第五章11 『空戦の異端審問官ランクル①』

 セレネとツーマンセルを組んだのは、

 大航海者マルコ・ポーロ。

 彼らの役目はマルコポーロが飛行艇の操縦者、

 セレネは、砲撃手兼、白兵戦時の戦闘員。


 彼らが対する異端審問官ランクルは、

 飛行宇戦艦で空戦を行う相手であるため、

 地上からの攻撃が出来ない相手である。


 パートナーにセレネが選ばれた理由は、

 空戦時の測量、砲弾の空力抵抗計算、

 射撃タイミングの指示等々、艦砲を撃つ時の

 砲撃手としての腕を認められてという面が強い。


 ――つまりこの二人は空戦前提のツーマンセルということだ


「敵艦のジャミングを確認……分析そして無効化……ソナー最大出力で測量……完了……およそ5分後に接敵……艦砲の準備をお願いしマス」


「セレネさんの索敵技術は凄いすごいな。――その分析あてにさせてもらうぞ! それにしてもよりによって雲が厚いせいで、双眼鏡がまったく当てにならない。セレネさんがサポートしてくれるのは、本当助かるよ」


 セレネの得意とする分析と解析の能力は、

 空戦においても非常に有用な技術である。


 全てのスペックがまさに戦場における

 司令塔になるべく、与えられたモノのように

 思われるほど、サポート特化のスキル構成だ。


 分厚い雲を……突き破り、異形なる飛行戦艦が現れる。

 いや――その形状は――巨大な紺色の棺。


「あの飛行戦艦――形状がまるで棺桶かんおけみたいデス。どういう仕組みで動いているのか一切の謎。しかも――魔力反応はゼロ」


「帆も、推進機関も見えない。あと……私たちの世界の反重力機構ともまた別の理論体系で動いている。……最大限の警戒が必要」


 六角形の棺のような形状をしている、戦艦との距離は

 1キロほどに迫っている。

 マルコポーロは双眼鏡にて、その戦艦を覗き見るのぞきみる


「通り過ぎざまに艦砲を一斉射撃――。よおそろおおおおおっ!」


 戦艦の砲門が全門開門し、砲弾が撃ち込まれる。

 この世界の技術を組み合わせた破壊力を高めた砲弾が火を噴く。


 100を裕にこえる砲弾が戦艦から放たれる。

 ――複数の砲弾の着弾を確認。


 甲板の上に立つ、異端審問官

 ランクルは言い切る。


「ははん。僕のフライング・コフィンに傷つけてくれたのはどこのどいつですかねぇ?」


 音声が直接、セレネとマルコポーロの

 脳内に直接伝たちされる。


「お前は……その船の艦長か?」


「いかにも――僕はこの船の艦長であり異端審問官のランクル。以後お見知りおきを! それにしてもよくも私の船に傷をつけてくれましたねぇ。そんなに甲板上の人質を殺したいというのであれば――私は止めませんがね」


「……甲板上に熱源反応無数感知しマシタ。乗組員と思っていたのデスが……明らかに、生体反応が低いデス」


「……なんだありゃ。甲板の上が、まるで白百合しらゆりの花園だ。それにあの……白百合しらゆりの花園にそびえ立つ十字架にはりつけになったやつらは……生きているのか?」


「甲板上の十字架にはりつけにされた人間は――生きていマス。かなり憔悴しょうすいしていますが、意図的に生かされていると考えた方が良さそうです」


「クソが。まともにやりあう相手だとは思ってはいなかったが、人質というわけか……。これじゃあ、無闇に艦砲をぶっ放すぜねぇじゃねぇ」


「僕が裁かなくても、君たちが代わりにこの罪人たちを処刑してくれるという認識でよいのかな?」


「クソ野郎が……。卑劣にも人質を盾に強気で嫌がるぜ……。高度上昇の後、敵船艦にアンカー射出――目標は甲板。これよりセレネによる移乗攻撃による白兵戦に切り替える。セレネ頼んだぞ!」


「了解デス。甲板に乗り移り、異端審問官ランクルを沈黙させます」


「頼りになるぜぇ! アンカー射出ッ!! 取り舵いっぱいっ!! よおそろおおぉおおおっ!!」


 マルコポーロの飛行艇の左舷から、巨大なアンカーが

 射出される。セレネはそのアンカーの鎖に鉄製の

 取って付きのフックを引っかけ、グラインド降下して

 空飛ぶ棺桶かんおけことフライングコフィンに乗り移る。


 ここは甲板の上と言うよりは、むしろ花園。

 白い百合ゆりの花が、辺り一面に咲き誇り、

 あちらこちらに十字架が地面から生えている。


 ――そして、その十字架には人間がはりつけにされている。

 大分弱っているせいか苦悶くもんの声も弱々しいものである。


(……厄介です……このはりつけになった人たちを避けながらあの男を倒さないといけない……救助に回りたいとことデスが、まずは、敵の沈黙を優先させるべきデス)


「熱源反応無数――。なのに敵勢熱源反応はゼロ……。なんらかの方法で偽装していマス」


「ははーん。愚かにも、敵の懐に潜り込んできやがったか。この時点で、あなたの勝率は35%ですねぇ」


「否定すべきか……微妙な数字デス」


「まっ、その数値はお前が容赦なく、はりつけにされた人間を撃ち殺せるなら、という前提付きだけどね」


 セレネは、カグラ、ソレイユと異なり、

 戦闘において、銃をメインの武器として使うため、

 異端審問官との戦いには相性が良いのだ。


 セレネは、マシンガンからフルオートの

 自動小銃に切り替え、敵の索敵に移る。


(……敵がどこにいるのか……分からナイ……)


 異端審問官ランクルのボウガンから矢が射出され、

 ――セレネの肩に突き刺さる。


(……左後方……からの狙撃?! ……あの位置は十字架のはず……)


 振り向き、銃を構える。そこに居たのは、十字架に

 はりつけにされた人間に偽装したランクル。


「こんにちは。はじめまして! 僕が異端審問官ランクルです」


「あなたは何が目的デスか? この十字架にはりつけにされた人は一体?」


「……魔女です」


(……魔女? はりつけにされた人間の魔力反応は通常……魔法が使えるとは思えない……)


「異端審問官ランクル。あなたの魔女の定義はなデスか?」


「哲学的な質問ですねぇ。……一言で言うと罪人。断罪を受ける側の人間デスね」


「断罪……?」


「そう……七つの大罪を犯した者を僕が神の代行者として断罪しているのです」


「七つの大罪は……死後に煉獄れんごくにて禊がみそがれる罪。生前に人によって裁かれて良いモノではありまセン。それはたとえ、それが聖職者でも同じデス」


「……聖職者。ちっちっちっ。僕は神の代行者。まあ、言い換えるならば神と同等の存在といって良いでしょう……故に、現世において裁く事が許されるのでぇす」


「そうですか。……ならワタシがあなたを断罪しまショウ。その罪は――傲慢」


 ――乾いた破裂音の後に、弾丸が一直線に

 異端審問官ランクルに向かって飛翔ひしょうする。

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