第7話
きょうは春樹君が遊びにきてくれた。
明るく元気で、そして何より素直ないい子だ。
せっせと物語を紡いでいるらしい。
ひとつ書いていると別のものを書きたくなると言っていたが、それはよくあることだ。別のものは創作ノートなりにメモしておいて、取り掛かったひとつを完成させなさいと言ったが、その意味がわかり、実践しているだろうか。
わたしの若い頃には若書きはいけないなどという風潮があった。
すかすかの作品を書くぐらいならば、人生の経験を積めということだろうが、やはり時代は変わる。
時代がどれだけ変わろうと、己の呼吸を忘れないこと。
それを地道に続けていれば、時代の息吹と己の呼吸とが、呼応するときが来るはずだ。
もっともわたしにはその体験はない。
と言うのも、己の呼吸を正しく行うことすらできなかった阿呆であったからだ。 春樹君にはぜひ己を貫いてもらいたい。
そう言えば、夕方金魚がぱらぱらと降った。
なんでも名古屋で触蛾が起こったらしい。
直径二キロの範囲の町が消えたとのことだ。
これだけネットが普及しているのに、触蛾のシーンの動画も流れず、町が消えた風景の動画すら流れない。
国際サイバー警察はその職権をどんどん強化していっているようだ。
大衆には知らしてよい情報しか与えない。
しかしその情報だけでも多岐にわたり、あまり深く考えなければ、毎日の生活は楽しく過ごせる。
そしてそのポジションを好む者が圧倒的に多い。
だからこそ、本当に知らねばならないものは隠され続けるのだが。
レターパックで、かすみちゃんの書いた小説が届いた。
手渡しできるのに、あえて郵便を使うところがかすみちゃんらしい。
わたしのことを師匠と思ってくれているようだが、わたしにはそんな能力はない。別のしかるべきところに投稿するように勧めているのに、いまだにわたしに送ってくる。
もっとも師匠という、わたしの分を超えたかすみちゃんからの思いを除けば、かすみちゃんの小説が届くのは楽しみだ。
彼女の文章には色彩がある。華がある。読むのが楽しい。
まだまだ荒削りだけど、言いたい何かをしっかりと持っている。
このまま続けていけば、きっと世界の方が彼女を求めるようになるだろう。
さて、ひとっ風呂あびてから、かすみちゃんの新作を読むことにするか。
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