第四章4  『大航海者マルコ・ポーロ襲来!』

「帆を張れっ! 風を受け突き進めっ! 最大船速だあああっ!! ひゃっはー! 今日は随分と良い風向きじゃねぇかあっ!! 気持ちいいぜぇ! とりかじいっぱいっ! よおぅそろおおおおおおおぅっ! ボンボ、ヤージッッ!!!」


 黄金の国ジパングを目指し、マルコ・ポーロは勢い良く、片手で船の舵を着る。帆は最大限風を受け、推進力を増し突き進むっ!


「あれが噂に聞く、未開の国ジパング?! ひゃっはっー!」


 マルコ・ポーロの船は、現在地上より遥か上空………高度1000メートル。カグラたちの遥か上空を悠々と飛行している。船の形状は最古の木造の戦艦ヴァーサ号そのものであるが、それが空を飛んでいるっ!


 船の外観から伺えることは、プロペラやジェットエンジン等は外観から見受けられないことから、この船がそれ以外の異界の能力で稼働していることを伺わせる。たが、どのような技術で飛行しているのかは一切の謎である。


 確かに、最古の木造の戦艦ヴァーサ号と酷似した形状ではあるが、まず船体の大きさが異なり、砲門の数も圧倒的にやはり一番の違いは…………


「うわぁ………。船がお空を飛んでるや。わぁーい!」


「カグラがいつも使っている例えで言うなら、いわゆるRPGゲームの飛空艇って奴と酷似しているノデス。ゲームだったら物語も折り返し地点に突入デスッ。新大陸や新たなボスが解放されそうデスネっ!」


「にっ……。にへぇ…………お船が飛んでるにへぇ………にへ」


 あまりの現実離れしている光景に正気を失う、カグラ達一同。村正の事前情報を元に、海から攻めてくる物と想定していたことが逆に仇となった。


 マルコ。ポーロの船を撃沈させるためにギルドから借金をして海岸沿いに多数設置した無数の超弩級バリスタも全く役立たずの置物になってしまった。


 カグラ達は、あまりの光景に口をあんぐりと口を開け、黙って空を飛ぶ一隻の船を眺めていると、遥か上空から拡声器のような何かを使い、高らかに叫ぶ声が聞こえる。男の声だ、声は若い。青年の声だ。


「ひゃっはーっ! 面舵いっぱいっ! ヨーソロォー! てめーらが辺境の国ジパングとやらの使節団かっ!! さあっ! 交渉の席につけっ! 鎖国は終わりっ! 開国の時間だあっ!………てめーらぁっ! 命が惜しけりゃ今すぐに貿易しやがれ! 対等貿易だああああぁあああああああああっっっ!! 無回答でも、反対でも抗戦の意志ありと見なし、俺の船の全砲門が火を噴くぜぇっ!!!! 戦争、だぁああ!! 結論を出すまでの間………三分間待ってやるっ!!!!」


 カグラ達に向かって遥か上空から拡声器を使い、大声で叫ぶ声がこだまする。カグラ達3人を交渉の使節団とでも勘違いしたのか、初手から明らかに好戦的なにカグラも流石に困り顔だぜ


「………やべぇ。アイツまともに話せるタイプじゃ無さそうだ。どうするセレネ? というか、あんな距離が離れている相手に意思疎通をする手段は何かあるか?」


「あの距離、かつ3分間でとなると………意思疎通は無理デスッ。マルコ・ポーロ………1000メートルの高度…………あの距離ではワタシのマシンガンもカグラのソードオフガンも無用の長物です。…………空飛ぶ船の左右に多数の砲門を確認………熱量感知…………交渉とかなんとか言ってましたがっ、アイツ自慢の艦砲をぶっ放す準備を進めてやがるデスッ。このままでは完全になぶり殺し…………っまずはとにかく移動しつつ、対策を考えるのデスッ!」


「セレネっち、了解。ソレイユの魔法もあの距離と高度だと………届かないにへぇ。なえなえ~。それに厄介なのは図体がデッカイいくせに、追い風を受けた時の移動速度は結構速い。セレネのバックアップがあっても、あの高速で動くあの高度の的に魔法をぶつけるのは無理そうにへぇ………っ」


「セレネのマシンガンも、ソレイユの魔法もあの船には届かないとなると、うむ、万策尽きた感があるなっ! あとは、あの船を止めるためには俺があの船に直接乗り込んで白兵戦に持ち込んでいくしかなさそうだ。それにしても空飛ぶ船っつーのは心躍るギミックではあるけど、こうやって敵と対峙すると厄介な相手ではあるよなぁ…………っ特に高高度の敵に直接攻撃する方法が無いとなると絶望しかないぜっ!」


 カグラ達が作戦会議を続けていいると、先程と同じように遥か上空からテンションの高い叫び声が聞こえる。


「こちらは国際法に則りぃ!! きっちり三分間待ってやったぞっ! 無回答とは恐れ入ったぞっ! つまりそれがお前たちの回答は交戦の意志ありっ! ひゃっはー!! さすがは未開の辺境国っ! 恐れを知らないぜぇ!! 全砲門開けえっ!! まずは挨拶代わりに無管制砲撃!! 強制開国開始ぃいいいいいいいいっ!!!! よおぅそろおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」


 次々に砲門が開かれ、その砲門から一斉にでたらめに滅茶苦茶に鉄球が打ち放たれる。撃ち放たれる数百を超える砲弾がめちゃくちゃな方向に打ちっ放され、あちこちの海岸沿いの施設を破壊していく。


 カグラ達が事前に海岸沿いで仕事をしている人達を退避していたので、幸いにして被害者はゼロ。だが…………これによってカグラ達のギルドへの借金が更に増えたことは言うまでもない。


 無管制のデタラメなランダム射撃ではあるが、ついに、カグラの目の前にどでかい鉄球がまるで隕石のように墜落して、否が応でも命の危機に晒されると自覚せざる負えなくなる。


 マルコ・ポーロが放った砲弾が地上の施設を焼き払い、この無管制砲撃によって海辺の施設は壊滅状態。………っだが、この世界の人間はこういう事態に備えて”転生者保険”に入っているので、むしろこの被害によって、新しく家を建て直せるぜくらいの気持ちであろう。


 この『超』難度の世界の世界の人間たちは、非戦闘職の人間でも、こと生きる事に関しては非常に貪欲でありなおかつ真剣である。その彼等の、強い生きざまはカグラ達から見ても驚かされるほどの逞しさである。


 海岸沿いの人間たちは、カグラ達の情報を途中まで聞いた段階で、老人子供含めて真っ先に逃げて人的な被害はゼロ……。っまあ、支払う側の保険会社としては今回の莫大な損害は頭の痛い話であろうが。それは、普段ガッポリ儲けている保険会社に泣いてもらうしかなかろう。


「あんな高度から放たれるどでかい鉄球喰らったら間違いなく即死だよなぁ。可能な限り、あの船の砲台の射線軸に入らないようにしないとな。とはいっても、ここでくい止めないと街の方でドンパチしかねない」


「それはまずいにへ。海岸沿いに引き付けられている間はまだ大丈夫にへ。だけど、非戦闘職のいる地域にあの船を向かわせたら、その被害は甚大。いかにこの世界の人間と言えども、非戦闘職の人間に多数の死傷者が出る事は避けられないにへ。………っ本当は、このクラスの大物相手となるとギルドの支援を仰ぎたいところだけど、そんな時間的な余裕も無さそうにへ。あの空飛ぶ馬鹿の注意をボク達に気を引き付けられている間に、ボク達だけで足止めするしかないにへぇっ!」


「カグラとソレイユの判断に同意デスッ!…………っこれ以上先に進まれたら、街が火の海に包まれることになるデスっ。そうなる前に、ボク達だけでなんとか耐えきるしかなさそうデスッ!!」


 上空の船は幸いなことに、カグラ達に注意を引かれている。少なくともそれまでの間は、街に被害が及ぶことはない。


 それにあの空中を飛行する謎の船は、現在は街の人間にも確認されているはずである。つまり、カグラ達が時間を稼げば稼ぐほど、街の人間の避難が容易になるのだ。だから、ここでの足止めは非常に理にかなった作戦である。


「ちなみにだ………。念のために、セレネに確認。あの大砲の直撃を受けて生き残る方法はあるか? 魔法バリア的な物で」


「結論から言うと、アリマセン。仮にソレイユの防御結界を展開したとしテモ、あの規模の質量と高度から落下する鉄球を防ぐことは叶いマセン! つまり、このメンバーの誰も、あんな質量の鉄の球を直撃したら助からないということデスッ!」


「そもそもなんで問答無用で砲弾をぶっ放してきやがるにへっ! 完全に頭おかしいにへ。交渉とか言ってる割に3分しか待たないし…………っ」


 カグラの遥か上空1000メートル地点。自慢の船の、船主の先端で堂々と風を切りながら颯爽と立つ、青年航海者マルコ・ポーロが居た。深々と三角帽トライコーンを被り、右手には仰々しい装飾のついたフリントロックピストルを持つ。年齢こそ若くはあるが、その姿は堂々たるものであった。


 その姿は、冒険者、航海者というよりも、むしろ古き良き時代の海賊を思わせる容姿であった。…………もっともそれを言うならば彼の場合はは空賊であるが。

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