かるけど。ボクもちょっと何か最近はなんか張り合いがないと思っていたにへぇ。ちょっとボクたち強く成り過ぎちゃったにへぇ」


「くっくっく。そんな物ですよ。競う相手も、制限もなくなり、自由度が高くなれば高くなるほど、目的も夢も想像の余地もなくなってゆくものです。そして、この行きつく先が、緩慢なる精神の死です」


「でも最強の人間グレンデルさんはいつも楽しそうデスよ?」


「彼女は……例外ですよ。運命に導かれるかのように、常に自分の前に自分よりも強い存在が現れる。だから彼女は最強でありながら、常に目標や生きる意義を失う事が無い。何故ならなぜなら、常に最強である自分よりも強い最強が現れるのですから」


「運命。それも、世界を創造している造物主とやらがやっている事なのか?」


「いえいえ。彼らはそんなことをする能力はありません。彼が出来るのは2つだけ。誰かが作った物語を朗読によって実在の物とすること。そして、自身も物語を作ること。基本的にはこの二つ。造物した世界で生きる人間たちは勝手に動き出すので、その制御までは彼にも不可能」


「あんまり強そうな感じじゃない二人だたけど、あの造物主とやらが死んだら全ての世界は終わるのか?」


「それは知りません。ただ、現在の神には前任者が居たという伝承もあるので、その時は誰かが後任となるのかもしれませんね。あくまでも仮説に過ぎませんが」


「そもそも、ダンダリオン。お前の存在ってどういうことになっているんだ? きっかけは俺の脳内妄想だから、俺が生まれていなければ、お前が誕生していなかった。この認識は正しいか?」


「いいえ。そうはなりません。時系列は改竄かいざんされ、カグラが産まれる遥かはるか以前から私が存在した事になっていますから。奇跡を問う法廷の議事録に記されることで、私の存在は、数多あまたの世界の黎明期れいめいきから存在した事に変更されています」


「……四次元的に世界が再構築されたということデスね?」


「そう。私自身の実感としては、そもそもカグラさんが誕生する太古の昔から存在していてソロモン72柱も私以外も含めて実在する世界が事実であり、時系列的には、カグラさんの居た世界の方が、後で創世されたという認識ですねぇ」


「タイムパラドックスは起こらないのデスか?」


「起こりません。起こらない理由は、そもそもカグラさん関係無く、私たちが存在していたからなのか、それともそうじゃ無いのか、悪魔である私にとっても答えの出せない、悪魔の証明ですね」


「新たなる解釈によって生み出された新世界が、時系列を割り込んで過去から実在した事になってしまったということにへ……」


「くっくっく。その辺りは、正直『卵が先か鶏が先か』の議論なので、私は何ともいえませんねぇ。もう既に、世界として実在しているので、そうじゃなかったという選択肢が、あり得ないので。悪魔の証明です」


「そうか。難しい話はどーでも良いよ。それよりも、詩唯しいちゃんの手術はうまくいったのか? 俺の死は無駄じゃなかったのか? それが俺の知りたい事実だ」


「結論から言いましょう。手術はうまくいきました。そして詩唯しいさんもその後も、後遺症などなく、カグラ、あなたの分も幸せに生き、やがて子供を作り、あの世界で天寿を全うされました」


「執刀医は?」


「あの方は、残念ながらあなたの遺体を使った緊急執刀の責を問われ医師免許を剥奪はくだつされました。もっとも、あなたの臓器移植カードと、あなたの筆跡で書かれた指紋のついた自筆のメモのおかげで、情状酌量がつき、実刑は免れる事はできました。テレビの報道で世論が執刀医の味方に付いたのも大きかったようですねぇ」


「執刀医の人には迷惑をかけたな。キャリアを台無しにさせてしまったな……」


「いえいえあの人実は詩唯しいさんの実の父だったので随分とあなたには感謝していましたよ。あそこまで患者に肩入れするのは実の子供だったからってわけですね。そして、カグラさんと違って頭も良かったのでその後は、まあ普通に転職して、同じくらいの給料を稼げるようになって幸せにくらしたようです」


「はは。なんだそりゃ、それこそ本当のご都合主義の奇跡じゃねーか。はははっ。受けるぜ。まあ、でもあれだな、神様ってのは本当にいるっつー事なのかもな? ……そういえば、真実虚構事実現実になったっつーんなら、外宇宙の侵略者の件も事実現実になっちまってたんじゃねぇか? まあ詩唯ちゃんが、天寿を全うしたっつー事なら、地球側が勝ったんだろうけどさ」


「くっくっく。大変でしたよ。ニャルラトホテプ率いる外宇宙の軍勢と、ソロモン72柱の全軍、そして突如現れた八百万やおよろずの神々たちと、地底人、果てはビッグフッドやネッシーやヒバゴンをはじめとしたUMAまで参戦。しっちゃかめっちゃかでしたが、まあ結論から言いますと。侵略される前に水際で倒しきりましたよ」


「ダンダリオン、やるじゃん」


「くっくっく。……はぁ、まぁ……全然良くないんですよ。この一件を機にソロモン72柱の本星が、外宇宙の侵略者の黒幕――アザトースに狙われて今は大ピンチなんですよ。会話が成立しない相手には私の力も通用しないから厄介なのです……。だから、私は忙しいと言っていたのです」


「ソロモンの悪魔とコズミックホラーの闘い見てみたい気もするが。やばい事になってるんだな。はははっ!」


「くっくっく。カグラ、他人事のように笑いやがってムカつく嘲笑ですねぇ……。というわけで、カグラさんたちの全経験値と、資産、サン・フラワーという超規模破壊兵器、その他もろもろ全て没収させてもらいます」


 そうダンダリオンは言い放つと、レメゲトンソロモンの鍵

 取り出し、邪悪なる魔法を詠唱する。


 漆黒のオーラが、カグラと、セレネと、ソレイユを包み込む。

 そして、体中の力がソロモン72柱序列71位ダンダリオンに

 全て吸い取られてしまった。


「くっくっく。……これは、おお……凄いすごいパワーです! 体から力が……溢れ出るあふれでる!! これなら外宇宙の侵略者アザトースの軍勢にも負ける気がしませんねぇ。今の私の力であれば、ソロモン72柱の序列5位以内には入れてしまうかもしれませんね……」


「おいっ、お前、俺たちに何をしたんだ?」


「カグラたちの全ての今まで積み上げてきた経験値を私の物とさせていただきました! そしてカグラに百五番目の試練っ! この世界でレベル1からやり直し、そして再び、最上位階層、アヴァロンにたどり着きなさい!」


「レベル1ってひでぇなぁ。というか、俺はともかくとしてだっ! セレネとソレイユ完全に巻き込まれ事案だろ。このクソ馬鹿泥棒悪魔!」


「くっくっく。セレネさんと、ソレイユさんは連帯責任です。それに、あなたたちは、さっきまで、『俺たち最強過ぎてつれーわぁ。超つれーわぁ』とか舐めなめ腐ったことを言ってたじゃないですか。むしろ私には感謝して欲しいくらいですよ。まあ、私の星がちょっとヤバい自体なのは事実なので、セレネさんの作った破壊兵器一式含め、有効に活用させていただきますよ。わりとヤバいのは事実なのでね。……くっくっく」


「この泥棒悪魔……ボクの金をかえすにへぇ!」


「お金まで盗むなんてあんまりデス……。少なくともお金はそっちの世界の危機と何の因果関係がないデス。返してくだサイッ!! ワタシのお金返してくだサイッ!」


「私はあくまでも、悪魔ですから――まあお金の件は、タダの嫌がらせですがね。くっくっく。私の星の一件が片付いたらまた、カグラさんに嫌がらせをしに来ますよ。それまでに皆さん、せいぜい死なないようお気をつけて。それでは皆様またお会いしましょう。くっくっく」


 そう言い、ダンダリオンは悪魔的な装飾が

 施された魔法の扉を開き去って行った。


「はあ。やっぱりあいつ……悪魔だったんだな。というか今や、泥棒だ」


「経験値はともかく金は許せない! ボクの毎日スイーツ食べ放題生活を返せクソ泥棒!」


「兵器はともかくとして、お金を盗んだのは許せないデス! ワタシの宿でのぐーたら引き籠もり生活を返して!」



(……でもぶっちゃけこの二人、最近は一日中部屋に引き籠もってぐーたらしまくり、夜は高級ディナーの食い過ぎで顔とか腹にまで肉とか付きだしてちょいやべぇんだよな……。不健康なむちむち系というか……。さすがにそれを指摘すると傷つくだろうからと、我慢して黙ってはいたが、このままだと、こいつら豚になるのは確実だ。だいたいこいつら、ぐーたらしすぎなんだよ。……って俺の腹の肉もちょっと酷いひどいな……こりゃ本格的に運動しないとダメ人間一直線だ)



「はぁ。もう過ぎたことは諦めよう。所詮、悪魔は悪魔だったって事だ。今後、騙さだまされないように気を付けよう。……ギルドのおっちゃんのコネで簡単なクエスト斡旋あっせんしてもらおう。スライムあたりから倒して……小銭稼ぎだ」


「いやデス! ワタシ働きたくないデスッ!」


「ボクも、ぐーたらしたいにへ!」


「おらおら。お前ら、諦めてギルド行くぞ。生きるためにはまずは仕事だ!」


 カグラはそう言うと、嫌がるセレネと、ソレイユの

 手を引っ張りギルドへと向かって行ったのであった。


 レベル1からのやり直し。

 新たなるカグラたちの冒険の始まりである!

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