短編?掌編?とりあえず書いてみようと

奏夜

モノクロのみかん

あの日からしばらく経つけれど、私は今だに受け入れられていません。

今日も朝からあなたの部屋の扉を開けます。

今となってはもう生活感のない、それでいてまだ微かにあなたの匂いが残る、そんな部屋。


「あなた、今日も1日頑張ってきます」


そう言って部屋を出ると、今日も変わらず世界は回っている。

その流れに身を任せて働き、帰りにはみかんを買って帰る。


「あっ純ちゃん!今日のみかんも良いのがいっぱいだよ。いくつにしようか」

商店街のおばちゃんのはつらつとした声が聞こえてきた。

「1つでお願いします」

私が答えると、おばちゃんはとびきりの笑顔で頷く。

「はいよ!また明日も待ってるからねっ」

いつもと変わらないやり取りに思わず涙が出そうになる。

みかんを受け取って帰宅し、あなたの部屋へ行く。

あなたの写真の前の手つかずのみかんを入れ替えてあなたとの生活を思い出す。


みかんが大好きだったあなた。あまりにもたくさん食べるものだから、1日1つまでというルールを作りましたね。

それでもあなたは朝と夜で1日2つのみかんを食べ続けましたね。

「食べないでくださいね」

そういう私に笑いながらみかんを食べていました。

でも、もうみかんが食べられることはありません。


「いつものように、食べないで下さいと言います。だからお願いです。もう一度だけでいいから……」

笑顔で食べてください。

この言葉は出てこず、代わりに涙が落ちた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

短編?掌編?とりあえず書いてみようと 奏夜 @ka-ma

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ