第四章 『レジェンダリー・レイダー』
第四章1 『妖刀遣い千子村正』
「お前は…………っ! 妖刀遣い…………千子村正っ!」
目の前の巨漢の男が刃渡り2メートル程の長大なる刀を振りかざす、彼の名前は千子村正。村正の名前は妖刀として知られているが、この千子村正は伝説の刀工鍛冶師、千子村正本人である。
それが、こうしてこの場にあらわれているという異常。そして、この刀工鍛冶師がただの鍛冶師などではなく、剣豪と呼ばれる英雄達に比肩するほどの技の持ち主であり、更に類まれなる膂力の持ち主であるという現実。だが目の前に居るのだから現状を追認するしかない。
「可可可っ! 面白いぞっ! その飛び礫っ! 最も、我が妖刀の剣域には届かないがなあっ!」
セレネのマシンガンによる弾幕が千子村正に食らいつき離さない。この男が発する剣気がセレネの弾幕をことごとくはじくのだ。剣気が質量を持つというような事は寡聞にして聴いたことがないが、事実としてこの男はそれをこなしているのだから認めるほかないっ!
「にっひひひひっ!
ソレイユが放った火球が一直線に村正に向かって高速で飛んでいくっ!
「可可っ! 小童、そのような面妖なる小手先の妖術は、この千子村正には一切通じぬ物であると知れっ! ぬらあああっ!」
文字通り目にも止まらぬ速度の鮮やかなる居合による剣閃っ! ソレイユの放った火球は、真ん中から綺麗に真っ二つに割れるっ…………。
この千子村正が振るっている長大なる刀は、その長さこそ異形ではあるものの、いわゆる魔剣の類ではない。つまり、反魔法の抵抗力が施されている特別な刀ではない。ただその彼の膂力により生みだされる、強力な剣圧のみで魔法を両断したのであるっ!
「ばーか。ばーか。それはトラップにへぇ。それっ
村正によって真っ二つに斬られた火球が、まさに千子村正の横を通り過ぎようとまさにその瞬間、二つの火球が彼を挟みこむような形で起爆するっ! 故に回避不可能の爆破魔法っ! その爆炎が炸裂する!
「ぐぬぅ…………っやりおるなっ! 面妖なる妖術遣いの小童っ! なかなか面白いがっ! ちぃとばかし熱いぞっ! 可可可っ!」
千子村正が横薙ぎの一閃を繰り出すと、その剣圧により爆炎が消え去り、爆炎の中から、歯を剥き出しにして豪快に笑う一人の男の姿が現れる。モンスターではなく人間が、爆炎に呑まれてなお、生きているという現実…………!
「カグラ! こいつ何者?! めっちゃ強いけど、本当に人間にへぇ?」
「一応…………っそういう事になっているみたいだぜっ! それが、俺の世界で存在した刀工鍛冶師の千子村正と同一人物ならばっ、という前提は付くがなぁ。…………つっても俺が知っているのはコイツが後世に残した妖刀の方で、刀剣鍛冶師としてのこいつの素性をくわしく知っているわけじゃないんだけどなっ! 刀工鍛冶師の千子村正が…………っ! こんな化物のような強さの剣豪だなんていう逸話は、俺の世界のどんな歴史書にも残されていないはずだぜっ! それにしてもあいつがまとう剣圧、あれがセレネの弾幕を無効化しやがる。……………それにしても、この2メートルという刃渡りは厄介だっ! 俺の一撃必殺の攻勢防御結界の範囲外からの攻撃っ! っそれにこいつの懐に潜り込んでの真剣白刃取りはちょいとばかり分の悪い賭けだぜっ! 当たれば即死だ、とんでもなく戦い辛いぜっ!」
「…………該当する伝承に存在する刀剣をサーチ…………っデータベース照会中…………2メートルの刃渡りを裕に超える実戦用の日本刀……………2件ヒットっ!……………佐々木小次郎が使用したという逸話のある物干し竿と呼ばれる刀剣…………っ!もう一つは、歩兵が騎馬武者に斬りかかる際に用いた斬馬刀クラスの日本刀デスッ! そしてあの千子村正が振り回している刀は、その2件の形状と同一の物ではないデスッ! つまりはあれは、彼のオリジナル…………っ!」
徒手空拳と異能による攻勢反撃結界を切り札とするカグラにとっては、あまりに相性の悪い相手である。だが、カグラにはもう一つの特異武器があるっ!
「ぬあああありゃあああああああああああっ!!!!!!」
カグラは、その長大なる刀の横薙ぎの一閃が振るわれた瞬間に、スライディングにて地面を滑り込み、その横薙ぎの一閃を潜り、その潜り込んだ下からソードオフの引き金を引く。ガチリッという確かな手ごたえを感じた刹那、ソードオフが火を噴くっ! 弾丸は散弾式を使用。弾丸が千子村正に着弾した途端、脇腹が爆ぜ飛ぶっ! 皮膚と肉が爆ぜ飛ぶ。
「可可可っ! 小僧、なかなかやってくれるではないかあ。ふむふむ、長い人生の中で己が臓腑を見たのは、これが初めての経験であるぞ。 これは何とも得難い経験であるなあっ! 可可ごふっ! これぞ背水の陣っ! うむ面白いっ! 面白いぞおっ!! 愉快なる哉っ!」
「ふざけた強がりをッ…………死ぬのデスッ! アディオスッ! 千子村正っ!」
千子村正の剣気にほころびが生じ、彼の剣気によって阻まれていたセレネのマシンガンによる弾幕が千子村正を貫いたっ!
「…………えっ!?…………なんデス…………っ…………」
「可可可。今のは峰打ちだっ! まあ、もっとも、我の峰打ちを喰らって生きていた者は今まで一人もおらんかったがなぁっ!! 可可可ぁ!」
セレネが撃ち抜いたと思った千子村正は残像。そして、それに気づいた時にはもう既に遅い。セレネの目の前に千子村正が峰打ちと称する、殺人技によってセレネを力任せに殴打し、その一撃により完全にセレネは戦闘不能に陥らされていた。
当然のことであるが、長大な鉄の棒切れを怪力無双の男にフルスイングでぶつけられて生きていられる人間などはいないのだ!
カグラ、セレネ、ソレイユの闘いの基本の闘い方は、セレネのデータリンクと情報解析に依存した戦闘スタイルである。故に、戦闘の司令塔であるセレネが落とされた今かなりの境地に立たされている。
セレネは地形データ及び、敵の情報を多面的に解析し、更に、常軌を逸した動体視力で敵を追尾し続け、ソレイユが魔術式を展開する予測座標をデータリンクにて共有する。
そして、近接特化型のカグラが敵の間合いに入るための足止めもセレネが行う。彼女無しでは、近接特化のカグラと、遠距離かつ詠唱に時間のかかるソレイユの戦力は激減すると言っていい。
現実点の戦力を整理すると、ソレイユの動体視力では高速で動く物体に対して正確な軌道を読み魔法の詠唱を行うことができないため、魔法の使用は不可能。つまりこの戦闘における、実質的な戦力は、今やカグラ一人になるという事っ!
「ふむぅ。大将を討ち取ったりいっと勝鬨を挙げても良いのかな? あの面妖なるからくり人形が、小僧共の大将だったのだろぅ?」
この千子村正は見た目の豪快さに騙されそうになるが、いわゆる狂戦士の類ではない………。戦闘中に、冷徹なまでに3人の役割と機能と限界を冷静に分析し、最優先で倒すべき相手を見極めて真っ先に大将の首を落とす。
「はん! なかなか戦場を良く見ているじゃねぇかっ! ただの脳筋の剣士かと思えば頭も回るとは、本当お前は厄介だよっ! 確かに、セレネあいつは俺たちの司令塔さぁ。だが、貴様の言ったからくり人形等と言う言葉は、訂正してもらう必要があるぜっ! そのための仕置きが必要そうだなあっ!」
「ほう…………っ面白い。先程の我が大太刀を潜る、その胆力には正直驚かされたが、あのような奇跡が二度も通じるとは思うなよ。小僧」
「勝負は一瞬で付く…………っ行くぞっ! 千子村正あぁああああっ!!!」
カグラは千子村正に向かって一直線に駆けるっ! 3メートル…………まだ刀の剣域のアウトレンジ…………2メートル20cmまだ行けるっ!
2メートル剣域。そして死域に入る、刹那、居合による抜刀。………攻勢反撃結界が展開…………カグラの体が淡い光に包まれる…………距離が離れているため、その威力を最大限発揮することは不可能。だが、今のカグラにはそれで充分っ!
「神楽流、真剣白刃取り”
通常の状態のカグラなら千子村正のような本物の剣豪の太刀を素手で受け止めることなど叶わない。だが、この異能である攻勢反撃結界の範囲内なら別だっ!
「…………っなっ! 小僧っ!」
「
真剣白刃取りで掴んだ刀をそのまま持ち上げ、その刀と相手ごとを持ち上げ、地面にまるで大槌を叩き付けるように振り下ろす力任せの白刃取りとの連携技っ!
それが今発現されるっ! もっとも、この技は現実の神楽流には存在しない、カグラが生みだした、異能の発動を前提とした応用技である。
千子村正は、地面に頭蓋をしたたかに打ちつけ意識を失ったようだ。かなり危うい勝負ではあったが、これにて決着である。
「やっべぇ敵だったぜ…………っ! セレネは大丈夫か? ソレイユ回復術式の展開を頼むぜっ! 俺はこいつをガッチガチにふん縛っておくからよ!」
「了解にへぇっ!」
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